黄金の森で! いつか知れるのかな、まだ君も知らない、本当の君を!
「それで? 何を話したいんだ?」
「いえ、これと言って特別な話ではないのですが。私は、ムサシの従者をちゃんと務められているでしょうか?」
「んん? そんなの、当然だろ? むしろ働きすぎで少し申し訳ないくらいだ」
「そうですか。それならいいのですが。私は、実のところ、先日目覚めたばかりで、どのように主に尽くせばよいのかわからない部分が多いのです。特に、人の心というものは非常に複雑で、私には到底理解できそうにありません」
なるほど、エバは真面目過ぎるんだな。だから、ずっと自分がうまくできているのか不安になってしまうんだ。
特に、生き物ではないエバにとって、自分の常識では測れない相手をお世話しているのだから、その不安はかなりのものだろう。
それに、この子はまだ、産まれたばかりの赤ん坊のようなものなんだ。知識はたくさん詰め込まれているが、それに伴う経験が圧倒的に不足している。
俺がバイトしてた時の経験からだけど、仕事の話はできるけど、雑談はできないみたいな、そんな感じ。まぁそのバイトも、引きこもりと同時に辞めちゃったんだけどな。
「エバ。俺にも人の心はわからないよ。同じ人間だからって、すべてがわかるわけじゃない」
「そうなのですか? ですが、ムサシとメーロンはなんだか通じ合っているようなそんな気がするのです。それが、きっと私にはわからない人である部分のような気がして」
「ああー、いやあれは単に、メーロンと趣味が合うっていうか。エバにもそういう友達ができればそのうちわかることだと思うぞ。自分の言いたいことを言っただけなのに、偶然そいつも同じことを考えているっていうか」
「私には、わかりません」
「でも、エバだって、俺と一緒に狩りをしてるときにさ。初めのころは、お互いバラバラに動いてたりして獲物を逃がしてたろ? けど、最近は、俺の支持なしでも逃げる獲物に追い打ちをかけたり、向かってくる奴にけん制したりd着るようになったじゃないか」
「それは、少しずつムサシの行動パターンを覚えてきたにすぎません」
「そう、それだよそれ!」
「え?」
「そうやって、少しずつ覚えていけばいいんだ。俺たちも、他人と関わっていくうちに、少しずつそういった部分が鍛えられてきたんだ。別に変なことや間違ったことを言ったっていい。ただ、自分の気持ちを今みたいに伝えて、相手の反応を知ることが大事だと思うな」
「なるほど。自分の気持ちを、伝える。ですね」
「そうだ。エバは少し一人で張り切りすぎてるんだよ。もう少し、俺たちに寄り掛かってもいいんだぜ?」
「寄り掛かる、ですか……」
とん、と、エバが俺の背中に自分の背中を押しあててきた。彼女の素肌の体温が、服越しに伝わり、なんだか顔が熱くなってくる。
「そ、そーいうことじゃないんだよなー。まぁいいか」
「背中を預けると、なんだか少し、安心します。それに、匂いが」
「匂い?」
エバは、体を反転させたのか、俺の両肩をつかみ、顔を背中にこすりつけてきた。
「すんすん。ムサシの匂い。落ち着きます」
「ば、嗅ぐなよそんなもん!」
ななな、なんちゅー恥ずかしいことをいってんだコイツ!
かっと顔が熱くなる。そういえば、今俺は汗びっしょりだったんだ。俺は慌てて立ち上がった。
「俺はもう寝るよ。エバも、あんまり気を張りすぎるなよ? これは命令じゃなくて、お・願・い・だからな?」
「承知……。いえ、わかりましたムサシ。おやすみなさい」
「おう。おやすみ」
俺は、まだ少し熱い顔を両手で叩いて寝床に戻った。空は、赤青白の星がいくつも煌き、黒い夜空を彩っている。
俺は、その美しい景色を目に焼きつけて、ついさっきみたエバの体を頭からふりはらい目を閉じた。
でも瞼の裏にはさっきの裸が様々なアングルで写し出され、目はギンギンさえてしまったのだった。
ただこう、重要な部分だけがぼんやりとしているのがもどかしい。結局そういう部分は凝視できなかった。というか、できるかっつーの!
……いっそ正面向いて話せばよかったかな。俺のチキンめ。
読んでいただいた方々へ!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
ここからがようやくチュートリアルを終えたムサシ達の物語。
これからも、是非とも遊びにいらしてくださいねー!




