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創世記

 はじめに、白の蛇は天を、黒の蛇は地を創造した。天と地の中には水があり、しかしそこにはそれ以外は何もなく、むなしさだけがあった。

 蛇たちは「光あれ」と言った。すると光があらわれた。

 白の蛇は、他の者も世界を見れるようにと大きな太陽を、黒の蛇は、自分だけが見られればいいと小さな月を創造した。

 太陽と月は、互いの尾に食らいつくように廻りだし、蛇たちは、太陽の時を昼、月の時を夜と名づけた。

 太陽は沈み、月が昇る。そして、月に惹かれるように再び太陽が昇った。第一日である。



 天と地には境界がなかった。天は地であり、また地も天であった。

 二匹の蛇は、水を境に決め、おおぞらとだいちを造った。それぞれの蛇が、おおぞらを天と呼び、だいちを地と呼んだ。月は太陽に追われて沈み。そして、太陽があらわれた。第二日である。



 りくは水に沈んでいた。白の蛇はりくを見たがり、黒の蛇はおおぞらを見たがった。二匹は言った、「天の下、地の上の水よ。一つ所にあつまり、乾け」。

 水は乾き、白の蛇はだいちを陸と呼んだ。黒の蛇はおおぞらを空と呼んだ。二匹は水を海と名づけた。二匹は互いに創造したものを見てよしとは思わなかった。

 白の蛇は、赤銅色の陸に青草と種を持つ草と実のなる木をはえさせた。陸は、極彩色に彩られた。

 黒の蛇は、青一色の蒼天に、白の蛇をかたどった雲を浮かべた。空は青と白の二色となった。しかし、太陽が傾くと、蒼天は紅に変わり、やがて漆黒となった。雲が見えなくなり、黒の蛇は憤慨した。第三日である。



 黒の蛇は言った「太陽も月もいらぬ。白の蛇にあたえるから、光だけを地によこせ」。白の蛇は頷き、言った「天のおおぞらに太陽と月があって、地を照らす光となれ」。そして、白の蛇は、暗黒を進む月が迷わぬよう、導のために星を造った。そして、昼と夜ができた。そのふたつから、曙と黄昏もうまれた。第四日である。



 白の蛇は言った。「水は生き物の群れで満ち、鳥は地の上、おおぞらを飛べ」水には水に群がるすべての生き物がうまれ。また天には翼をもつすべての生き物が飛んだ。

 それを見た黒の蛇が言った。「鳥を地でふやせ。水に群がる者どもをふやせ」。白の蛇はうなづきそして言った。「生めよ、ふえよ、海の水に満ちよ。また鳥は地にふえよ」。やがて黄昏、夜となり、曙となった。第五日である。



 「地を駆けるもの、這うもの、それらに食われるものよ。地にいだせ」黒の蛇が言うと、地に獣が満ちた。獣は鳥を食い、水に群がるものを食った。

 白の蛇は悲しんだが、黒の蛇はよしとした。悲しんだ白の蛇は、血を吸った陸をみて言った。「無法の地では嘆きがやまぬ。地を管理するものを造ろう」。黒の蛇はうなづいた。



 黒の蛇は、竜を造った。「われわれのかたちに、われわれをかたどって竜を造り、これに海の魚、空の鳥、地を駆ける獣を与えよう」。

 地に竜がいでた。蛇のすがたに似たそれは、魚のような鱗に、鳥のような翼、地を駆ける獣の四肢をもち。他の生き物にはかなわぬ暴力をもって地を制した。



 白の蛇は、人を造った。「器用な四肢に、知恵のある頭をもつものよ、いでよ。慈愛の心をもって地を治めよ」。

 地に人がいでた。蛇とは似ても似つかぬそれは、二本の腕と、二本の足を持ち、こうべを上げて歩いた。力はなく、あるのは器用な手先だけだったが、人は海の魚を、空の鳥を、地を駆ける獣と地を這う獣と家畜を慈しみ、知恵をもって管理した。



 竜は、目にうつるものすべてを暴力をもって喰らった。

 人は、慈しむことのできぬ竜を知恵をもって狩った。



 白の蛇は言った、「人よ人。あなたの知恵は奪うためではないのです」しかし、人は知ってしまった。狩ることにより得られるものを。

 黒の蛇は言った、「竜よ竜。なぜ人に狩られるのか。お前の力はそんなものか」しかし、竜には理解できなかった。ただ、目にうつるものをむさぼった。第六日である。

 互いの思惑が外れた二匹には、埋められぬ溝ができた。白の蛇は悲しみに打ちひしがれ天へと上り、涙が雨となり海をふやした。

 黒の蛇は憤怒に焼かれ地に潜り、怒りの炎は火山となって陸をふやした。しかし、白の蛇のおおきな悲しみは、ふえた陸を飲み込んだ。

 己を管理するものがいなくなった人と竜は、互いに牙をむき合わせた。

 やがて、黒の蛇は人を滅ぼすため、竜の王を生み出した。刃を通さぬ漆黒の鱗。矢を弾く銀の翼。その吐息は、生きとし生けるものを腐らせ、死へと追いやっていく。

 そして、七日七晩にわたり竜の王は人を殺し、北の空へと姿を消したのだった。

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