黄金の森で! 涎!
「いたたたたた!」
枝に全身をひっかかれながら、俺は地面に着地した。
「うう、クッソ。ひどい目にあった。みんな無事か!?」
「無事じゃー」
「大丈夫です」
二人の声が聞こえて、ほっと胸をなでおろす。
「ジジイ! てめ、いい加減にしろよ!」
「ふぉっふぉ、すまんすまん」
「喧嘩は後にしてください。まだ、近くにメガスラルガがいるはずです」
「さっきは、焦りから本来の力がだせんかったしのぉ。今度こそ狩るか」
「よせ! ジジイ、今はおとなしくしてろ! 頼むから!」
「なんじゃつまらんのぉ」
このじーさん、実力は本物なんだが少々クレイジーすぎんだろ。
「あ、あっちに、黄金の果実らしき反応があります」
「んー? あっちは。はて方角がわからんのう」
うっそうとした森は、日の光を遮り、方角を掴むことができなかった。
「とにかく、いくしかねーだろ。このままここにいたってらちがあかねーし」
「そう、ピリピリするな。次は大丈夫じゃって」
「信用できねーよ! このおさわがせジジイ!」
「ふぉっふぉ。ワシからすれば、このくらい日常茶飯事じゃよ。それに、若いころを思い出すわい」
どんな日常だよ……。このじーさん、若いころとかいったい何してたんだ?
「行きましょう。夜になってしまったらむやみに動くこともできません。できれば、もう少し周囲の状況が見えるところへ移動したいところです」
そういって、エバがあるきだした。じーさんよりだいぶ安心できる背中だ。俺は、その小さな背中を追いかけ、隣に並んだ。
「ふぉっふぉ、ゆけい若人たちよ! 黄金の果実はすぐそこじゃー!」
「いや、じーさんもこいよ!?」
エバの案内を頼りに、森の中を進んでいく。かき分けなければ人ひとり通ることすらままならない密林は、俺たちの拠点よりはるかに濃い草の臭いがしている。
ふと、その匂いの中に、なんだか甘い香りが混ざり始めた。
その匂いは、進むほどに濃く、強くなってくる。
「なんだこの匂い? なんだか美味しそうな匂いがする」
「これは黄金の果実の匂いじゃな」
「確かにいい香りですが、気をつけてください。説明したとおり、その果実には毒があります」
「わかってるよ。エバこそ、ふらふらっと食べちゃだめだぞ……。おい、本当に食べるなよ?」
「もちろんでふ!」
エバは水も食料も必要としない。そんなことはすでにわかり切っていたことだったが。振り向いた彼女の口からは、開いた蛇口のようにだらだらと涎が流れていた。
口から流れた涎は、ぽたぽたと彼女の胸に着地してつつっと地面に向かって流れていく。
俺は、ポケットから、ハンカチを使ってエバの口を拭ってやった。
このハンカチは、先日、ポケットの中に入っているのを偶然見つけたものだ。おそらく、もともとポケットに入っていたが、気がつかなかったのだろう。




