エデンの国で! 俺に託すなよ昨日の俺!
「さて、焼きあがるまでに、昨日の特訓の成果を確認するかのぉ」
「おう! 実は今日の昼間に何回か使ってみたけどバッチリ習得してたぜ! 見ててくれよ!」
俺は、手をかざして集中した。
昨日の特訓で受けた魔法。まずは雷の槍だ。
自分の手のひらから一筋の電撃が一直線に伸びていくのをイメージする。やがて、手のひらがじんと、熱くなり始めた。
「はぁ!」
声をだして気合を入れると、手のひらからはじける様な音と共に電撃が放たれた。
黄色い閃光に照らされ、メーロンとエバの、影が細長く伸びる。
電撃は、立て掛けてあった木にの板に見事命中して、真っ二つにへし折った。
焼け焦げた折れた部分からは、白い煙がゆらゆらと登り始めている。
「ほぉ、こりゃ驚いた! いきなりその威力で撃ちだせるとはの!」
「ふっふっふ。どうだみたか! あ、これが俺の魔法ってやつよ」
「どうやら、ムサシは、受けた攻撃の威力もそのままに撃ちだすことができるようです」
「ふーむ、なるほどのぉ。出なければいきなりこの威力はだせんしの。納得じゃ」
「だーもう、エバぁ! それ言ったら格好つかないだろ!?」
「申し訳ありません」
「ガキかお主は」
「あんたにいわれたくねーよ」
続いて、風の魔法による衝撃波と扇状に拡散する電撃の魔法を使った。
今覚えているのはこれと、最初にくらった放射状に電撃をばらまくものの計4つだ。
「ふむ。どれも威力はワシのものと同じ。しかしのぉ」
「なんだよ? 悔しいのか?」
「そんなわけあるか、自惚れるなバカモン! ふと思ったんじゃが、お主の魔法、これ以上威力が上がるのか?」
「は? そりゃそうだろ。どういう理屈で強くなるのかは知らないけど、あんただって修行とかして強くなったんだろ?」
「魔法の威力を上げるためには、自身の魔力を高める必要があります。しかし、私が見る限り、ムサシにはそもそも魔力がないように感じるのです」
「え、それでどうやって魔法を使ってるんだ?」
「おそらく、ムサシは受けた攻撃の現象を再現しているだけで、本質的に魔法を使っているわけではないように思うのです。つまり、いくら修行を積んだとしても、今以上に威力があがるわけでありません」
「えええ!?嘘だろ!?」
「より強い魔法を使うには、より強い攻撃を受ける必要があるというわけじゃな。明日が楽しみじゃなふぉっふぉ」
「おいじーさん!? なに楽しそうにしてんだよ!?」
「少し自意識過剰になっとるようじゃし、ここいらで自覚を持ってもらわねばなとおもうての。あ、もちろん救世主としての自覚じゃよ」
絶対嘘だ! このジジイ、特訓と称して俺をイジメて楽しむ気だ!
「じーさん、いつもありがとう。俺、じーさんがいてくれてよかったよ。こんな厳しい世界、一人じゃ生き残れない」
「そんなこと言っても無駄じゃぞー。ほぉれ、そろそろ肉が焼ける。この話はここで終わりにしてメシじゃメシ!」
「く、がんばれ! 明日の俺!」
俺は、肉を食べた。少し筋張った硬い肉は、涙の味がした。




