黄金の森で! 黄金の果実の味!
まさか二つ前の話をとばして投稿してしまうなんて…
まさかの本日3回目の更新です(笑)
追加した話は、エバが匂いフェチだったり、ムサシをはむはむしたりします。
ストーリー的にはあまり関係ない話かもしれませんが、よかったら一読してください。
では、また。
「魔法はどうじゃろう? 鉱物でできているのなら、ワシの雷撃魔法も通用するのではないかのぉ」
「おそらく通用します。しかし、あの巨体では、生半可な電撃では効果が薄いでしょう。同じく、黄金の果実を食べさせるのも、相当な量が必要となってしまい、現実的ではありません」
「たしかに、俺たちからしたら静電気みたいなもんか。それじゃあ、目や口の中はどうなんだろう? そういう部分は、どんな生き物だって弱点だろ?」
「確かに、弱点だと思いますが、問題はどうやってそこまでたどり着くかですね。目を狙うために、悠長にロッククライミングをしていて、木や岩に体当たりでもされてしまえばおしまいです。口のなかは……、咀嚼されてしまえば、イチコロですね。なにか罠を仕掛けるという手もありますが、あれほど大きな竜です。相当な設備を作らなければなりません。この環境で、はたしてそれがつくれるのかどうか……」
エバは、うつむき、黙りこんでしまった。俺も、もはや一言も話せず、ただ悶々とフォレスディエナとの戦いのイメージをした。
直接対決は、無謀。罠は手間がかかりすぎる。魔法は期待できない…。
みんなが黙りこんだ静寂を、メーロンが破った。
「ううむ。調べてわかったのは、勝つのは絶望的じゃということじゃな! ふぉっふぉっふぉ!」
「笑えねーよ……」
うーん。なにかいい方法はないのかな。
俺は、背後から迫りくるフォレスディエナの光景を思い出していた。
その光景には、どこか違和感がある。なんだ? この違和感。
「ムサシ、あまり悩みすぎないでください。また調べてみれば、なにか新しい発見があるかもしれません」
「いや、違うんだ。なにか、違和感があって……」
「あの恐ろしい竜を避けたくなる気持ちはわかります。けれど、奴も生き物である以上、必ず弱点はありますよ」
避ける? そうか!
「そうかわかったぞ! 違和感の正体が!」
俺はがばっと立ち上がって二人を見た。
エバもメーロンも驚いたように目を丸くしてこちらを見つめてくる。
「なにがわかったんじゃ?」
「木だよ! あいつの弱点は! 黄金の果実の木!」
「それは、先ほども話したように、現実的な策ではないかと」
「ちがーう! あいつ、俺たちを追いかけるときに、黄金の果実の木を避けてたんだ! 他の木は容赦なく踏みつぶしてたのに、あの木だけ! これってなにかあると思わないか!?」
「むむ、そういえば、奴の通った後にできた轍も、不自然に曲がりくねっておった。今思うとあれは、黄金の果実の木を避けていたのかもしれんのぉ。単なる共生関係にしては、少し神経質な気がするわい」
「だろ!? なぁメーロン! あんた確か、黄金の果実をとってたよな!? エバ、ちょっと調べてみてくれないか?」
「承知しました」
エバはメーロンから、黄金の果実を受け取り、さっそく口に入れようとした。
「あ、ちょっとまて、エバ。お前、それ食べても大丈夫なのか?」
「問題ありません。私に毒は効きませんから」
万能かよ、魔導兵器……。エバは、再びリンゴのような形の果実を両手で持ちなおして、しゃくりと齧った。
果実からあふれる汁が、ぽたりと地面に落ち、あたりには食欲をそそる甘い香りが立ち込める。
俺とメーロンが見守る中、エバは、黙々と咀嚼していた。
「うぅ……」
「エバ!」
突如、エバは顔を下げ、苦しそうなうめき声をあげた。
まさか、毒が効いたのか? そういえば、微弱な魔力が流れてるって言っていたし、その可能性も十分いあり得る。
そう思ったとき、エバは流れ星のように目を輝かせながら顔を上げた。
「うまい! とろけるような舌触りは、舌で押すだけで優しくほどけ、口の中いっぱいに果汁をまき散らしています! そして、あふれる果汁から放たれる香りが、私の嗅覚すべてを埋め尽くし、あたかもここが天上の世界かのような錯覚をしてしまうほどの甘美! 甘さの中に、ほのかに潜む塩気と酸味のまさに黄金比率な割合が、私の舌を蹂躙しています! ああ……、私が今まで食べてきた土だとか鱗とは比べ物になりません!」
唖然とする俺とメーロンを尻目に、エバは上気した頬を抑えた。
つ、土とか鱗って……。今度から、エバの分の食事も用意してあげよう。
早口で感想を言い切った彼女は、そのままあっという間に黄金の果実を食べきってしまったのだった。
芯どころかヘタまでもをきれいに平らげた彼女は、食後の余韻に浸っているのか、うっとりとした表情で宙を眺めている。
「おい、エバ。エバ!」
「ふぁい……?」
「それで、どうだった?」
「とても、おいしかったれふ」
「そうじゃなくて! フォレスディエナとの関連性だよ!」
「あ、そ、そうでした! 私としたことがついうっかりしていたようです。ええっと、ですね。皮の部分と、ヘタの部分が、フォレスディエナの角質と同じ成分であることがわかりました! あと、とてもおいしかったです!」
「味の感想はいいよ。さっき散々聞いたから。それにしても、角質と同じ成分? ってことは……」
「黄金の果実は、フォレスディエナの体の一部。ということじゃな」
「そうです。ですが……」
「どうした?」
エバは恥ずかしそうにスカートの裾を握り、もじもじと身をよじっていた。
「その、まだ、はっきりとは断定できないので……。もう一個食べてもいいですか?」
そんなに恥ずかしそうに言わなくてもいいのに……。
「……いいぞ。なぁメーロン?」
「うむ、まぁ普段がんばってくれとるし。一個といわず好きなだけ食うとええ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
メーロンの荷物袋を抱きかかえるようにして座り込んだエバは、無我夢中といった様子で黄金の果実を食べ始めた。
「うまいか?」
「ふぁい! ムサシも食べますか?」
差し出された食べかけの果実からは、甘い香りと、あふれ出る果汁が俺の食欲を刺激する。
思わず、ごくりと喉を鳴らし。はっと意識を取り戻した。
「ダメダメダメ! 俺には毒だからな!? それ!」
「うふふ、冗談ですよ」
エバは、とても幸せそうに果実を頬張った。
會田ムサシはエバから渡された果実を……食べませんでした。
彼が食べる果実は、いったいなんなのでしょう。




