大切にしたい
「旦那あ、彼女へのプレゼントですかい?」
「違う、いや、そうだ」
彼女と言われると少し違う気がしたが、結婚するのだから恋人で間違いないのだと思う。
ラドラスが目に留まった品に手を伸ばすと、店主は紙袋を出しながら、笑った。
「いったい、そりゃ、どっちなんですかい?」
「はは、彼女へのプレゼントだ」
「そりゃ、彼女も喜びますな」
「いくらだ?」
「まけときますよ」
五本立てていた指の一本を、すぐに折った。
市場の中央にあるこの店には、ラドラスはニルヴァへの贈り物を買いに、よく来ていた。店主も最初は赤髪の王子の来店に驚いていたのだが、ラドラスが上客であったことと、その人懐っこさにほだされて、最近では気楽に会話のできる間柄となっている。
「この中に指輪を入れたいのだが……」
手にしていたジュエリーボックスを店主に手渡し、ラドラスはポケットから紙幣を出した。
「そりゃいい考えですねえ」
「……ちょっと待ってくれ」
紙袋を差し出してくるのを手で制した。ラドラスの視線の先には、色とりどりの宝石がついた、小ぶりなジュエリーボックスがある。
「これがいいな」
手を伸ばして取る。少し重みはあったが、蓋を開けると蓋の裏には鏡が施されていた。
(蓋を開けるたびに、ニルヴァの青い瞳が映るのか……)
ラドラスはそれが気に入って、店主に差し出した。
「これと交換してくれ」
店主はそれを受け取ると、「いやあ、これだと値段も倍になっちまいますよ」
紙袋を開けて中の小箱を取り出す。
気に入った商品とこうして並べて比較してしまうと、やはり宝石がついている方が豪華に見え、ラドラスは指をさした。
「倍の値段でもいい。こちらをくれ」
ただ、ラドラスは宝石がついて豪華なのが気に入ったのではない。蓋の裏に鏡がついているところが良いと思ったのだ。
ニルヴァの青い瞳を映す鏡。どれほど、美しいだろうと思う。想像するだけで、ラドラスの胸は熱くなった。
同じ店でダイヤのリングも購入し、その中へそっとそれを忍び込ませた。ダイヤは大きいもので透明度の高いものを選んだ。高額すぎる値段に苦笑したが、ラドラスはそれを支払い、足取り軽やかに城へと帰った。
(ニルヴァはお姫さまだからな。これくらいのものは身につけてもおかしくはない。これなら結婚式でつけても見劣りはするまい)
紙袋には、婚約指輪が入っている。
(ニルヴァは俺が幸せにする)
つまはじきにあいながらも懸命に生きてきたニルヴァを想う。
「もう、悲しい目には絶対に遭わせない。甘やかして、大切にして、そして……」
————いつも笑っていられるように。
ラドラスは紙袋を小脇に抱えると、城の中庭を横切っていった。




