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神隠しの砂漠で! エルア、撃破!


「これで、おしまいだ!」


 エルアの体が、一つの炎の塊となって、突進してきた。

 さっきまでの火の玉とは比較にならないスピードと大きさに、俺は反射的に、魔法の力を使って飛び上がる。

 足元を、高温の何かが、通り抜けていった。 

 しゅうしゅうと音を立てる地面。そして、背後の岩の壁には、ぽっかりとあいた穴。


「う、嘘だろ……」


 見るからに頑強な岩は、まるで砂糖菓子のようにもろく崩れ去り、暗い穴の奥からは、紅く光る二つの眼差しだけが見える。

 こ、こえぇ!? 完全に化け物の部類じゃねーか!


「クソ!」


 ひとまず、姿を隠してやり過ごそう。正面からぶつかって勝てる相手じゃない!

 両手を掲げ、自分を中心に風の渦を作り出す。

 巻き上げられた砂は、狙い通り。砂の壁となって俺とエルアの間に立ちはだかった。しかし、


「目くらましのつもりか? ムダだ!」

「あぶね!」


 確かに視界は遮っているはずなのに! なんで的確に俺の位置に火を撃てるんだよ!?


「竜気解放状態の私は、通常よりも遥かに五感が鋭くなっている。貴様の息遣いが、匂いが、恐怖で早まる鼓動すべてが私に居場所を教えてくれているぞ! そこだ!」


 またしても、砂の中から火の玉が飛んできた。クソ! そんなのずりぃじゃねえか!


 どうする!? 考えろ、考えろ!


 火の玉。鋭い五感。地下……。


 ん、鋭い五感? そうだ!

 俺は、円を描くようにして走った。火の玉を避けながら、常に砂嵐を挟むような形で、エルアから逃げ、そして、先ほど空いた穴の中へと飛び込んだ。


「バカめ! 自ら行き止まりに入り込むとは! とうとう観念したのか!?」

「ああ……、俺の負けだ。もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「焼く!」


 姿は見えないが、穴の外から熱気が伝わってきた。

 ちょ、ちょっとまって、火を放たれたら作戦が台無しだ! というか、少しは躊躇しろよ!


「ちょ、ちょっと待ってくれ! できれば、死ぬ前にもう一度君の顔が見たいんだ!」

「……なんだと?」


 よかったああああ! なんとか思いとどまってくれた!


「その、どうせ死ぬならさ、君のかわいくて、綺麗な顔を見て死にたいんだ。そのくらいのお願いならいいだろ?」

「か、かわ……だと!? ふ、ふん! まぁそこまで言うのなら仕方がない」


 エルアは、疑いもせず、穴の中に入ってきた。

 俺は、地面に額をこすりながら魔法を解き、砂の目くらましを解除する。

 あたりは静かになり、前方に、エルアの気配を感じた。

 あと、二歩。せめてあと二歩こっちへこい。


「む、なんだ。今度は本当に反省しているようだな」

「もちろんです! 僕が悪かったです! あなたのような美しく気高い姫に無礼を働いてしまったこと、心よりお詫びいたします! 是非ともその美しいお顔を餞に、僕に止めを刺してください!」


 一歩、エルアが歩み寄ってきた。


「ま、まぁ、そんなに謝るのならゆるしてやらんことも……」


 さらに、もう一歩。踏み出した!


「なあああああんて言うとでもおもったのかバカめ!」

「んな!?」


 俺は、体の下に隠していたカートリッジの蓋を開けた。そして、それを、前方に投げつける。


「くらえ! ゲキシュウ草!」

「こ、これは!? い、痛い! 臭すぎていたああああああ!?」


 エルアは、顔を両手で抑えながら頭をぶんぶん振っている。五感を強化された奴なら、この臭いは耐え難いだろう。

 俺は、しゃがみこみながらしっかり鼻に栓をしたから問題ないがな。

 その隙を見逃さず、一気に距離を詰めるため、俺は駆け出した。


「く! 小癪なああああああ!」

「うおおおおおおおおっとお!」


 エルアが、涙目になりながら横なぎに槍をふるった。スライディングの要領で躱し、頭上を槍の切っ先が通り過ぎる。

 そのまま、エルアの足の間に滑り込み、俺は右手を上に掲げた。


「ひゃん!?」

「あ、わり」


 砂の上だからか、滑りすぎた俺は、エルアの足の間で止まっていた。

 そんなところで手を上げたら当然のことながらスカートの中に手を突っ込むことになる。

 けど、今の俺にはそんなことを気にしている余裕などない。謝罪の言葉から間髪入れず、俺の右手から、キィンと甲高い音の塊が発射された。全身の骨を振動させるようなその音は、穴の壁に反響してさらに威力を強め、俺自身の骨もびりびりと震わせた。


「ーーーーッああ!」


 そんな超音波を直接くらわされたエルアは、ひとたまりもなかったようで、体をのけぞらせた後、その場にどさりと倒れこんだ。

 これは、以前、食料として狩ったオオサワギ鳥の超音波だ。

 俺の『体で覚えろ! ど根性ラーニング!』は、魔法だけではなく、あらゆる特殊攻撃を覚えることができるらしい。

 しかし、残念ながらポロポロの臭い攻撃は覚えられなかった。その理由はおそらく、食べている物によって効果が変わる変則的なものだったからだと、エバが言っていた。

 普通の聴覚の俺でさえ、しばらく耳鳴りがやまないのだ。五感を強化されたエルアでは、ひとたまりもないだろう。


 体の上にのしかかってきたエルアをどけて、ひとまず槍を奪い取った。

 その後、槍の持ち手の部分で何度かつついてみたが、反応がない。どうやら完全に気絶しているようだ。


「はあああああ、勝ったああああああああ」


 正直、よく勝てたと思う。

 火を撃つわ、変身するわ、おまけに翼は生えているわで、今まで狩ってきた竜より、よほど竜らしいかったのがなんだかおかしかった。



私の持ち味はノリと勢い!

の、はず!

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