黄金の森で! ノコギリ完成!
そして、俺とメーロンは、木の取っ手を掴み、回した。
ベアリングも何もついていない、ただの木は、思っていたよりもずっと重く、かなり力を入れないと回らない。
回転するにしたがって、削れた木の粉が、風に乗って空へと舞い上がっていった。
「おいメーロン! もっと踏ん張れ! そっちが傾くとこっちも回しずれーんだよ!」
「なんじゃあ! お主こそもっと早く回さんかい! 絶対力抜いとるじゃろお主!?」
「喧嘩……しないでください」
即席のグラインダーは、回転するたびにガタガタと土台の木が振動して、ただ回すだけでもしんどいのに、さらに俺の体力を奪っていく。
しかも途中、木が折れて、高速回転したグラインダーがメーロンに飛んでいったり。
「ふぉおおおお!? ふん! それは残像じゃ!」
「ば、バカな……。足を全く動かさずに、避けた……だと?」
俺のツタが切れて、エバの胸に飛び込んだりなどいろいろと問題が発生した。
「うおおおおおお!? むふぉ!」
「あ、ムサシ。大丈夫です……か……?」
「お主、なんやかんや胸ばかり触っとらんか? なんじゃ? 異世界人は他人のおっぱいに吸い込まれる祝福でも受けておるのか? グラインダーぶつけるぞワレぇ」
エバの胸から急いで離れ、メーロンを見ると、彼は、無表情で俺を見つめていた。
たぶん、疲労もあるのだろうが、無表情のメーロンには生気がなく、なん十歳も歳をとったように見える。
ていうかこえぇよ。そんなに怒ることないだろ……。
「俺のせいじゃねーよ! 事故だよ事故! そんなイライラすんなって!」
「はぁ、はぁ。お兄ちゃんの匂い……。すごい、濃いよぉ……!」
目をハートマークにしたエバが、俺の胸に顔をこすりつけてきた。
俺は、すかさずベルトからカートリッジを取り出す。
「目を覚ませエバ! ゲキシュウ草!」
「うぐっ! 私は……いったい……」
なかなか思うように作業が進まず、結局全ての牙と爪を薄くできたのは昼過ぎだった。
この時点で、すでに、ノコギリの刃にあたる部分は、やや反り返った形に研がれていた。
「さて、これで、ノコギリのベースが完成です。あとはこれを互いの溝ににはめ込んで、一つの大きな板にします。あ、メーロン、確かナイフを持っていましたよね? 少し、かしてください」
「あーもー勝手にせい。ワシャすこし寝るぞ」
エバは、メーロンの腰からナイフを抜き取り、ノコギリのベースに垂直に当てた。
そして、手の装甲を使って、ナイフの背を叩き、均等に溝を作っていく。
その後、グラインダーを手で回転させ、惰性で回ったところに刃の部分一つ一つを、グラインダーの角で丁寧に削っていった。
「これで完成です。力を入れすぎると、簡単に折れてしまうので、慎重に使ってください」
「はぁはぁ。やっと完成か……。ノコギリ一本作るだけでも重労働だな」
「この状況にしては、よくできたノコギリだと思います。二人とも、本当にお疲れさまでした」
エバがぺこりと頭を下げた。
なにもない、己の体と知恵だけの中、よくできたと思う。
不格好なノコギリだが、俺には、まるで伝説の剣かなにかに見えた。……伝説は言いすぎだな、ちょっといい感じの剣くらいだな。
なんにせよ、これで、ようやく木を切れる。
これほどの苦労をして、やっとの思いでノコギリを作ったのだ。どうか、フォレスディエナに効果があってほしいものだ。
そして、いよいよ俺たちは、フォレスディエナとの決戦に臨むのだった。




