神隠しの砂漠で! ハンムラビ的なスキル!
「今の、普通の炎じゃなかったよな?」
「今のは、魔力を込めすぎてしまったのだ。私の炎は、一度発生させると、常に魔力を吸収する。体から離れていれば、大気中の魔力を吸収して燃え続けるし、体につながっていれば、体内の魔力を吸ってどんどん大きくなるのだ」
「え、じゃあ、今のって、生身で食らってたら……」
「当然、骨の髄まで焼き尽くされていただろうな」
「うおおおい! ふざけんな! そんなもん人にぶつけてんじゃねーよ!」
「ムサシ、まだムサシの皮が焦げてますよ」
「うおおおおお!?」
あわてて黒い煙の出ている部分を手で叩いた。
そういえば、エバの防御魔法は、体の硬質化と、痛みの感覚を減らすんだったっけ。
今更だけど、自分が怪我をしてもわからないって、なかなか危険な魔法な気がするんだが……。
「ムサシ、先ほどのエルアの魔法は、使えるようになりましたか?」
「ちょっと待ってろ……はああ!」
ぼっ!
どうやら使えるようになったらしい。
これも、エルアみたいに、出し続けてると黒くなるのかな?
…………あれ?
「なあ、エルアみたいにならないぞ?」
「そのようですね。最初にだした状態のままです」
「なぜだ? ムサシは、自分の魔力が吸われている感覚はあるか?」
「いや、そもそも魔力自体ないからなんとも……」
「以前、ポロポロの臭い攻撃を再現しようとしたときも、このような結果でしたね。あの時は、そもそも発動すらできませんでしたが。やはり、状態が変化する魔法や特殊能力は使えないということなのでしょうか? それとも、何らかの魔力的要因が無ければ再現できないのか……その部分は謎ですね」
ううーん。不思議だ。
使える能力と使えない能力の差ってなんだろう?
変化のある能力ってことは、複雑な能力だと使えないのか……。
でも、変化はしないまでも、エルアの炎は使えているし、それならあの臭いだって再現できてもおかしくない……はず。
……あの臭いってどんな臭いだっけ。
「……なぁ、あの臭いってどんな臭いだっけ?」
「私は防御魔法で軽減していたので、よくわかりません」
「俺も、なんとなくどんな臭いかは覚えているんだが、細かくイメージできるほど覚えていないかもしれない。ただ、臭かったってことしか」
「つまり、ムサシのイメージが足りないから発動できないということか?」
「たぶん……そうなんだと思う」
自分でイメージできないことは、発動できないのは、魔法を使う時のルールにも当てはまるし、そういうことなのだろう。
「臭いの魔法自体、難易度は高いからのぉ。目に見える現象のない魔法は、想像しずらい。いくら一度食らったものだとしても、再現するというにはなかなか骨が折れるじゃろうな」
メーロンは、あくびをかみ殺したのか、目にはうっすらと涙がたまっていた。
ここまで、自分のスキルを分析してみて、まだ一つ疑問に思うことがある。
それは、ほとんどの制約が、通常の魔法と似通っているのに、どうして俺は一度食らわないと発動できないのか、ということだ。
「どうして俺は、一度食らわないと発動できないんだろう?」
疑問は、内に留まることもなく口から飛び出した。
最近、みんなに慣れてきたのか、思ったことがすぐに口から出てくるようになってしまったな……。ま、いっか。
「それは……スキルゆえの制約なのではないでしょうか?」
「そういえば聞いたことがあるな。竜人族にも、異世界人が特殊な能力を授かるという言い伝えがあるんだ。たしか、白の蛇は、奇跡の力を、黒の蛇は魔の力を授けると聞いたことがある。奇跡には対価が必要で、信仰の力とも呼ばれているらしい。逆に魔の力は、信仰とは関係のない自然の力を使うものだから、信仰や対価は必要ないのだ。あくまでも、言い伝えだがな」
「もしかしたら、痛みをともなうことで、信仰の深さをあらわしているのかもしれませんね」
「その信仰の対価が、受けた痛みを返すスキルなのか。自分の痛みを、相手に知らしめるためなのだろうか?」
「まさに、目には目を、歯には歯をってやつだな」
「なんですかそれ?」
「俺の世界の、有名なお話の言葉だよ。やられたらやり返されるぞ。だから、みんな他の人を傷つけてはいけませんっていう言葉なんだ」
確かそうだった気がする。
社会の授業は半分寝てたから、いまいち自信がないけど。
「いい言葉だな。私は、黒の蛇を信仰している。だからこそ、自然の流れに身を任せる風習が強く、強者が弱者を支配するのは、自然の理だと思っている。しかし、今ムサシの言った言葉は、互いの力を認めあうからこそ成り立つルールだ。もしも、誰もが対等な、そんな世界になったのなら、きっと平和な世になるのだろうな」
「エルア……お前、どうしたんだ急に、疲れて頭が良くなったのか?」
「どう意味だ!? 私はもともと利口だぞ!」
自分で言うのはどうかと思うが、やっぱりエルアは、優しい奴だ。
俺が、この言葉を聞いたときはそんなことは想像できなかった。だから、うろ覚えだったわけだしな。
彼女は、誰よりも平和な世界を望んでいる。……それ以外のことに関しては、少し抜けているかもしれないけどな。




