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宝石とドレス


「ご結婚をされるというのに、どうしてご一緒に食事をされないのですか?」


侍女のカレンが、ティーポットから紅茶を注ぎながら聞いた。


最近、ラドラスから前のような暴力的な要素が抜けて、時折ではあるが優しさまで垣間見えることに安心したカレンは、もう一度問うた。


「なぜ、別々にお食事を取る必要が?」


カレンの言い草から、食事の用意を二度やらねばならぬのを、面倒臭く思っているのが手に取るようにわかる。ラドラスは苦く笑うだけで、何も答えなかった。


淹れてもらった紅茶を手前に引き寄せると、カップを取って口に運ぶ。


味も匂いも興味はないが、こうして紅茶をゆっくり飲めば、気持ちも落ち着くような気がして、ラドラスはほうっと息を吐いた。


(俺と一緒では、食った気もしないだろう)


胸の内で思うが、決して口にはしない。ラドラスは胸の中に、こうして仕舞い込むよう、心掛けた。


以前のように、すぐには口にしない。


一呼吸置いてから発言するようにすれば、暴力的な言葉はその時点で排除できる。


「おい、ラドラスー、お前結婚するからって、女の尻に敷かれるんじゃねえぞ」


「婚約者などほっといて遊びに行こうぜっ」


そう囃し立てていた悪友たちとはいつしか距離を置き、なるべく付き合わないようにしていると、次第に悪い仲間は離れていった。時々、街の市場に出向くくらいで、今ではほぼ城の中で時間を潰し、どこかに出かけるのも稀になった。


「なあ、カレン。女は何を貰うと喜ぶのだ?」


ティーポットをトレーに乗せ、ポットの中に湯を足しにいこうとしたカレンに、ラドラスが声を掛ける。


「はあ、何をって……宝石やドレスなんかいただければ、そりゃあ嬉しいですよ」


「それはもうやったのだ」


ラドラスは、何かの理由をつけてはたくさんのドレスや宝石を、ニルヴァに贈っていた。が、ニルヴァの部屋へと行くと、宝石やドレスが入った箱が、手付かずのまま積まれている。


「ラドラス様、お気持ちは嬉しいのですが……」


その時の、ニルヴァの表情。困ったように、眉根を寄せている。


「こ、これは、盗んできたものではないぞ。ちゃんと俺の金で買ったものだ」


「いえ、そういうことでは……」


「では、なにが不満なんだっ」


「不満などでは、」


「兄上に貰ったものは、……あのベールは喜んで、つけていたじゃねえかっっ」


大きな声が上がり、部屋中に響き渡った。


はっとした。


ニルヴァが、身を縮こまらせている。青色の瞳は、伏せられた睫毛で半分ほど隠れている。その半分が、自分を前にしていると、濁っているように見えて仕方がないのだ。


(一体、何を贈ったら、ニルヴァは喜ぶんだ)


ぐっと、心臓を掴まれるような痛みがある。


「もういいっ」


苦しい胸を抱えて言い放つと、ラドラスはニルヴァの部屋を後にした。


その時のことを思い出す。今はもう、ドアをバシンと強く閉めてしまった羞恥の念と、苦味しか湧いてこない。


「あまり、その、なんだ、嬉しそうではなかった……」


「突っ返されたんですか?」


「いや、そういう訳ではない」


「だったら、嬉しいはずですよ。宝石やドレスを貰って、嬉しくない女はいませんよ」


「そうなのか?」


「はい」


カレンがラドラスに近づいてくる。ラドラスの肩に手を乗せると、耳元に口を寄せ、囁きかけた。


「ラドラス様、そんなにうまくいってないのでしたら、私がまたお相手になりますから」


「カレン、」


カレンとは二度、夜を共にしていたこともあり、ラドラスも自分を恐れて近づきもしない他の侍女よりは、心を許していたところがある。


「カレン、俺はもう……」


「ですから、ラドラス様。私にもご褒美をくださいな」


呆れた女だと思ったが、自分から誘った過去もあり、無下にはできない。


「もちろん、ニルヴァ様には内緒にしますし、もし私で良ければ、ニルヴァ様の気持ちをラドラス様へと向ける方法も、教えて差し上げますよ」


「本当か?」


「はい、もちろんでございます」


「ならば、お前にも宝石を用意する」


カレンは下卑た笑顔を浮かべたが、ニルヴァに近づく道を必死に模索するラドラスには見えなかった。



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