黄金の森で! 魔法の力加減!
俺たちは、木々をかき分け、森の深部へと向かっていた。
今回は珍しく俺が一番先頭で、後ろにはエバ。しんがりは、ひどくむすっとした表情のメーロンが務めていた。
「あの、どうしてメーロンはあんなに機嫌が悪いのですか?」
「ん、ああ。昨日の夜、ゲキシュウ草の加工をしてたら、起こしちゃってな」
「ああ、それで。メーロン、災難でしたね」
「災難どころではないわい! 夢の中で死んだ家臣共が手招きしておったわ!」
「いやー、悪い悪い。うっかりしてた」
「まったく、今後は気をつけるんじゃぞ……。さて、そろそろ黄金の果実のなる木が見つかってもおかしくないんじゃがのー。エバ、お主の魔力探知でみつからんか?」
「木なのに、魔力探知を使うのか?」
「通常の植物には魔力は存在しませんが、なぜか黄金の果実の木には微弱な魔力が流れているんですよ。その理由はいまだに不明ですが、深緑竜と何らかのかかわりがあるのではないか、という説もあるそうです」
「ふーん」
深緑竜と黄金の果実、か。これで囚われのお姫様でもいればなかなかドラマティックな展開なんだけどなぁ。
そんなことを考えている俺の隣で、エバは三角の突起を青白く光らせながらあたりを見回していた。その姿を見て、俺はふと疑問に思うことがあった。
「なぁ、エバその……、おでこに手を当てる意味ってあるのか?」
エバは、手のひらの側面を額にあて、遠くを見るようにして探知を使っていたのだ。しかし、どう見ても探知を実行しているのは目ではなく頭から生えた三角の突起に見えるのだが、どうなのだろう。
「これは、雰囲気。というものです」
「雰囲気?」
「ええ、いかにもなにか探してるように見せた方がムサシ達もわかりやすいかと思いまして」
「その気遣い、いるか?」
「そんな……、いり……ませんか……?」
エバは、とたんに眉尻を下げ、悲しさを全力で表現した表情になった。そして、徐々に突起の光も弱くなっていく。あれ、これ、探知できなくなってない?
すると、メーロンが俺の首を腕で挟んで引き寄せた。
「おい、あまりあの子の機嫌を損ねることを言ってはいかん。 見ろ、魔法の効力がみるみる失われておるではないか」
メーロンは、耳元で囁くように言った。
「ええ? そーなのかよ? どうすりゃいい? っていうか、エバって機嫌とかあるのか」
「そりゃどうみてもあるじゃろう。あの子自身、自分に感情があると気づいとらんようじゃけど。それとな、機嫌を治すんじゃったら、お主。褒めちぎればよかろう」
「ええー、そんなんでいいのかよ」
「ええから、ほれ」
メーロンに突き飛ばされ、エバの前に立った。彼女は、今にも泣きだしそうな不安気な表情で俺を見つめる。
なんでそんな表情なんだよ……、ってそうか、自分の知識と俺の言葉の矛盾でどうしたらいいのかわかんないんだな。
「ああ、いやいや、必要必要! もーエバってば気遣いさん! 本当にエバがいてくれてよかったよ! その調子で頼むぜ! よ! 社長!」
みるみるエバの表情が明るくなっていく。わかりやすい……。
「そうでしょうそうでしょう。 社長というのはよくわかりませんが、私は、人のために作られた魔導兵器ですから! そのくらいの気遣いは当然のことなのです!」
再び、エバの突起の光が強くなった。魔法って、機嫌とかにも左右されるんだな。
後ろを見ると、メーロンがにやりと笑いながら親指を突き立てていた。ていうかこれ、別に俺じゃなくてもよかったんじゃね?




