神隠しの砂漠で! ロートル奮起!
「え、なんで……?」
「んむぅぅ! むぅぅぅ!!」
俺の下で、エルアが何か言っているが今はそれどころではない。
俺たちに降り降ろされた針は、途中で止まっていたのだ。
まるで、時間が止まってしまったかのような感覚に襲われた。
「ムサシ! エルア! 無事ですか!?」
ベニサソリの、妙に筋肉質な足の隙間からボーガンを構えたエバが見えた。
ボーガンに装填された矢の先端が、金色に光っている。あれは?
「フォレスディエナの魔導石で作った矢じりです! 黄金の果実と同じく、高い麻痺性の毒を持っているんです! 奴が痺れている間に、早く逃げてください!」
「エバぁ……! お前、最高だよ!」
「むぅぅぅうううううううううううううううう!」
突然、下にいるエルアの体が赤く光った。
同時に、どんどん周囲の気温が上がっていく。
「あっち!」
たまらず手を離した。
エルアは、ゆっくりと立ち上がり、振り向くと、角がにょきりと伸びて、目は真っ赤に充血していた。
「え、エルア?」
ただならぬ雰囲気に、声をかけるが、エルアは無言で槍を構えた。
「苦しいと……言っているではないかああああああ!」
「うおおおあああああ!?」
エルアの槍の切っ先が燃え、そしてまっすぐ突っ込んできた。
俺は、すんでのところでそれを躱し、腕を上げて痛いほど叩きつけてくる砂から顔をかばった。
やがて、砂煙が晴れてベニサソリの巨体が見えた。
芳ばしい匂いと共に姿を現した奴は、頭を消し飛ばされ、その場に沈み込んだ。
「……すげぇ」
「ふっふっふー、どうだ見たか! これぞ、偉大なる竜の力だ! サソリごときに遅れはとらん!」
「初めから竜気解放使えよな、まったく……」
「これは奥の手だと言ったではないか!」
エルアの輝く紅い瞳は、俺をきっと睨みつけた。
死んだら元も子もないじゃねーか……。
「ふぉっふぉ! すごいのー、竜人族の奥義か!」
「メーロン……あんた最近地味だな……」
「ほ!? なんじゃ急に!?」
「いや、だってさ。フォレスディエナの時も、ぶっちゃけ風魔法で俺を飛ばしただけだし。今も避けただけじゃん。メガスヴルガ狩った時が一番輝いてたよ」
しかも、狩ったところを誰も見ていない。
正直、今のメーロンには、叫びながら逃げるイメージしかないな。
「ふぉっふぉ、言うではないか。ならば、砂塵竜ではワシがメインとなって戦う。大魔法使いの戦術を、とくと見るがよい!」
「無理すんなよ」
「老体に無理は禁物ですよメーロン」
「その、差し出がましいようだが、無茶をしない方がいいぞ。ご老人」
「ええい! お主らみんな哀れんだ目でワシを見るなバカモンが!」
そういって、メーロンは拠点に向かって歩き出した。
「どこ行くんだよ?」
「拠点に戻る。砂塵竜を倒すための『とっておき』を持ってくるでのぉ。お主らは、食料を探しとれ。調査はせんでいい。どうせ奴は、砂嵐を起こせばやってくるのじゃからな」
妙に自信があるみたいだな。
ついさっきのエルアを彷彿させて、なんだか嫌な予感がするんだが……。本当に大丈夫なのか?
だが、メーロンの顔つきは、いつもの朗らかな表情から険しい顔つきになっていた。
普段は見せない顔に、引き留める言葉がでず、俺たちは遠ざかっていく背中を見送ったのだった。




