神隠しの砂漠で! 穴から大脱出!
「おお、すごいな。綺麗だぞ、ムサシ」
「あ、ありがと……じゃなくて! エルアも早く準備しろって!」
「む、すまん。いくぞ……竜気! 解放!」
エルアの体に、赤い光が纏われた。彼女の瞳も、髪も、紅い粒子をまき散らせながら、輝いていく。
そして、手足の鱗も、めきめきと音をたてて広がっていり、虹彩は縦長に変わった。
額の角も、伸び切って、ようやく落ち着いたのか、エルアは、深く息を吐き、そして吸った。
「よし! では、いこう!」
「おう! 頼んだぜ! エルア!」
俺は、エルアの肩を、後ろから掴んだ。
彼女から発せられる熱は、すでにかなりの高温で、掴んでいるのもやっとな状態だ。
……行けるのかな、これ。
「任せろ、ムサシ! はああああああああ!」
エルアの槍が、真っ赤に燃え上がった。槍からは、凄まじい熱が放出されている。
あ、熱い! こんなの、そう長くはつかんでいられないぞ!
「あちちちちちち! 急げエルア!」
「わかっている!」
短い返事の後、エルアは、上に向かって飛んだ。
振り落とされそうなほどの衝撃と、熱が、俺を襲う。
「うおおおおおおおおおおおお! あちちちちちちちちちち!」
「はあああああああああああああああああああああああああ!」
エルアの叫び声とほぼ同時に、槍の切っ先が天上にぶつかった。
そしてまるで、氷に、熱した水をかけたように、溶けていく。
そのまま、勢いが弱まることもなく、岩盤の中を突き進んでいった。
「いっけええええええええええええ!」
俺が叫んだ次の瞬間、光が、見えた!
そして、その光の眩しさに、目がくらんだ瞬間、俺の集中力は途切れ、自分にかけていた魔法が、少しだけ解けてしまったのだった。
「あっち!!?」
「あ」
「……あ?」
間の抜けた、エルアと俺の声。
上昇する感覚が、急に途絶えた。
ああ、俺は、あまりの熱さに、手を放してしまったのか。
ここは、地上よりも遥か上空。
エルアの、驚いた表情が、徐々に遠ざかっていく。
……ああ? 俺は、手を、放してしまった……のか!?
あ、ああああ!? お、俺今、落ちてる!?
「うおおおおおおおおおおおお落ちるうううううううううう!?」
宙に投げ出された体は、先ほどまでとは真逆に引っ張られ、地上に向かって落ちていく。
ぐるぐる回転する体を、大きく広げ、俺は胸で風を受け止めるようにバランスを取った。
クソ! 着地の瞬間に風魔法を使えばいけるか!? でも、かなりの高さだ! いや、いける! 下は砂! 俺は救世主! こんなところで死んでたまるかああああああ!
「ムサシ! 待ってろ! 今行く!」
俺の後ろ。つまり、上空からエルアの声が聞こえる。頼むから早くしてくれ! ぐんぐん地上が近づいてきてるんだよおおおお! んん!? なんだ!?
彼女の声とほぼ同時に、俺の視界に、銀色の光が見えた。
「なんだあれ!?」
その光は、一直線に俺に向かって飛んできている。
それも、ものすごいスピードで。
あれ、このままだと、ぶつかるんじゃないか!?
そう思いはしたものの、落下の恐怖と、風魔法の準備と、防御魔法の維持のせいで、俺の反応は遅れてしまった。
「うおおおおお!? ぶ、ぶつかる! ぐぅえ!?」
とっさに腕で顔をかばって目をつむった次の瞬間、何かに服を掴まれ、そして引っ張られた。
その、あまりの勢いに、体はエビぞりになりながら地上へと向かていく。
あ、これは、死んだ。
「うおおおおああああああああ!!!」
ぼふうううぅぅぅぅぅん!
盛大に砂煙を巻き上げ、着地した。どうやら、砂がクッションになって助かったらしい。防御魔法の効果もあってか、案外いけるもんなんだな。
と、その時、俺の顔に、なにか柔らかいものが当たっていることに気がついた。
ああ、もう、この感触は間違えようもない。ついさっき、この感触を味わったせいでひどい目にあったばかりなのだから……。
「また胸かよ! これは事故です、ごめんなさーい!」
「ムサシ!」
「むぐぅ!?」
すぐに離れようと、顔を上げかけた瞬間、何かにぐいっと掴まれ、そのまま押し付けられるような形になってしまった。
あれ、この掴み方は……。
「ふぇふぁ!?」
「ああ、ムサシ! 無事でよかったです。本当に!」
鈴がなるような、可愛らしい声。しかし、その声は少し、かすれている。俺を掴まえて、思いっきりホールドしているのは、エバだった。
ほんの数時間だってのに、大げさな奴だなぁ……。そんな、泣きそうな声にならなくてもいいのに。
「ふぇふぁ! ふぁなふぇ!」
「もう、絶対に離しません! 私は、あなたといつまでも一緒にいます!」
「ふぇ!?」
な、なんでこの子、こんなに情熱的になってるんだ? そんな疑問が浮かび上がった時、ふっと、顔を押さえつける力が弱まった。
そして、顔を上げて、エバの顔を見ると、彼女の金色の瞳からは、涙があふれ、流れていた。
まるで、お月様のそばを横切った、流れ星のように。
「え、エバ!? お、お前、なんで泣いて……」
「ムサシ……。ムサシ、私と……」
切なそうに、苦しそうに。エバは、俺に何かを伝えようとしている。その真剣な表情に、俺は黙って、彼女の瞳を見つめていた。初めて見る感情的な彼女に、俺は不思議と、胸が高鳴っていくのを感じていた。
もしこの穴に名前をつけるならハリーですね!
3つも掘ってないし、看守もいないですけどね!