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廃城で! 盟友誕生!



「ん、んん。えー昔々、まだこの世界は無く、あるのは混沌カオスだけだった頃のことです」


 あ、読み聞かせてくれるんだ。

 エバは、仰々しく咳ばらいをした後、風に乗る綿胞子を思わせる声で朗読し始めた。

 どこか暖かさを感じる声。子供の頃、母さんに読み聞かせてもらった時のように、俺の耳は自然とエバの声を受け入れていた。


「白の蛇と黒の蛇が現れて、天と地を作りました。そして太陽と月を作り、自分達の作った世界を確認しました。二匹の蛇は、世界のできに満足し、次にそこに住まう生き物達を作りました。空を飛ぶ鳥、地を駆ける獣、海を泳ぐ魚。世界はあっという間に生物であふれ、賑やかになりました」


 壁に写し出された画像に鳥っぽいものや魚っぽいものが二匹の蛇を囲むようにして表示された。

 心地よいエバの声をかき乱すような絵に、集中力が途切れかける。

 というか、この話ってどっかで聞いたことあるけどなんだっけ?


「二匹の蛇は、増えすぎた生き物達を管理する存在を作ることに決めました。白の蛇は知恵で管理する人間を。黒の蛇は力で管理する竜を作りました」


 黒の蛇の下に……なんだこれ、鶏? 白の蛇の下には…………ぽげむた? 

 たぶん、竜と人のイメージなんだろうけど、こうなんていうか、不安な気持ちになる絵だ。

 俺はもうすっかり、彼女の声よりも、壁に表示された不気味な壁画にばかり注目してしまっていた。

 それではいけないと、気を取り直し、再び、エバの声に集中する。


「白の蛇は、自身もまた世界の一部であるという考えから、人間の形にはこだわりませんでした。そして人間には、知恵を形にする器用な手と、遠くまで歩ける足を与えました。一方黒の蛇は、自分達こそが唯一の存在と思い、竜は蛇に似た鱗と胴をもちました。そして力強くあるために、太い丸太のような四肢と爪。剣のような牙。空をも制する翼を与えました。人は、管理できない竜を狩りました。竜は、目にうつるもの全てを喰らいました。二匹の蛇の間には深い溝ができて、白の蛇は天高く昇り、黒の蛇は地下深くへと潜っていきました。そして、それからというもの人と竜、二種族の管理者がいる世界になったのです。おしまい」


 ここまで聞いてようやく思い出した、これ俺の世界の聖書に似てるんだ。どこの世界も、世界創造のお話っていうのは似通っちまうもんなのかな。

 ふぅっと、息をついたエバを見ながら、ふとそんなことを考えていた。


「とりあえず、エバは絵の練習をしたほうがいいな」

「ムサシには美的感覚というものがないのですね。これは『でふぉるめ』という手法なのですよ。芸術は爆発なのです」

「デフォルメ……」


 名言だが、爆発の威力が強すぎてほとんど更地だ。ビックバンじゃないか。

 これじゃ、誰かが『逃げろー!』って言っても、みんな爆心地ばかりみてるぞ。


「まぁ、この世界の成り立ちは分かったけど、結局その白の蛇と黒の蛇ってのはどこにいるんだよ? 黒は地下にいるみたいだけど、でもそのお話の感じだと、人を良く思っていないんじゃないか?」


「そこじゃ!」

「うわあ!?」


 突然、足元に転がっていたメーロンが叫んだ。

 さっきまで夏の終わりのセミみたいになってたクセに急になんだよ、驚くじゃねーか。


「ワシは数カ月前に、白の蛇の神託を受けた」

「白の蛇って、人間を作ったほうだよな?」

「その通り! そしてこう申されたのじゃ。『悪しき黒の蛇を打倒する時が来ました。異世界より救世主を召喚し、旅立ち。4つの土地の4匹の竜を滅ぼして、闇の渓谷へと向かいなさい。さすれば、人類の復興の足掛かりとなるでしょう』と」

「4つの土地の、4匹の竜?」

「うむ! 4つの土地とはすなわち、黄金の森、神隠しの砂漠、蒼炎の火山、光の海。この4つの土地の生態系の頂点にたつ竜を倒し、闇の渓谷に潜む黒の蛇を倒すのがお主を召喚した目的じゃ! そして見事黒の蛇を打倒すればきっと白の蛇もなにか見返りをくれることじゃろうて!」


「悪い、無理だわ俺」

「なんでじゃ!?」


 いやいや、そんな生態系の頂点とか無理だろ。

 だいたい竜ってあれだろ? 火とかふくんだろ? そんなのただの人間に倒せるわけないじゃねーか。


「無理なもんは無理だ」

「人類救ったら、お主ハーレムじゃぞ」



 なん……だと……?


「いま……なんて?」

「人類救ったらお主、超英雄じゃろ? そりゃーもう、女子共にモテてモテてむしろ生きるのがつらくなってくるとは思わんか」


 口に湧き出した生唾をごくり、と飲み込む。

 頭の中では、俺を中心に、大小さまざまな胸と尻……、じゃなくて女の子たちがひしめき合っている光景が浮かんだ。


「だ、だけどちょっと待て! 人類はほとんど滅亡してるんだろ!? 騙されねーぞ!」 

「あわてるな、何も人間はこの土地だけではない……はずじゃ、たぶん。やがてはこのエデンの国を再興するためにも、よその土地から人を集めるのじゃ。そして今度は、ワシの悲願でもある男女比1対9の究極ハーレム帝国を建国! そして、お主にはワシの次に高い地位と、国の女子全てを好きにできる権利をやろう!」


 男女比1対9……だと?

 男1人に、女9人?

 男10人に女90人!?

 男100人に女900人!!?


 しかも全ての女の子が俺のもの!!!!?



「う、うおおおおおお!」


 なんだこの胸の奥から湧き上がる感情は! ついさっきまでただの小汚いじーさんに見えていたのに、今はなぜだか、神々しさすら感じる!


「どうじゃ? ワシと一緒に、夢、叶えんか?」


 メーロンは、寝そべったまま右手を俺に差し出した。

 皺だらけだが、ごついその手は、彼がお飾りの王ではないことを物語っているようだ。


「任せろ。俺にできることならなんでもするぜ、メーロン。いや、王様!」


 俺は、メーロンのもとへと歩みより、その手を強く握り返した。


 今ここに、夢へと向かう二人の契約がなされたのだ!

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