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【ここから本編!】廃城で! 救世主召喚!

さらに少し修正しました!

ううむ、他の話もすこしずーつ無駄な描写を削っていきますよーう!

【ムサシ】





 荒れ果てた廃墟の中。無数のケーブルが突き刺さったヒロインは、微笑んでいた。


『私の中の、別の私が言っています。この世界の生命を新たな段階へと進めなければならない、と』


 ところどころノイズの混じるその声は、もはやかつての快活なヒロインを感じさせず、彼女が異形の化け物になってしまったことを理解させられた。

 主人公の男は、ヒロインの元へと駆け出すが、見えない壁に阻まれてたどり着くことができない。壁を叩きつける主人公の拳は、少しずつ、血に染まっていく。


『生命だとか! 別の私だとか! そんなことはどうでもいいんだよ、アヤ! お前はそれでいいのかよ!?』

『トシアキ……! 私は……、私はこんなの嫌だよ! トシアキとずっと一緒にいたい!』


 アヤというのは、ヒロインの名前だ。謎の転校生キャラであり、人外のパワーを持つ超人類という設定なのだ。夕方の路地裏で、怪物に襲われていた主人公、トシアキを助けたことから二人はであい、そして、周囲を巻き込むドタバタラブコメディを展開していった。

 現在は、メインヒロインのアヤルート。そのクライマックスだ。



『だったら! 俺と! 一緒に来い! 他の全てがどうなったっていい! 何もかも全部、失ったってかまわない! お前が好きだ! アヤああああああ!』

『トシアキ……!』

『いまいくから! 待ってろ! クソ、消えろよ壁えええ! うおおおおおお!』


 トシアキの手が光り輝き、その拳は壁に向かっていった。



バキイイイイイイン!!


 壁は粉々に割れ、トシアキは、アヤのもとへと駆け寄っていく。そして二人は見つめあい、抱きしめあった。


『トシアキ……。ごめんなさい、もう、私には止められないの』

『いいんだ。いいんだよ、アヤ。俺たちだけでも、この世界で生きていこう』

『トシアキ……』


 そして、熱い接吻をかわす二人。アヤの体から光があふれ、そして、画面は白一色に塗りつぶされる。

 しばらくすると、真っ白な画面の中央に、うっすらと何かがうかびあがってきた。








『THE・END』






 ……え?


 え、ちょっとまって?


 これで終わり?



「うっそだろこれ!? その後どうなったんだよ!?」


 ちゃららーんと、BGMと共に流れ出すスタッフロール。本当に終わりやがった……。


「これなら、まだサブヒロインルートの方が感動したっつーの! 結局、アヤの中のスーパーミトコンドリアはどうなったんだよ!? ……ん?」


 スタッフロールの後、荒廃した世界で手をつなぐ二人のイラストが表示されていた。ん? 隅っこになにか書いてある?

 『シナリオライター、田中太郎氏に、ご冥福をお祈りします』。



「作家あああああ!? ああーもう、クソ!」



 俺は、モレステ4のコントローラーを投げ捨て、大の字に寝転がる。

 凝り固まった体から、自然と力が抜けて指先がぴりりと痺れた。体は緊張から解放されたが、俺の心は、もやもやとしたままだ。

 それもそのはず、今プレイしていたゲームは、入手困難な超激レアギャルゲー。数多のオークションサイトを渡り歩き、通常価格の三倍でようやく手に入れたのだ。

 そのラストが、こんな打ち切りエンドじゃやりきれないにも程がある! せめて、シナリオの代役くらい立ててくれよ!


「やっと、トゥルーエンドまでたどり着いたってのに……。まさかラストで、ヒロインが覚醒して、世界を滅ぼすとは思わなかった……。まぁ、意外性だけはあった。無駄に」


 天井には、見慣れた丸い蛍光灯が張り付いている。その隣にあるシミも、いつも通りだ。

 視界の隅に映る窓は、ついさっきまで真っ黒だったのに、今は濃い紺色へと変わっている。


「知ってる天井だ。って、もう朝かよ!」


 昨日の昼過ぎから、3作作品のギャルゲーをプレイして、経つこと16時間。

 さすがに、目は痛いし、腹も減った。指も腰も疲れきっているが、この空腹は耐えられそうにない。


「……コンビニでもいくか」


 俺は、重い体を起き上がらせ、自室のドアを開き、いつも通り一歩踏み出した。

 ……あれ、床ってこんなに遠かったっけ? 


 そう思いつつも、床を求めて俺の足は、下がっていく。もはや俺の足は、自分の意志では止められず、そのままバランスを崩して前のめりに……落ちた・・・。


「うおおおおぉ!?」


 落下しながらひたすらもがくが、手は空気を掴み、足は空間を蹴るばかり。自分の状況が全く理解できないまま、ただ気持ち悪い浮遊感に襲われた。


 やがて、視界の奥に、一点の光が見えた。


 光はどんどん大きくなり、視界いっぱいにまで広がった時、なにか膜のようなものを突き破る感覚がして、落下の勢いが弱まる。しかし、完全に殺しきれなかった勢いのせいで、俺は盛大に顎から着地したのだった。


「……ーーぉぉおおお! ぐぅえ」


 自分でも、どうやってだしたのかわからない声がでた。きっと、アヒルを捻り殺したらこんな声で鳴くんだろうな……。


「いってぇー。くそ、なんなんだ一体!? どこだよここ!?」


 痛む顎をさすりながら大きく息を吸い込んだ。カビっぽいような、埃っぽいような、そんな臭いが鼻につく。

 あたりをみまわすと、石造りの床と壁。それに、おどろおどろしい蝋燭が何本も床に立っていた。無造作に立てられた蝋燭は、悪魔の儀式と言われたら思わず納得してしまいそうなほど、不気味だ。



「よくぞ参ったな、選ばれし救世主よ」



 突然、声が聞こえた。背景と同化していて気がつかなかったが、薄汚れたローブを着た老人が、床の上に座り込んでいた。

 老人は、濃い緑色のフードから、青い瞳を覗かせて、こちらを睨みつけている。

 どうみても、不審者にしか見えない……。


「あ、あんた誰だ!? こ、こ、ここはどこだよ!?」


 警戒を通り越して、緊張してしまっているのか、俺の喉はうまく言葉を発せられないでいた。

 情けない……。けど、俺は聞かなきゃならない。

 あのじーさんが俺をここに連れてきたのは間違いないと思う。なぜなら、あのじーさんは、『よくぞ参った』と言った。だとすれば、ほぼ間違いなく、俺をここに呼び出したのは、このじーさんということなのだろう。

 しかし、目的はなんだ? ……金、か?


「お、お、俺を誘拐したってなんもでてこねーぞ! 死んだ親父の遺産だってぜんぜんたいした金額じゃねーしそれに……」

「まてまて、別にお主をとって食おうなどとはおもっとらんよ」


 慌てて話を遮るじーさんに、俺はより一層不安を募らせた。

 金が目的じゃないなら、まさか……命? ついさっきも、自分で思ったばかりじゃないか。ここはまるで、悪魔の儀式みたいだって。

 そんな想像が頭に浮かんだ瞬間、俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。


「じゃ、じゃあ、なんだってんだよ! ここはどこなんだ!? お、

俺は死ぬのか!?」

「ここは竜と人の世界ミトランシェ。そしてワシらがおるこの場所は、人の王国おうこくエデンの国。そしてお主は別の世界から召喚された人類の救世主じゃ。死なんから、死なんから落ち着け。な? アメちゃん……は、ないから豆をやろう、乾燥豆。ほれ」


 俺の足元に、豆が一粒転がってきた。つま先にこつんとぶつかり、やがて、止まった。


 竜と人の世界? 竜? 竜ってあの……竜ぅ?


 それに、ミトランシェ? ってなんだ? いや、どこだ? 


 エデンの国? 聞いたことがない。 召喚? 救世主? 誰が? 



「みと…ランシェ? エデン? 救世主…って誰が?」

「主じゃよ、主」


 じーさんは、しわがれた声でそう言うと、俺を指さした。


 え、俺が?



「マジで」

「マジじゃよ」


 頭の中が真っ白になった。もはや、俺の処理能力では追いつけないレベルに達している。じーさんが、なんだか妙に軽いノリなのも理解できない。

 きっと、今、俺はアホみたいな顔になっていることだろう。


「ふぉっふぉ! まあ突然呼び出されて気が動転してしまうのも無理はない。よいか、お主はのぉ、この世界を救うべくしてワシが召喚した救世主なんじゃ!」


 じーさんの声で、意識が戻ってきた。

 冷静になれ、まずは冷静になるんだ俺。とりあえず事情を聞かなきゃ話が始まらない。


「ちょちょちょーっとだけ整理させてくれ! まず救世主が必要な理由を教えてくれ! 別に俺には仲のいい友達もいねーし、親ともあんまり仲良くねーし、彼女もいねーから呼ばれたって困んない……けど、逆になんでそんな奴を呼んだんだ!?」


 少し冷静になってきた。俺が、救世主として呼び出された、ということは、ゲームなら俺は主人公ポジションということだ。

 それに、どうにもここはファンタジーっぽい感じがする。竜、とか言ってたし。

 これは、もしかしたら、もしかするのかもしれない。俺の、十八年と九ヵ月の人生は、ここから大きな躍進を遂げるのかもしれない。


「お主のそんな暗い部分聞きとうなかったわ……」


 俺も言ってて死にたくなったわ……。どうしてくれんだよこの心の傷をよ。引きこもりニートなめんなよチクショウめ。

 じーさんは、俺の話を聞いてか、これから話すことが億劫なのか、フードを深くかぶりなおした。そして、フードの隙間から見えている口が、重々しく開く。


「人類、滅びちゃいそうなんじゃよ」

「かっる!」


 その見た目から発せられたとは思えないほど軽い口調。ただし、その内容は、とんでもなく重たいものだ。

 じーさんは、さらに話を続けた。


「ぶっちゃけワシ一人しか残っとらんかもしれん」

「滅びちゃいそうなんじゃなくて滅びてるじゃねーか!」

「ふぉっふぉ、そうかもしれんのぉ」


 俺の声で、蝋燭の火が揺れた。

 というか、え? ちょっとまって、じゃあ、俺の召喚された世界って、このじーさんしかいないの!?

 こう、異世界に呼び出されるのってさ、普通、かわいいお姫様とか、くっ殺! な女騎士とか、ちょっとツンツンしてる魔法使いとかさ! あるじゃんそういうの!?


 なんで俺は、こんな廃墟みたいなところに呼び出されて、しかも、人類はじーさんオンリー!?

 なにルートだよそれ! ふざけんなよ! 水着回とかどうすんの!? ポロリは!? 男二人で、ビーチバレーでもやるの!? そんなことしたらポロリじゃなくてボロリしてしまうわ! 誰が見たいんじゃそんなもの!

 い、いかん、冷静に、冷静にだ。……よし、とっとと事情を聞いて帰る方法を教えてもらおう!


「……なんで、そんなことになったんだ?」


 どんな答えが返ってくるにせよ、ろくでもないことなんだろうな……。


「なんかのぉ、すっごいでっかい竜があらわれてのぉ、ワシ以外の人間、みんな死んじゃったんじゃよぉ」

「はぁ!?」


 ほらやっぱり! というかこのじーさんの言い方腹立つんだけど!


「もー正直やってられんって感じぃー?」

「やってらんねーのは俺のほうだっつーの! 人類あんた一人でどうやってその竜をやっつけるんだよ! つーかその話し方腹立つからやめろ!」

「ほほぅ、もう目的に気がつくとはさすが救世主様じゃ」


 じーさんは、豆の入った袋に肘を置いて、ずいぶんと偉そうに頬杖をついた。

 なんだかすごく腹立つじーさんだな……。

 というか、俺に竜退治なんてできるわけないだろ! 普通の高校生なんだから!


「いきなりそんなこと言われたって無理だ! 頼むから俺を元の世界に返してくれよ!」

「えぇー、ワシがんばって召喚したのにかえっちゃうのぉー?」


 くねくねと体を動かしたじーさんは、見ていてとてつもなく不快だった。


「いい加減にしろボケジジイ!」


 このじーさん、俺のことをバカにしすぎだろ! 重い話をかるーく話したり、死んだ国民に豆をぶつけようとしたり! だいたい今更だが、放心状態の奴にアメが無いからって、豆をなげてんじゃねーよ! 食わねーし、かわりになってねーよ!


「ボケジジイ……じゃと?」


 ぞくりと、背筋に悪寒が走った。じーさんの纏う空気が、一瞬で変わったのだ。

 うまく表現することはできない。ただ、例えばついさっきまで昼寝をしていた猫が、急に毛を逆立てた時のような。犬が、低い声で呻いたときのような、本能的に恐怖を感じる何かが、このじーさんから放出されている気がする。


「お、おう……なんだよ」

「ワシは、ボケジジイなどではない! ワシの名は、メーロン! メーロン・ラドバレル・ミトランシェ! この国の王にしてこの城の城主、そして国一番の魔法使いじゃ! わっはっは!」


 メーロンは、深い皺の刻まれた顔のわりには、元気いっぱいといったご様子で名乗った。

 というか、名前なんかより、もっとインパクトのあることを言ったぞ、このじーさん!


「お、王様!?」

「いかにも」


 短い返事の後、流れ出す沈黙。

 王様? 王様ってなんだっけ? たしか、王様ってこう、すごく豪華なお城に住んでて……。あ、そういえばここ城なんだっけ?

 それと、たくさんの人たちのトップで……、でも国民はみんな死んじゃってるのか。

 それに、威厳というか、風格が……、まぁなくはない……のか?


「本当に、王……様……?」

「そのとーり、そしてお主には王として最初の命令を下す。心して聞くがよい」

「いやだから俺は……」

「黙ってきけい!」

「うお!」


 一括入れられた。気迫だけなら、俺の親父に負けず劣らずだな……。


「よいか、そこの梯子から地下にいって封印されし魔導兵器を起動するんじゃ。そうしたらお前が帰る方法を教えてやる」

「……本当だな?」

「わしは嘘はつかん」


 メーロンの目をまっすぐに見つめた。彼はけっして目をそらさずに見返してきている。




 …………そんなにガン見されると、逆に嘘っぽいなー。


 けど、そんなことを言っても始まらない。ここで承諾しなければ、いつまでもここにいることになる。

 仮にこのじーさんから力づくで吐かせようとしても、俺を呼び出すような、不思議な術を使う人だ。もしかしたら、もっと直接的で、とんでもないことをしてくるかもしれない。

 さすがに、そうなってしまうと、丸腰の俺では太刀打ちできないな。せめて、竹刀か木刀でもあればよかったんだが……。


「……わかった。けど、封印されてるものを起動させちまっていいのか?」

「かまわん。封印といっても単に充電していただけだからのう。まぁ、充電期間が長すぎて人類滅亡したんじゃが」

「ダメじゃん」


 本末転倒じゃん。兵器の役割果たしてないじゃん。


「そろそろ起動させられる時期にきたんじゃが、わしはここから動けんゆえ。頼んだぞ」

「どうして動けないんだ?」

「ぎっくり腰じゃ」

「あ、そう…」


 ここまでずいぶんとファンタジーな感じだったのに、急に生々しい話になったな……。

 ぎっくり腰、か……。まぁ、痛いよな。なったことないからわからないけど。


「なんじゃぁその憐れんだ目は! お主ぎっくり腰を甘く見るなよ! シャレにならん激痛で夜も眠れんのだぞ! それにその兵器の治癒魔法があればこの腰の痛みも和らぐはずじゃし……」

「治癒魔法? あんたはつかえないのか?」

「使えんことは無いが、適正がなくてのぅ。せいぜい痛みを和らげるのが限界なんじゃよ。若い頃は自分でやらんでもどっかその辺の若い奴をひっかければすんだんじゃが」

「ナンパかよ!? ……んで、俺はどうしたらいいんだ?」

「うむ、この鍵を魔導兵器に差し込め、そして兵器の名を呼ぶんじゃ」

「名前? なんて名前なんだ?」

「うむ、封印されし魔導兵器。名を、『エバ』という」




 そして、俺は、メーロンに鍵を渡され、城の地下に眠る魔導兵器を起動しに向かった。


 正直、とても嫌な予感しかしない……。俺は、無事に元の世界に帰れるのか?

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