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黄金の森で! 激戦の余韻!

 俺の体は、胃が浮き上がるような気持ち悪い浮遊感に襲われていた。恐らく、メーロンの風魔法が切れたのだろう。

 光も音も感じられない俺は、ただ重力に引っ張られるままに落下しているようだ。

 あれ、このまま落ちたら……死ぬんじゃ……?

 そう思った矢先、何かが俺の服を掴んで、強引に引っ張った。そのまま俺の体は、何か柔らかいものに受け止められ、衝撃こそあったものの、怪我をするほどのダメージはないようだ。


「……シ! ムサシ、やりましたよ!」

「う、んん?」


 徐々に視界と聞こえる音がクリアになっていく。

 目の前には、興奮気味に上気した顔のエバが見えた。

 どうやら、落下している俺を、ロケットパンチで捕まえてくれたようだ。


「エ……バ? やったのか? 俺たちは、やったのか!?」

「やりました! ほら! 見てください!」

 エバに抱きしめられたまま、ふとフォレスディエナに顔を向けると、黄金の果実の生えた大きな翼をだらしなく地面に這いつくばらせていた。

 割れた胸の水晶からは、黄色い液体が流れだし、あたりに黄金の果実の匂いをまき散らしている。


「どうやら、あの胸の水晶は、黄金の果実の成分を貯めておく場所だったようですね。あそこから、翼の上に実る果実に神経毒を送っていたようです。そして、生き物にとって毒であるあの液体は、フォレスディエナにとっては、免疫系統の重要な器官だったのかもしれません。人間でいうリンパ液のようなものなのでしょう。リンパの製造元を破壊されたショックでの死亡、ということでしょうか。それにしても、よくあの部分が弱点だと気がつきましたね」

「まぁ、あれだけ目立つところにあれば、いかにも怪しいしな。それに、フォレスディエナが地中に潜ってた意味を考えたんだ」

「潜っていた意味? 翼に生えた黄金の果実を食べさせるためではないのですか?」

「そもそもあんなにでかくて強いんだから、そんなことしなくても普通に獲物を捕まえられるだろ? ってことは、なにか、外にはさらしたくない部分があると思ったんだよ」

「なるほどのぉ、それであの水晶に気がついたわけか。しかも、それを狙って単身駆けだすとはのぉ、恐れ入ったわい。ふぉっふぉ」


 いつのまにか、俺たちの隣にはメーロンがたっていた。彼は、すでに動かなくなったフォレスディエナの亡骸を、静かに見つめている。


「メーロン! さっきはよくわかったな!」

「ふふん、長年の経験というやつじゃよ。ピンチに陥ることは多々あれど、それを切り抜けてきたのもまた、事実だということじゃ。えっへん!」


 ピンチに陥ることはそんなに自慢できることじゃないぞ、じーさん……。


「エバも、ナイスアシストだった。正直あの時、身体強化魔法をかけてくれなかったら、風圧と水晶に挟まれて死ぬところだったよ」

「私には、ムサシ達の考えはわかりませんでした。ただ、自分ができることをしたまでです」

「ふぉっふぉ、エバも成長したのぉ。指示がなくとも、ベストな行動をとれるようになってきたわい」


 これが、以前メーロンの言っていた次のステージということなのか? じゃあ、俺は何が変わったんだろう?

 ……自分ではよくわからないな。

 そう考えつつ、俺は自分の足で立ち上がった。まだ少し、足に力が入らないのか、膝が笑っている。

 ふらつくと、エバが、肩をかしてくれた。


「ムサシ、まだ少し休んだ方がいいのでは?」

「うーん、まぁ休むつもりだけど、その前にやっときたいことがあるんだよ。おい、メーロン! あんたも肩をかしてくれ!」

「ほ? ワシ必要あるかの?」

「必要必要、ちょー必要! ほら! はやく!」

「お、おう」


 そういって、エバとは反対側の肩を、メーロンが支えた。

 不思議そうな顔をしていたので、メーロンも何をしたいのかよくわかっていないらしい。


「いいか? こういう、みんなで何かを達成したときは肩を組んで喜びを分かち合うんだ」

「喜びを、わかちあう、ですか?」


 エバはやっぱりよくわからないという顔をしている。

 メーロンはというと、合点がいったのか、にやりと笑った。


「ああ、なるほどのぉ。して、掛け声はどうする? 国王様バンザーイ、か?」

「ああ? 救世主様万歳の間違いだろ?」

「国王様じゃろ! ワシがおらんかったら今頃みんなぺちゃんこじゃぞ?」

「救世主様だろ! 俺が来なかったらお前らまだあの城で引きこもってたぞ!」

「あの……、ミトランシェ万歳、ではダメなのですか?」

「ん、まぁそれでもいいのぅ」

「ああ、俺もそれでいい」

「ワシのラストネーム、ミトランシェじゃしぃー」

「ああん!? ずっりぃぞジジイ! 新しい国作ったら俺の名前つけろよ! ムサシ帝国だかんな!」

「帝国ってお主……、せめて王国にしろ。というか王様はワシじゃ。よその人が見たらわけわからんくなるじゃろが」

「もぅ、やめてください……。それで、どうすればいいんですか? なんだか、ムサシと密着していると体が熱くなってきてしまうのですが……」


 エバは、相変わらず上気した顔で俺を見つめた。

 あ、熱くなるってどういうこと!? と、思ったが、単に俺の汗に興奮しているだけだろう。

 ……いや、それもかなり問題だが。


「いいか、せーのって言ったら、ミトランシェ万歳! だからな? ……せーの!」

「「「ミトランシェ、ばんざーい!!」」」


 風が一陣吹いた。甘い甘い、黄金の果実の香りを運んでいく。その風に乗って、俺たちの声もまた、空高く響いたに違いない。

 それこそ、お話に出てきた白の蛇の元にまで。

 木々の葉が振り合い、激戦の後とは思えない爽やかさが全身を包み込む。

 暖かい日差しは、俺が、俺たちが生きていることを実感させてくれたのだった。


「さて、と。さっそく使えそうな素材を剥ぎ取るかのぉ。こんだけでかければ、いくらとっても取り切れんわい。ふぉっふぉ」

「……俺の爽やかな気分を返してくれよ」

「なんじゃいお主、そんなセンチメンタルなこと考えとったのか? 深緑竜の肉なんぞ、食いたくても食えるものではないぞ?」

「肉か! おおっし、俺も手伝うぜ!」

「お二人とも、逞しいですね……」


 俺たちの旅は、まだ続く!


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