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エデンの国で! 肉ぅ!



「ううーん……、水。水くれー」

「あ、ムサシ! やっと気がつきましたか! どうぞ、お水です。」


 宙をさ迷う俺の手に、ちゃぷんと音をたててコップが掴まされた。

 俺は、上半身を起こして、それを一息に飲み干す。


「ぷはぁ! 生き返るー!」

「体調はよくなりましたか、ムサシ?」

「ああ、もう大丈夫だ。ありがとうエバ」


 俺は、エバの頭を撫でてやった。

 特にこれといった意味は無く、彼女の頭が、撫でやすい位置にあっただけだ。

 エバは、自身の大きな胸の前で手を両手を握り、目を細めていた。


「よーやく目が覚めたか。ほれ、これを食え」

「これ、肉か!? どうしたんだよこんなの?」

「お前さん方が狩ったヴルガーの肉じゃ。少々筋張っとるが、食えんことはない」


 メーロンは、肉汁の滴る骨付き肉を差し出してきた。芳ばしい香りが、鼻に入り込む。意識しなくとも、口の中に涎があふれてくるのがわかった。

 俺は、その肉を受け取ろうと手を伸ばすが、すぐにひっこめた。


「どうした? 食わんのか?」

「俺には、食べれない。食べる資格がねーよ。だって俺は、じーさんに頼まれた数のヴルガーを狩ることができなかったんだから」


 俺の言葉に、メーロンは目を丸くした。

 別に格好つけているわけではない。ただ、俺とエバが命懸けで狩ったものを、半端な気持ちで食べたくないと思ったのだ。


「お主にそんな気高い精神が宿っとるとはのぉ。驚きじゃ」

「うるせー」

「じゃが、それに関しては別に問題ないぞ。そもそも、ワシはお主が一頭も狩ることができず、泣きながら帰ってくると思っとたからのぉ。3匹も狩れたのなら、むしろ褒められる結果じゃ」

「な! はじめから失敗するってわかってたのかよ!?」


「まぁの。お主はどうも、自然というものを理解しとらん気がしてのぉ。自然とは恐ろしい弱肉強食の世界じゃ。ただ純粋に強いものだけが生き残る。その強さには、卑怯も何もなく、相手の喉笛にいち早く牙を突き立てたものだけが大地に立っていられるのじゃ。そのことを知るのには、言葉ではなく、体で覚えるのが一番じゃろうと思っての」


 確かに、最終的に俺は、毒を使った。それに不意打ちまで食らわせた。それは、生き残るためには必要なことだったんだ。

 知恵と策略をもって、獲物を狩る。それが人の戦い方だと、身に染みてわかった。きっとメーロンはそのことを伝えたかったのだろう。


「けどよー、もし俺が死んだらどうするつもりだったんだよ? かなりピンチだったんだぞ?」

「その時はその時じゃ。また魔力を貯めて、異世界から召喚するだけじゃ」

「マジかよ」


 俺の変わりはいくらでもいるってことか? そう思うと、少しだけやるせない気持ちになる。


「じゃがの、ワシはお主を信じておったよ。お主がこの世界に召喚されたのには、なにか大きな意味があるはずじゃ。それに、いざとなれば、エバが囮になって助かるじゃろうと思っとったしの」


 メーロンが白い歯を見せて、にかっと笑った。



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