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平凡な世界の異色な一行  作者: 蛍月
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一章 愉快な仲間と愉快じゃない俺 一節

 俺の名前はアレックス。勇者だ。

 ……いや、この自己紹介には語弊がある。確かに勇者の血を引いてはいるらしいが、俺自身が特別強いとかそういった事はない。

 血を引いている“らしい”と言うのも、俺自身はっきりしないのでそう言わざるを得ないからだ。なんでも、俺の爺さんの爺さんはかの「人魔大戦」――人を統べる者と魔を統べる者と、っていうアレだ――の最前線で戦った勇者たちの一人だったそうで、家に日記らしき物が残されていた。真贋は知ったこっちゃないが、作り物にしては完成度があまりにも高いので、一応ある程度信じている。

 さっきも言ったが、俺自身は特別強いとか何か持ってるとかそういうこともなく、職業(クラス)適性も野伏(レンジャー)が一番高かったのでそれに甘んじている。冒険者としても並で、魔物討伐から物資調達に運搬、護衛まで手広くこなして報酬と信用を稼ぐ日々だ。

 平々凡々ながら割と平和な冒険者稼業を送っていると、同じく冒険者の連中からはこんな事を言われる――曰く、遺跡探索とか魔族諸侯討伐とかに興味は無いのか、と。

 全く興味が無いと言えば嘘になる。そりゃ俺だって男の子(二十六歳独身)だ、ロマンを求めたい気持ちだってある。だが無理や無茶はしたくない、多少の危険と実入りを伴う冒険を行うには不足している物がある。

 それは俺の実力だけではなく……悲しいかな、パーティ編成が偏っているのだ。

 まず、リーダー……と言うか何と言うか、まあパーティの発起人は野伏の俺。野伏は狩人(ハンター)斥候(スカウト)の合いの子みたいなもので、偵察や工作、戦闘がある程度バランスよくこなせる職業だ。……便利屋だの器用貧乏だのとはよく言われるが。

 他に居るのは現状三人で――

「やや!アレックス殿如何なされました!何やら辛気臭い空気が漂っていますぞ!」

 この騒がしいのが薬医師(メディック)のダイゴロウ。肉付きは薄いが健康的な肌色の頭を綺麗に剃り上げ、笑顔の口元から覗く白い歯も相まって色んな意味で眩しい。独特な文化を持つ西方の出身らしく、服装も前が完全に開いたローブをサッシュで締めるものだ。

 薬医師はその名の通り薬による治療を得意とし、神官(プリースト)と違い霊術の類は用いない。そのため即効性に欠けると思われがちだが、彼らの医療技術や薬剤には霊術に匹敵するだけの効能があり、中々侮れない。

「ホントだー。アレクちゃん、そんな暗い顔してたら幸せ逃げちゃうよ、ため息の数だけ」

「勇者様……御加減でも、優れないのでしょうか……」

 ちゃん付けで呼んできたのは術戦士(エンチャンター)のブリギッタ。風になびく長い黒髪と、しなやかな褐色の肢体が艶かしい。彼女は元踊り子で、今でも服装は下着同然の着衣と透け感のある薄布を組み合わせた舞台衣装を常用している。……外套を羽織っているとは言え、嫁入り前の娘が何て格好を。

 術戦士は戦士(ファイター)魔術師(ウィザード)を組み合わせた職業で、遠近共に戦闘をこなせる便利な――野伏と同じく器用貧乏でもある――職業と言える。纏術により武器に魔術を纏わせる事もできる。

 一方、俺を「勇者様」と呼んだのはブリギッタの姉のコーデリア。姉と言っても血は繋がっておらず、姉妹同然に過ごしてきたというだけらしい。見た目もこちらはやや色白な肌に透き通るような銀髪、すらりとした手脚と対照的。なお服装は妹と似通っており、起伏は若干控え目ながら何ともまあ……うん。

 問題は彼女の職業が不明な点だろうか。戦闘になると周囲の水や木々などが、意思を持つかのように攻撃を行う。だが、そんな術は聞いたことがない。一番近いのは精霊使い(エレメンタラー)だが、彼女の場合は精霊と言うより、周囲の環境そのものが動いているような感じだ。一応、仮に風水使い(ジオマンサー)と呼んでいる。

「いやスマン、考え事をな。近頃は討伐系の依頼(クエスト)も増えてるし、パーティバランスをだな……」

 他二人はとにかくコーデリアは本当に心配そうに顔を覗き込んで来るので、素直に答える。するとうんうんと頷きながら、ダイゴロウが引き継いだ。

「あいや、心中お察し致しますぞアレックス殿。如何せん、このパーティには不足しているものがあります故」

 そう。野伏は中衛、薬医師と風水使いは後衛。術戦士を前衛に持ってきたとしても――

「――やはり、この先料理人(コック)が必要かと!」

 自信たっぷりに言い放つダイゴロウの頬を全力で引っ張る。筋張っているかと思ったが中々良い伸び具合だ。

「おひゃひぇふひゃひゃへあひぇっひゅひゅほひょぉ」

「お前が今のを本気で言ってるなら辞めん、絶対に辞めん」

「ま、まあまあアレクちゃん。アタシ達は分かってるから大丈夫よ、つまり前衛が足りてないのよね?」

「……ダメージソース、或いは盾役として……前衛が薄いのは、致命的……」

 姉妹の言葉が良くも悪くも胃に染みる。今のパーティ編成では、討伐系の依頼や戦闘を伴う探索などではいずれ最悪の結末を迎えかねない。だというのに有望な人材を中々見つけられないのは、やはりパーティの中心たる俺にも責任がある訳で。

「むむ、アレックス殿の悩みは拙者の悩み!さらば拙者にお任せあれ、必ず有望な人材を見つけて参りましょう!」

 そうなんだよなあ、と頭を抱えているうちに、俺から頬を解放されたダイゴロウがびしりと親指を立てて走って行く。いや、お前に任せるのが一番不安なんだが。

「……はあ」

 だから幸せが逃げちゃうわよー、と頬をつついてくるブリギッタを振り払う気にもなれず、俺は力無くダイゴロウを見送ったのだった。

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