神隠しの砂漠で! お兄ちゃん大好き!
「まさか、エバ殿の胸の魔導石が?」
「そうだ」
「なるほど、これが、我が一族に伝わる秘宝なのか……」
「はぁはぁ、ムサシぃ……」
エルアの視線は、エバの胸元へと吸い寄せられているようだ。
というか、なんだこの状況。発情した女の子を羽交い絞めにしながら、胸を見せつけるって、どんな状況だよ! シュールすぎるわこんなもん!
「……エルアは、これをみてどう思う?」
「はぁはぁはぁ、そんなに見ちゃいやぁ……」
ちょっと黙ってくれねーかな、このロボッ娘は……。
「……どうと言われても。余程、ムサシのことが好きなのだろうな、としか」
「いや、エバのことじゃなくて! 秘宝のことだよ! 奪い返そうとか、思わない……か?」
恐る恐る、エバの肩越しに、エルアの顔を見た。彼女は、俺の視線に気がついたのか、ふっと鼻で笑う。
この反応はどっちだ? もしも、『力ずくでも返してもらう』となってしまえば、俺は、エバを守るために、もう一度エルアと戦わなくてはならない。正直、次は勝てるかわからないし、そうならないで欲しいところだけど。
「なんだそんなことか……。 それなら心配しなくてもいい、この魔導石は、どう見てもエバ殿に必要な物のようだし、誰かの命よりも、重い宝などないよ」
よかったあああああ! さすが、エルアは常識人だ! 少し、抜けているところもあるし、ターミネーターみたいなところはあるけど、どうやら、俺たちの味方でいてくれるらしい。
ん? てことは、彼女がいれば、竜人族の里にも入れるんじゃないか? なんせ、姫なんだし。
まぁ、その話はまた今度でいいかな。今は、ただ、彼女に感謝しよう。
「エルア! ありがとう! ほら、エバもお礼をいいなさい!」
「エルアさん……はぁはぁ……ありがとうございます……」
「あ、ああ。そんなに改まってお礼を言われるほどのことではないさ。それよりも、エバ殿は、ムサシのことが本当に好きなのだな」
「大好きです……」
「ぶふぅ!! い、い、いきなり何を言ってんだヨ!?」
だ、大好きって、そんな素直に言われても困るぞ!? だって、そもそもエバは機械だし、だいたい、感情がないんだから、好きとか嫌いもない……はず。
頭の中がパニックを起こしかけていると、エバが俺の手を払いのけて、こちらに向き直った。
もう、彼女の瞳からは、涙は流れていない。そのことに、少しだけほっとした。
ただ、それでも、熱っぽく見つめてくる彼女を見ていると、なんだか、心がざわついてくる。
「あ、わ、わかったぞ! また、メーロンにそそのかされて、俺をからかってるんだな!?」
「違います……。好きです……ムサシ……」
「え、ええ……」
あきらかに、再開する、前と後では、彼女の様子が違う。今までの、どこかぎこちない感情の演技とは違う。まるで、本当に彼女自身、自分でも抑えきれずに行動しているような、そんな雰囲気を感じる。
エバは、俺の胸にそっと手を置いた。銀色の武骨な手。彼女が、機械である証。その手はとても、熱く、俺の心臓は、早鐘を打ち始めた。
ま、まずい。なんで、こんなにドキドキしているんだ!?
エバは、まだ涙が残っていたのか、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。視線が重なる。そして、彼女は、ゆっくりと口を開いた。
「ムサシ……お願いがあります」
「お、お願いって?」
うおおおぉぉぉお! ま、まさか! 人生十八年目にしてついに、告白されようとしているのか俺は!? いや、待て、焦るんじゃない俺! ここで、もし、答えが間違っていたら、とんでもない精神的ダメージを負うことになる!
しかも、これはゲームではない。ギャルゲーで好感度が足りず、親友エンドになった時とは比べ物にならない破壊力を持っているはずだ、元引きこもりの俺には、それが耐えられるのか!? 答えは、否! 慎重に、慎重に相手を観察するんだ!
エバの目! 潤んで、今にも涙がこぼれそうだ。
エバの頬! 赤く上気して、熱っぽくなっている。
エバの口! 先ほどよりもマシになったが、息苦しいのか、荒い呼吸を続けている。
以上から、結論をだすに、これは間違いない、愛の告白だ! そもそも、さっき好きだっていってたじゃないか! 冷静になれ、俺のバカぁ!
でだ、なら俺は、なんて答えればいい?
エバのことは、当然好きだ。けど、それは、あくまでも旅の仲間としてであって、そもそも、機械だと認識してたから、そういう恋愛対象的な目で見たことがない……。
「わ、私の、お……」
私の? 男? 夫?
ちょ、ちょっとまって! まだ考えがまとまって無いから!
「え、え、エバ、ちょっとま……!」
「お兄ちゃんになってください!」
静寂が、訪れた。
空を、四匹の翼竜が飛んでいて、そのうちの一匹が、悲しそうにくえぇと鳴いた。
「……は?」
「私の、お兄ちゃんになってください! ムサシと離れてわかったのです。私は、ムサシのことがとてもとても大好きで、家族になりたいのだと! メーロンから、以前ムサシが、私のことを妹のようだと言っていたと聞きました。それを聞いた瞬間、すっと胸の苦しみが軽くなったのです! だから、私は、あなたの妹になりたい! 妹として、あなたに尽くしたいのです!」
「あ、そうなの……」
「……ずいぶんと、変わったお方だな……」
ここまで、エバの態度に動じなかったエルアでさえ、若干困惑の表情になっている。
って、そんなことはどうでもいいんだが……。 なんだろう、ほっとしたような、とても残念なような。エバとの距離が縮まって嬉しいような悲しいような。うーん……微妙!
「んまぁ、いいんじゃないか? でも、俺がお前の兄貴になってどうなるんだ? 呼び方が変わるくらいだろ?」
「いえ、呼び方は、いままで通りムサシにします。その方が、しっくりきますから。ただ……」
「ただ?」
「その……、たまに……でいいので。……甘えさせてください」
う、上目遣いでそんなこと言うのは反則だろ……。甘えさせるって、どうすりゃいいんだ? 俺には兄妹なんていないし……。
とりあえず、頭でも撫でてあげればいいのかな?
「お、おお。いいぞ」
そして、俺は、エバのさらさらな銀の髪に、優しく手を置いて撫でてやった。エバは、気持ちよさそうに目を細めて、俺を見つめたまま、微笑んだのだった。
「これから、よろしくお願いしますね」
「……お願いされるってのも、変な話だな」
「なぁ、ムサシ。私のお願いも聞いてくれないか?」
「ん? ああ、別にいいけど……撫でて欲しいのか?」
エルアは、鋭い視線で俺を睨みつけてくる。
「違う……私に触れるな」
「お前……従者として最悪だぞ……」
「私が従うのは、せ、戦闘においてのみだ! そ、そんなことよりも……どうしよう、これ」
一瞬、声がうわづっていたような気がするんだけど……どうしたんだ?
エルアの視線の先には、真っ赤な血だまりの中で倒れているメーロンの姿があった。
「うおおおおお!? メーロン!?」
メーロンはびくんびくんと体を震わせ、ぴゅーっと額から血を流している。
顔面はすでに血の気が失せて、まるでミイラのようだ。
「さっきまで『タスケテ……タスケテ……』と言っていたのだが、ついに動かなくなってしまったのだ」
「『のだ』、じゃねーよ!? え、エバ! はやく回復してやってくれ! 俺も手伝うから!」
「承知しました」
ほどなくして、メーロンは復活した。そして、俺が書いた『もう悪いことはしません』と、書かれた札を首からさげさせた。
この話と、この次の話は、書いているときめちゃくちゃ楽しかったせいか文字数が多めです。
エルアも加わったことなので、日常回のあとは、あやふやだった魔法の形態についての掘り下げなどをおこなっていきますよぅ!
フォレスディエナまでは作品の雰囲気を、グランディエナからは世界観の掘り下げに重点を置いていきまっせ。
聖書では禁じられている魔法が存在する理由については割烹で書こうかと思いますです。




