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地下で! 遭難!

【ムサシ】






 薄暗い地下を歩きながら、俺はこれまでの出来事を整理していた。

 整理もなにもあったものではないが、とにかく俺は、腹がすいてコンビニにいこうと思い、自分の部屋の扉をあけた。しかし、その先には本来あるはずの廊下がなくて、かわりに真っ黒な穴があいていたのだ! うん、やっぱり意味がわからない。というか、いまは、まともに頭が働いていない。


 俺は、16時間にも渡る真実の愛の探求(ギャルゲーのトゥルーエンド)を乗り越え、兵糧ひょうろうを補給しようとした矢先だったので、心身ともに疲れきっており、うっかりその穴に落っこちてしまったのだ。


 これは死んだなぁとか、母さんごめん俺も父さんのところへ行くよとか、パソコンのハードディスクだけは確認せずに捨ててくださいとか思っていたらダイナミックに顔面から着地した。顎がなくなったかと思った。

 けど、すぐにその痛みは気にならなくなったんだ。それよりもっと、俺の意識をうばうものがあったから。


 着地した後、俺の周りの景色が、見慣れた実家の白い壁から、石造りのごっつい壁に変わっていた。しかも、変なじーさんに声をかけられるし、おどろどろしい蝋燭がいくつも立っているしで、痛がっていられるほどの心の余裕がなかったんだ。


 しかもそのじーさんには、俺は世界を救う救世主だとか言われるし。今思い返してみても、やっぱりこれは夢なんじゃないだろうか?

 日頃のメンタルトレーニングの結果、ゲーム脳が発達しすぎて、いつもの家がファンタジー風の廃城に見えているとか。


 そのとき、鈍い痛みが顎に走った。



「てて、夢なら痛みなんて感じない……か?」



 顎をさすりながら一人ごちる。それに、このかび臭いにおいや、ひんやりと淀んだ空気は、幻覚にしてはリアリティがありすぎるような気がする。幻覚なんて今まで見たことないからわからんけど。

 足元から視線を上げると、冷たい石の壁だけがどこまでも続いていた。

 光は、手に持った松明だけ。通路の奥は暗闇が充満していた。この通路、いったいどこまで続いているんだ?



「ん……、あれは」



 ふと、通路の先でなにかが光った。少し歩く速度を早めてその光の元へとむかう。

 裸足の足の裏に、砂粒がくっついてひどく不快だ。



「あちち」



 途中で松明を垂直に持ったせいで、熱い油に手を灼やかれてしまった……。

 ああ、もう本当に帰りたい。


 そんなことを考えながら通路を進むと、そこには重々しい銀色の扉が行く手を阻んでいた。

 どうやらこれが松明の光を反射していたようだ。

 そしてきっと、この奥にじーさんの言っていた魔導兵器があるんだろうな。緊張からか、松明をもった手が汗ばんできた。

 俺は竜の頭が彫刻された取っ手をにぎり、扉を開いた。しかし、そこには俺の期待していたものはなかった。



「嘘だろ……」



 そこにはまたしても薄暗い通路。心なしか、さっきよりも闇が濃くなっているような気がする。

 そして相変わらず、通路の先には松明の光は届かないようで通路の奥は暗闇に包まれているのだった。



「なんで通路と通路の間には扉があるんだよ。意味ないだろが!」



 ぶつくさと文句をたれつつも、進まなければどうしようもないと自分に言い聞かせた。

 そして重い足を引きずるようにして、再び歩き出す。




 ーーーーそんなこんなでだいたい、1時間くらい歩いただろうか。


 体感だから正確じゃないけど、たぶんそのくらいだと思う。そもそも、ここに来てからというもの、日の光を一切みていないのだそれでは時間の感覚が狂ってもおかしくない。光源は蝋燭か松明の炎だけ…。

 俺は、手に持った松明の炎を見ると、強くなったり弱くなったりゆらゆらと揺れていた。

 ただただ不安に押しつぶされそうになりながらも、俺は薄暗い通路を歩き続ける。



「なっが! なんなんだよこの城! どんだけでかいんだよ!」



 通路に木霊こだまする声が虚しい……。

 そして、再び通路の奥でなにかが光った。

 こんどこそ、そう思って駆け出して、光の元にたどり着いたとき、俺は愕然がくぜんとしてしまった。


「また……扉」



 これでかれこれ7度目の扉だ。

 もちろんこれまでの6回の先にあったのは通路だけ。だから今も歩いているわけで……。

 もう、この扉を見るのも嫌になってきたんだけど。



「頼む頼む頼む頼む頼むぅ!」



 必死に願いながら俺は取っ手を掴んだ。彫刻の竜が、笑っているような気がして嫌な予感しかしない。い、いやダメだ! 弱気になるな會田ムサシ!


 意を決して扉をあけ、そして自然と、叫んだ。




「んがあああああああ! んなんでまた通路!? way!? なんなんだここはああああ!」




 またしても、通路。


 なんのかわりばえもしない、つまらなすぎる通路。

 せめて、「目的地に近づいてますよー! がんばって♥」くらい言ってくれるバニーガールでもいてくれたらもう少しやる気が出るんだが。

 そのくらいの配慮をしてほしいもんだ。



「はぁ、行くか」



 とめた足を再び前にだす。

 一度引き換えそうかとも思ったが、ここまで来たのだしそれも億劫だった。




『おーい』

「うお!」



 突然、通路にじーさんの声が響き、俺は驚いて変な声をだしてしまった。



「じーさん!? どこにいるんだ!?」

『いやいや、ワシはそこにはおらんよ。魔法で声を届けておるんじゃ。帰りが遅いから心配になってのぅ』

「ちょーどよかった! なあ、この地下通路いくらなんでも長すぎないか? もうかなり歩いてると思うんだけど、全然目的地にたどり着かないんだ」

『あ!』


 あ? なんだいまの、「やらかした」感のある言葉は。

 嫌な予感しかしないんだが。


「おい、なんだ今の『あ!』は」

『ふぉっふぉっふぉ。やっべ、やらかしたわい』


 あっけらかんと言うメーロンの言葉には、反省の色は微塵も感じられない。

 このじーさんは、人としてどこかダメな気がする。


「勘弁しろよじーさん! どういうことだよ!」

『すまんすまん、防衛魔法を解くのを忘れておったわ。今そこは無限に続く通路の亜空間になっとる』

「無限……?」


 ってことは、いくら歩いてもたどり着かないってことか? ずっと? 食料もなしに? この通路で!?

 とたんに恐怖と焦りが俺を襲った。こんなところで誰にも見つからないまま骨になるなんてまっぴらごめんだ! 俺は、孫たちに囲まれて、みんなに看取られながら死にたいんだ!


 

『気がついてよかったわい。このままじゃお主、そこから進むことも戻ることもできずに骨になるところじゃったの、ふぉっふぉ』

「いやいや、ふぉっふぉじゃねーよ!? なにうっかり救世主を餓死させようとしてんの!?」

『そんな怒るでない。人間誰しも間違いわあるじゃろう。ワシみたいなスーパーエリート魔法使いにもうっかりはあるわい』

「いまのところあんたに、スーパーエリートな部分はみえないぞ。このモウロクジジイ」

『がーん、メーロンショックじゃ』

「ショックっておい! 俺の方が数万倍ショックだっつーの!」



 ダメだ、このじーさんとまともに話していると頭がおかしくなりそうだ。

 とにかく、さっさとここから脱出したい。



「もういいから、はやくその魔法を解いてくれよー」



 これ以上、メーロンを責めてもなにも解決しない。冷静になるんだ俺。ここで、このじーさんに愛想をつかされたらそれこそ白骨化エンドじゃないか。

 失った時間は痛いが、空腹も限界が近いし、さっさと魔導兵器とやらを起動させて帰ろう。




『任せなさい。ゆくぞ! ん、んほおおおおおお!』



 メーロンの雄叫び(?)が通路の響き渡る。音が反響して、まるで何人ものメーロンが叫んでいるようだ。



「……その気色悪い掛け声は必要なのか?」

『んにゃ、別にいらん』

「じゃあ、省けよ! 発狂したのかと思ったわ!」

『そーカリカリしなさんな。そっちはなにか変わらんか?』


 カリカリさせてんのはお前だろーが! い、いや冷静に冷静に。ビークールステイクール俺ぇ!

 そう思いつつ、辺りを見回したが、特にかわった様子はない。相変わらず、なんの面白みもない石の通路が延々と続いているだけだ。

 先ほどまでと、変わったものは何もない。あるとすれば、俺の中の感情が、空腹とむなしさから、怒りと恐怖に変わったくらいだ。ろくでもねぇ。



「なにも……起きてないぞ?」

『そんなはずないんじゃがのー』

「おい、しっかりしてくれよじーさん。失敗したんじゃないか?」

『うーむ?』



 そのとき、通路の奥の暗闇でなにかがうごめいた気がした。

 ちょうど通路の中心で、なにかが。

 しかし、今は、なにもない。

 手に持った松明の炎が、相変わらず俺の心をうつし出すように、右へ左へと不安定にゆらめいていた。



「なんだ?」

『どうしたんじゃ』

「いや、今なにか、いたような……」



 気のせいじゃない。……はずだ。

 たしかに今、暗闇の向こうでなにかが動いた。目には見えなくとも、この全身の毛を撫でられるような感覚は、俺の体が何らかの危機を察知している証拠だ。

 見えない力が通路の奥から、空気に乗って流れてきているようなそんな気がする。

 恐る恐る一歩踏み出した。


 けれど、俺の足は、踏みしめるはずの床をすり抜ける。あれ、この感じつい最近あったような。




「うおおおおおおあああぁぁ!?」

『あ、いい忘れとったけど、亜空間から元の空間に戻るとき、どこに入り口が出現するかわからんからきをつけろぅ』

「おっせーよおおおぉぉぉ……!」


 本日二度目の落下。

 落下する間際、暗闇の奥に白いなにかが一瞬見えた。

 けれど、それの正体を確認する暇もなく俺は地の底へと落ちていく。


「おおおおおおおお! ふんぬ!」


 今回は空中で足から落ちるようにバランスをとったので、なんとか俺のベビーフェイスを守ることができた。

 それと着地の瞬間になにか上に引っ張られる感覚がして、勢いを弱めてくれていたようだ。恐らく、最初にここに来たときもそうだったのだろう。でなければ、今頃、俺の頭と肩の上には定規が置けるくらいまっ平に違いない。


『おうい、無事かー?』

「体は無事だけど心は無事じゃねぇ。死ぬかと思った」

『ふぉっふぉ』

「いや笑ってる場合じゃないからね! 俺この一件が終わったら絶対帰るからな!」

『まぁまぁそう怒りなさんな。ところで、近くに魔導兵器はあるかのぅ?』




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