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後悔のその先


次の日の昼間、意を決して、トラウルの城へと足を運んだ。


陽気のいい日で、なぜか寄り道をしたくなり、城の花畑の方に足が向いた。


いや、まだ怒り心頭であろう兄王の元へ行きたくないだけで、そんな狭量の自分が情けなかったが、ラドラスは太陽の光と気持ちの良い風に背中を押され、花畑へと続くあぜ道を歩いていった。


その時、花畑の中に人影が見え、ラドラスの胸を打った。


(あ、ニルヴァ……)


足を止めて、その人影を見る。座り込んで背中を向けていても、花を摘んでいるということは、その動きで容易にわかる。


背中にかかる、銀色の髪。風に揺れては、元に戻り、そしてまた揺れる。その度に、きらきらと光り、ラドラスはその眩しさに目を細めた。


もしかしたらニルヴァもこの銀髪や青色の瞳のせいで、孤独な生活を送っていたのかも知れない。そう思うと、その背中がより一層か細く、頼りなげに見えてくる。自分が後ろから抱きしめたら、その体温も温かくなるだろうか。


そんなことをぼうっと考えていると、ふいにニルヴァが立ち上がって振り向いた。


驚いてしまい、慌てて声を掛ける。


「は、花はもう良いのか?」


手にいっぱいの花束を見れば、もう持てないということはわかるというのに。


咄嗟だったので、バカな質問をしたと思った。気恥ずかしくなり、頭でも掻きたい気持ちになったが、ニルヴァの顔色がみるみるその色を失っていくのに気づいて、ラドラスの胸は痛んだ。


(ああ、……やはり俺は、嫌われている)


持っていた花束をぽろぽろと落としていくほど、その身体は震え、その場に立ち尽くしている。以前、ニルヴァをひ弱なウサギのようだと揶揄したが、まるで本当に自分が小さな獲物を狙う猛獣にでもなったような気がして、ラドラスは握っていた拳を解いた。


いつもなら、握った拳で男女構わず相手を容赦なく殴っていただろう。握った拳を解くことなんて、今までに一度もなかったのだ。


「そんなに怯えるな」


言葉で言っても、通じるはずがない。猛獣の前の獲物は、恐怖で震えるのみ、だ。


落ちた花を拾い、ようやく真っ直ぐニルヴァの顔を見た。血の気を失って真っ白ではあるが、前より頬はふっくらとなり、トラウルがその健康管理に努めていることに思い至った。


(大事な、お姫さまだもんな)


伏せられた睫毛で、青い瞳がよく見えない。あの宝石を久し振りに見たいという衝動に駆られて、ラドラスは今一歩、近づいた。


「元気そうだな。顔色が良い……」


ラドラスが手を伸ばして、その頬に触れようとした時。


ひっと小さな悲鳴が喉で鳴ったのを、頭のどこかで聞いた。


「危ねえっっ」


後ろへと倒れそうになるのを抱きしめると、ニルヴァの銀髪から甘い香りがラドラスの鼻孔から脳へと入り、何かを揺さぶった。


(ニルヴァ、)


けれど。


ニルヴァは、消え入りそうな弱々しい声で、助けてと言った。助けて、トラウル様、と。


横っ面を叩かれたような衝撃。その衝撃で、伸ばしていた手を、思わず引っ込めた。


(そうか、お前も、……兄上、か)


堪らない気持ちになり、踵を返してその場を離れた。


(そりゃそうだ。俺はあんな酷えことしか……)


ニルヴァの内出血の跡。青痣だらけの細い腕。


もともと力は強い方だが、そんなことは御構い無しでニルヴァを好きにした。


自分がやった所業に吐き気が上がってきて、ラドラスは口元を手で押さえた。早歩きの足を止めることなく、トラウルの城ではなく、自分の城へと戻る。


長い長い小道が、永遠に続くような気がして、ラドラスは一層吐き気をもよおした。



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