エデンの国から! 出発!
数日後。
「うむ、黄金の森に向けて出発じゃ!」
朝、東の空に昇る朝日に向かって準備体操をしていたメーロンが、唐突に言った。なんの前触れもなく、さも始めからそうなることが決まっていたかのように。
俺とエバは朝食の仕度をしている最中だったが、ピタリとその動きをとめ、朝日を眺めるメーロンの灰色の後頭部を眺めていた。
「いやいやいや! 『うむ』じゃねーよ!? 急すぎるだろ!」
「いやぁ、お前さんが意外にも早くこの世界に慣れているようじゃしのぉ。まさかもう、一人でヴルガーを狩れるほどになるとは思いもよらんかった。それだけの腕があれば、そうそう死にはせんじゃろう」
「俺のことを認めてくれるのは嬉しいけどよ。黄金の森に行くってことは、生態系の頂点の竜ってのを退治しに行くんだろ?」
「うむ。そして奴は、メガスヴルガなんぞよりも遥かに強い」
そんなの相手にまともに戦えるかどうか不安だ。俺自身、なにか特別にパワーアップしただとか、超強力な魔法を習得したとかでもないし。
「お主自身の成長もあるが、ワシが出発を決めたのにはもう一つ理由がある」
「もう一つって、なんだよ?」
「お主とエバの連携じゃ。お主らは、なかなかいい相棒のようじゃな」
「当然です。私は、ムサシの従者ですから」
エバが、大きく胸を張った。胸元についた水晶が、朝日に照らされて緑色の光を反射している。
「お主らなら大丈夫。それに今度からは、ワシも狩りに加わるからの。百人力、いや千人力じゃぞ! ふぉっふぉ!」
「うーん」
それでも、俺はやっぱり少し不安だった。
メシの時間に聞いた話だと、森や砂漠に住む生き物は、こことは違って多種多様で、それだけ危険な生物も多いとのことだ。
「ムサシ。私ももう行っても大丈夫だと思います。私たちなら、きっとうまくいきますよ! それに、食料はまだしも、水がなくなりそうですし」
確かにここにはもう、飲める水がない。先日、偶然地下室から水の入った樽を見つけたが。それももう残り少ないのだ。
もしもその水に、防腐の魔法がかけられていなかったら、とっくにこの土地を離れていたかもしれない。
「エバ……。そうだな、行こう! いつまでもこんな筋張った肉じゃなくて、そろそろ別の肉も食いたいしな!」
「肉しか食わんのかお主は。森に行けば野菜も魚もあるぞ。それだけではない、岩塩や香草などの調味料が多くある。今よりよっぽどうまい飯が食えるぞい!」
「野菜に魚に塩!? うおおおおお! めちゃくちゃやる気出てきた!」
正直、現代の様々な味に慣れた俺にとって、非常に淡白なただ焼いただけの肉は物足りなくて仕方が無かったのだ。
せめて、塩がほしい。
「単純じゃのぅ。よし、そうと決まれば行くぞ! ここからだと、早くても三日はかかるからのぉ」
「おう!」
「はい!」
俺たちは、必用な荷物を持つと南に広がる森林を目指して、歩き始めたのだった。




