青い宝石
「おい、ラドラス。そりゃないだろう。俺たち、仲間だろ」
「うるせえ」
「独り占めなんて、クソヤロウのすることだぞ」
「俺が最初に見つけたんだから、俺のものだ」
馬の背に女を無理矢理跨がせて、揺れる身体を手綱を取った腕で支えながら、ラドラスは女を抱きかかえて馬の腹を両足で蹴った。
(……細っせえな)
馬に乗せようとした時に抱き上げた女の身体が軽く、それだけでラドラスは落胆した。
(こんな細い身体を抱いても、美味しくねえだろうな……でも、まあいい)
馬が、そろそろと歩みを進める。
その背が揺れるたび、女の身体が崩れ落ちそうになり、ラドラスはそれを抱え直しながら、手綱を右へ左へと扱った。
あの森の中で、女を捕まえた時。
気を失って今にも閉じられていく女の眼には、青の宝石がはまっていた。
「……こ、これ、は、」
絶句してしまった。息を呑んだのだ。
(……こんな色の眼、見たことない、)
さらに顔を見ようとフードをそっと避ける。
今までに一度も見たこともなく、もちろん触れたこともないものが、そこには存在していた。
フードを埋め尽くす、豊かな銀髪。
その色は陽の光が届かない森の中では、くすんだ灰色に見えなくはない。けれど、陽の元ならば、それは輝きを放つだろうと容易にわかるものだった。
そして、その頬。滑らかな、白い肌。透き通っていて、思わず吸い込まれそうになった。
(な、んだ、この、肌)
赤髪で褐色肌の自分とは、何もかもが違う。もちろん、この国の多くの国民が持つ、黒髪に黒い瞳とも、また違う。
フードをよけている手で、そっと頬を触ろうとした、その時。
皮膚の薄いまぶたがぴくっと一瞬痙攣し、そして、すうっと目が開いた。
もう一度、視界に飛び込んできた、クリアな青色の瞳。その奥には、複雑な文様が浮かび上がっており、ラドラスの視線はその瞳に釘づけになった。
ごくっと喉が鳴り、我に返る。
「おい、ラドラス?」
仲間に名前を呼ばれて、ラドラスは慌ててフードを被せ直した。女を抱き上げるとすぐに、馬を繋いでいる墓場へ向かって歩き出す。
「この女は俺が最初に見つけたんだ。俺がもらう」
「おい、ラドラス、マジか」
「なあ、ちょっとくらい味見させてくれたっていいだろう? 順番を譲ってやってもいい。お前の後でいいからよ」
「なあ、俺らいつも、女も分けあってきただろー?」
ラドラスの遊び仲間である二人が文句を垂れながら、後ろを渋々ついてくる。
「お前らには悪いが、この女は俺のものだ」
そう言い放ってから女を馬に軽々と乗せ、ラドラスは城へと戻った。