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黄金の森で! 主のご命令!



「よいか? もしも地響きが聞こえても、不用意に動いてはならん。まずは、どこから奴が来ているかをよく確認するんじゃ。方向がわかったら、あとは事前に決めておいた避難場所へ向かえ。そこから先は、己次第じゃ」


 拠点を出発するとき、珍しく真剣な表情のメーロンが言った。

 その声にはいくらかの緊張が感じられる。それもそうだろう、俺だって、恐怖からか足が震えてる。


「こんな時、人は神に祈るものなのでしょうか」

「神……か。そんな存在は、ワシは認めん。それに、ここは竜と人の世界。もしいたとしても、ワシらだけに肩入れすることはあるまい」

「本当に、倒せるのかな」

「それもわからん。とにかく、木を切って、フォレスディエナの反応を見てみんことにはな。なぁに、もしも効果が薄いようなら、また出直せばいい。何度も挑戦することで、おのずと突破口は開けるじゃろう。心を強くもて。それにワシらには、いざという時の秘密兵器がある」

「秘密兵器って、なんだそりゃ?」


 メーロンは、にこにこしながら俺を見つめた。

 え、秘密兵器って……俺?


「いや、全然意味わかんないんだけど!?」

「いやいや、こういう時こそあれじゃろ? ピンチになった救世主が真の力に目覚めるとかなんかそんなんあるじゃろ? 今のところお主、ちょっと好戦的なただの若造じゃぞ? 口の中にでも飛び込めば、なんか髪が金色になったりするんじゃなかろうか?」

「ああ、わりぃ、俺は親友ポジションが死なないと覚醒しないタイプなんだ。だからおめーが飛び込め」

「なんじゃお主! 誰かの犠牲がないと戦えんのか! 救世主なら全員救え! 血反吐吐いてでも救え!」

「し、親友ポジションが死ななければならないのなら……。私が……!」

「「待て待て待て!」」


 エバは、自分の拳を握りしめ、決意に満ちた瞳で、うつむいていた。


「お主はどう考えても、親友ポジではないじゃろ!? だいたい、お主が死んだら結局ワシらみんな死ぬぞ!」

「ですが……、目の前の脅威に立ち向かうために必要ならば!」

ワシ、この子がもー本当苦手なんじゃけどー。もう覚醒とかどうでもいいから普通にたたかおー」


 俺には、わかっていた。実はエバは、けっこうおちゃめさんだ。

 前回のゲキシュウ草騒動と同様に、今回もちょっとした冗談に違いない。


「エバ、もういいよ。メーロンも反省したみたいだし。ありがとな」

「いけません。私は、ムサシの従者として、最大限のフォローをしなくては! それが私の生きる意味なのです。そのためならば、この体が滅ぼされる覚悟はとっくにできています!」


 ……あれ? ちょーっと気持ちが入りすぎてないかこれ? 決戦前の雰囲気で、ちょっとナイーブになっているのかな。

 俺は、エバの両肩を掴み、しっかりと彼女の瞳を見つめた。


「いいかエバ! 主としてお前に命じる。ぜえええったいに俺より先に死ぬな! というか天寿をまっとうしろ! わかったか!」

「ですが……」

「返事!」

「は、はい!」

「それと、『私のことはいいから、先に行け!』とか、『やったか!?』とかは絶対に言うなよ? なにがあってもだ」

「はい……?」


 エバが、いぶかし気な表情で小首をかしげたが、まぁ俺の命令には従うだろう。


「よし、そんじゃいこーぜ! 竜狩りだああああ!」 

「うおおおお! 久々に血がうずくわい!」

「がんばります!」


 その後、俺たちは、二日ぶりに黄金の果実の木までやってきた。



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