エデンの国で! 撃退と経験といろんな思い!
最後のヴルガーを倒すところを少しだけ修正しました!
ストーリーには影響ありません(汗)
「く、動きが早い! このままでは!」
ヴルガーは、エバを挟み込むような陣形を取っていた。
1頭は俺から見てエバの手前に。もう1頭はエバの奥に、一直線上にいる。
そして、エバは奥のヴルガーに気を取られ、手前のヴルガーは今にもとびかかりそうな低い姿勢をとり、無防備なエバの背中を狙っているようだ。
だが、そいつは、俺が近づいていることにも気がついていないよ
。俺は、手前の1頭に狙いを絞り、静かに、でも素早く近づいて、勢いよく剣を振り下ろした。
振り下ろすのに、戸惑いはなかった。生き物を殺す罪悪感より、殺される恐怖が勝っていたのだ。
手には、肉を裂く感触と言うよりも、泥を切っているような、軽い抵抗を感じた。
「うおおおおおおおおおおおおおお! オラァ!」
「ギャィイイイイイ! ギィィ!」
切った瞬間に、じょわっと音がして、ヴルガーの傷口がただれ始める。
どうやら、カートリッジに入れた液体の効果らしい。
溶けた肉の、据えた臭いが鼻に入り込んで、一瞬吐き出しそうになるが、必死でこらえた。
「ムサシ!?」
「前見てろ! こっちは大丈夫だ!」
俺は目の前でのたうち回るヴルガーの胸に、剣を突き刺した。
今度は、めきめきとなにか固いものを砕くような、嫌な感触が手に残る。
「ぐ、っぐ……」
しばらく脈打つように痙攣したヴルガーは、やがてその動きを永遠に止めた。
口からは、血の泡を吹いて。
先ほどまで、強い野生の意思を放っていた目は、すでに光が失われ、なにもない空間をただ見つめていた。
ヴルガーの死と、ほぼ同時に、破裂音が2発、続けて聞こえた。
「くっ! 当たらない!」
エバの放った矢は、ヴルガーを外れて、遥か後方へと飛んで行った。
そして、ヴルガーは、一瞬姿勢を低くし、高く飛び上がる。俺は反射的に、エバの襟をつかみ、後ろに引っ張った。
想像よりもずっと軽い彼女の体が後方へ下がり、視界には飛びかかってくるヴルガーの牙と、赤黒い舌が目に飛び込んでくる。
まずい! このままだと、やられる!
動け、俺の体! 右肩! 腕ぇ! 動け動け動け動け動けえええええ!
「おおおおおおおおおおお!!」
振り上げた刃は、ヴルガーの顎から差し込まれ、そして頭を通り過ぎた。
ぱっくりと割れた頭からは、紙吹雪のような血飛沫をあげ、俺に降りかかる。
濃い鉄の臭いと、生暖かい血の感触が全身を覆った。
そして頭を裂かれたヴルガーは、俺の足元へ落下したのだった。
そのまま声も上げず……、いや、あげることもできず、か。最後のヴルガーは絶命したのだった。
「はぁー、はぁー。う、うおええぇ」
胃の中で、何かが暴れているような不快感に勝てず、俺はその場に吐き出してしまった。
口の中に広がる酸っぱい味と、周囲から漂う血の匂いが、さらに吐き気をさそってくる。
「ムサシ! ムサシ、大丈夫ですか!?」
エバが心配そうにうずくまる俺の背中と肩に手を当ててきた。
彼女に触れられてわかったが、どうやら俺は今、震えているらしい。
なぜ? 死ぬかと思ったから? 本物の野生の殺意にさらされたから? エバを失いそうになったから?
きっとそれ全部がないまぜになって、俺は震えているんだ。
これが、自然のやりとりであり、命のやりとり。どちらも考えていることは同じ、生きるための行為。
食うものと抗うもの。その二つの意思がぶつかりあって、この地上に残るのは片一方だけなのだ。そして、俺たちは運よく生き残った。
これが、この世界の日常……なのか。
「はぁはぁ。エバ、お前は、大丈夫か?」
「私なら大丈夫です。あなたのおかげですよ、救世主様」
顔を横に向けると、そこには、優しく笑うエバの姿があった。よかった、どうやら無事みたいだ。
頭の中にじわりと黒いものが広がった。そして、あたりの景色が少しずつ暗くなってくる。
「ムサシ!? ムサシ!」
意識が飛んでいく瞬間、エバの声が聞こえた。しかし、飛んでいく意識をつなぎとめることはできず、俺の意識は暗闇に堕ちていったのだった。




