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平凡な世界の異色な一行  作者: 蛍月
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序章

 この世界では、かつて人を統べる者と魔を統べる者とで、大きな戦いがあったらしい。

 らしいというのは、伝聞或いは叙事詩でそう伝わっているだけで、誰が本当の事を知っている者かが――そもそも、本当の事を知っている者が居るかどうかすら、よく判っていないからだ。

 それでも、この世界にはそれらしい痕跡がいくつもある。

 誰が住んでいたのか分からない廃墟。

 いつからあったのか分からない洞窟。

 どこで作られたのか分からない乗り物。

 何を弔ったのか分からない墓。

 何故あるのかも分からない遺物(アーティファクト)

 そして――何のために生きるのか分からない、魔物。

 それらを探求し、或いは蒐集し、もしくは抹消するべく、いつしか冒険者なる者がこの世界に生まれた。いや、冒険者は元々存在したのかも知れない。誰かが、いつからか、どこかで、何かを為すために。


 今を生きる冒険者達には、そんな昔の事に思いを馳せる者は少ない。目の前に溢れる冒険(ロマン)を追いかけるのに、多くは心を奪われていたし――そうでもない者は、自らの抱える問題に心を痛めていた。ある者は今日の寝床に、ある者は明日の食事に、ある者は未来永劫返済の目処の立たない負債に。

 いずれにせよ、冒険者達にとって重要であることは「今を生きる」ことであった。過去の伝説にも、未来の予見にも大した意味は無い。日々の糧を得て、冒険心を満たし、ついでにちょっとした富や名声を得られれば、まずは冒険者たる意義は満たされるのだから。

 それで、十分なのだ――人によっては「それでいっぱいいっぱい」という表現になるだけで。


 ◇◆◇


 冒険者ギルドには、今日も多くの人が集まっていた。

 依頼を申請しに来た住人、依頼を探しに来た冒険者、冒険者のフリをして屯する浮浪者(ホームレス)からそれを取り締まりに来た憲兵まで、顔ぶれも目的も様々だった。

「――はい、登録は完了です。これで貴方も、今日から冒険者ですよ」

「……感謝する」

 書類を確認した受付係の女性がカウンターの中から小さな包みを取り出すと、静かに頷く男性へその中身を手渡す。それは女性の手のひらにも収まりそうなサイズの、楕円形の金属――軽いが、堅牢な材質のようだ――だった。

「こちらは支給品の識別標入れ(ロケット)です。ただいま識別表をお作りしますので、少々お待ちくださいね」

「承知した」

 男性はもう一つ頷くと、手渡された識別標入れをしげしげと眺めていた。精悍な体つきとごつい手指に似合わず、識別標入れを扱う手つきは慎重で繊細だった。

「やや、失礼!そこな逞しい御仁!」

 男性の背後から、気さくな――芝居がかった雰囲気すら感じる――声がかかる。声の主は、独特な形状の法衣(ローブ)とスキンヘッド、いかにもお人好しくさい笑顔と特徴だらけでむしろ怪しい男性だった。

「……私か」

「いかにも!拙者、我がパーティのリーダーより人探しを仰せつかっておりまして!貴殿は見たところ、冒険者として登録したてにて、右も左もといったご様子…よろしければ、パーティへの参入を前提にお話など如何でしょうか!」

 二人のやり取り(もとい、妙な口説き方の怪しい男)を遠巻きに眺めていた人々は、何だありゃヤバい奴だろ誰か助けに行けよやだよ巻き込まれたくねえよ、と勝手な事をひそひそ話していたが、

「……表の喫茶店でどうだ」

乗り気かよ!と一斉に心の中でツッコミを入れた。


 ややあって。

 逞しい男性と怪しいスキンヘッドが、テラス席で甘い焼き菓子をお供にお茶をしてる光景は、何とも違和感のある光景としてしばらく街の噂となったのだった。

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