黄金の森で! お約束!
「首が、反応していますね」
「ああ、やっぱりこの木にはなにかあるみたいだな」
近くに化け物の首があると思うと、どうにも落ち着かないが、なるでく焦らずにノコギリを挽いた。
もしも、これが折れてしまいえばまた一から出直しになってしまうしな。
「む、いかん! フォレスディエナが来るぞ!」
メーロンが叫んだ。まずい、はやく引き抜かなければと思い、ノコギリを抜こうとしたが、なぜか抜けない。
「え、ちょっと待って! 今ノコギリが変なところに引っかかってるから!」
「バカモーン! はよう抜かんか! また一から作り直すなんぞごめんじゃぞ!」
大声を出しながら、メーロンと二人で、ノコギリの柄を力いっぱい引いた。
しかし、妙な弾力に阻まれ、それ以上刃が進まない。
押しても引いても、まるで、挟み込まれたように動かないのだ。
そんな俺たちのすぐそばでは、エバが、ボーガンを構え、周囲を警戒していた。
「ぐおおおお! ヤバイ! 地響きが聞こえてきた!」
「急げ急げ! 押すな! 引くんじゃ! いっそ、削り取ったほうが早く抜ける! いくぞ、せーのぉおおお!」
「「うおおおおおおお!」」
どんどん、視界が上下に揺れ始める中、俺たちは必死でノコギリを引いた。
頼む、抜けてくれ……! これ一本しかないんだから……!
「来ました!」
背後から、エバの声が聞こえた。
その声は、地響きの中でもはっきりと耳に届き、そして俺に絶望を与えたのだった。
「クッソおおおお! ぬ、け、ろおおおおお!」
ドンっと、聞こえてきた、ボーガンから矢が放たれる音。
そして、それは、見事、フォレスディエナに当たったのか、地響きはぴたりとやんだ、しかし。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」
まるで、爆風のような鳴き声が、全身を襲った。
体が、本能が警戒信号を響かせ、全身に力が入る。
その瞬間、ふっと、手にかかっていた重みが消え、俺は後ろへと倒れこんだ。尻もちをつき、体が言うことを聞き始めたと同時に、俺は顔を上げた。
目の前には、切れ込みの入った木。切れ込みから、少しずつ赤い液体が流れ始めたと思ったら、それはあっといまに噴水のように噴き出した。
「オオオオオオオオオオオオォォォオオオオ!!」
俺の背後では、何かがのたうちまわる音と、相変わらず爆音の鳴き声が聞こえていた。
俺は、急いで立ち上がり、振り返ると、そこには目を血走らせて、あたりの地面や、木に体当たりを繰り返しているフォレスディエナがいた。
「やったか!?」
「あ、ムサシ。それは言ってはいけないのでは?」
「え、あ、しまったああああああああ!」
やったか、と言われてやられる強敵はいない。フォレスディエナも、その例にもれず、怒りに満ちた目で、こちらを睨んできた。
鼻からは、ふしゅふしゅと、白い蒸気を吹き出しながら。
そのとき、エバの胸の水晶が、これまでにないほど強く輝きだした。
その光を見てかそれとも自分の体を傷つけられてか、フォレスディエナは、天に向かって叫んだ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ!」
すると、突然地面が揺れた。立っていられないほどの大きな衝撃に、俺は、エバをかばい、その場に伏せる。
やがて、大地がところどころ隆起し始め、俺たちは滑り落ちるように落下していった。




