廃城で! レクチャー!
エバがメーロンの腰を治して三日が経過した。時計も窓もないこの部屋で、なぜ時間がわかるのかといえば、エバが教えてくれるからだった。……なぜか、12時とか3時とか食事の時間だけを伝えてくるのは、気になったが時間がわかるというのは気持ち的にも非常に助かる。
治したばかりだと、再発の危険性があるとのことで、こんなに待たされてしまったのだ。
しかしその間に、この世界の常識やら道具やら文明やらをエバに教えてもらい、ある程度把握することができた。
この世界、ミトランシェの人々は、昔から竜や獣を狩って暮らしていたらしい。獣を狩るのはあくまでも生活のためだが、竜を狩ることには、一人前の狩人としての試練であったり、何らかの儀式であったりと、特別な意味を持つことが多い。そうして、竜の鱗や爪を使って、さらに狩りに適した武器を作るのがこの世界の伝統のようだ。
それと、魔法。この世界は、俺の世界にはなかった魔法が存在している。その原理はいまだにわかっていないそうだが、俺がどれだけ試しても魔法を出せなかったことから、この世界の人類にはそもそも魔法を放つための器官が備わっているのかもしれない。
しかし、俺でも魔法を使う方法はあるらしい。それが魔晶石と呼ばれるもので、これは竜の体内から発見されることが多いそうだ。どうやら、何らかの鉱石や、植物が竜の体内で固まり、魔力をもった石になるらしい。エバの胸についている水晶も、その魔導石であり、彼女を動かすためのエネルギー源になっている。どうも、日光や、月の光でもエネルギーを補給できるらしい。
さらにもう一つ、この世界には、俺たちのような人のほかにも言葉を話せる種族がいるそうだ。
それが竜人族。卵生といって、卵を産む種族だそうで、人との交配はできない。よって、今の人口減少を打開する方法にはなりえないんだそうだ。まぁ角とか翼とか生えているらしいし、よっぽどの特殊な性癖じゃなければそんな種族に手を出したりはしないだろうけどな。
「腰はもういいか?」
目の前で、元気に屈伸しているメーロンに尋ねた。見た感じは元気そうだが、それなりに歳もいっているようだし大丈夫だろうか?
備蓄してあった食料も底をつきそうだし、何より日の光が入らないこんな場所からさっさと出たいのだが。
それにエバだって、せっかく起動したのにまた眠ることになったら手間だ。
「うむ!バッチグーじゃよ!」
「あまり無理な運動は控えてくださいね。あくまでも異常を治したに過ぎないので、老体ではまた再発する可能性があります」
元の状態以上には回復しないってことか。まぁ、言われてみればその通りだな。
ふと、今更ながら彼女たちと普通に会話できていることが疑問に思えてきた。
違う世界で日本語が使われているなんてありえるのか? でも、当たり前のように会話できているしなぁ。
「それにしても二人とも、妙に日本語がうまいな」
「ニホンゴ、とはなんですか?」
エバの言葉に、一瞬空気が凍りついた。
日本語が、わからない?
「は? 何って、今お前らが話している言葉だろ?」
「なーにを言っとるんじゃお主は。これは、この世界の公用語、ミトランシェ語じゃろうが」
「ええ、俺はそんな言葉知らないぞ」
異世界なのだから知るはずがない。でもどう考えても日本語にしか聞こえないんだが。
「ムサシ、これは読めますか?」
エバが、石の壁に文字を映し出した。
そこには、象形文字のような変な記号が二つ、並んでいた。エバが入っていたカプセルによくにている文字だ。
当然、俺にはそんな文字は読めない。
「いや、読めん」
「これはエバと書いてあります」
「話せるのに文字は読めんとは、どういうことかのぅ」
「伝承によると、異世界から召喚されたものは不思議な力を持つといわれていますし、話せるのもその力によるものなのでしょうか」
え、なにそれ初耳なんだけど。つまり今の俺は、隠された真の力が眠っているってことなのか!
もしかして、手からこう……かめはめ的な波がでたり、でっかい刀を出現させたり、分身できたりするのだろうか。
イメージ的には週間少年ほにゃららな感じがいいな!
「おお、なんかそれ、すごくいいな」
「お主が何を想像しとるかわからんが、エバ。お主の力でこやつの能力を判定できんかのぉ。今後戦闘になった時、どんな能力を持っているのかわからんと戦いずらくてしょうがないわい」
「可能です」
「エバに、そんなことができるのか?」
メーロンは、立派な顎髭を撫でながらうなずいた。
「うむ、そもそもこの子は、戦闘能力はほとんどない。いずれは人々の生活に役立てられるように、索敵、回復、記録などの機能を特化させてあるからの」
「でも、ここを襲った竜を倒すために作られたんだろ? 矛盾している気がするんだけど」
「いやいやそんなことはない。古来より竜を狩るときは、まず竜の習性や行動基準を調べ、綿密に策を練ってから行われるものじゃからの。かつては、口伝や文献などをもとにそういった作戦をたてていたんじゃがの。より効率化を図るためにこの子を作ったんじゃ」
「それなら、一撃で竜を倒せるようなものを作ったほうが早かったんじゃないか?」
「そんなもんできるならとっくに作っとるわ!」
た、確かに……。それができたら苦労はしないよな……。
「そりゃそうか……。エバが、人みたいな姿なのもその、人の生活に取り入れるためなのか?」
「うむ、というかお主、エバの性格をデフォルトのままにしとるようじゃが、変更はしないのか?」
「え、性格変えられるの?」
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