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#21 ことのはアフィクスリラート


 "Xalija, knloanerl es knloano?"


 スープをスプーンで啜り、疑問としていたことを訊く。

 シャリヤと翠は例の相部屋から出てきて、近くの建物に移動して席に座っていた。どうやら皆食事はここで行うらしい。戦時中というのにも関わらず明るい声が聞こえる。レトラが安全な町である証拠なのであろう。迫撃砲弾が降り注いだ街より数倍も心地の良さを感じられる。

 聞いた質問は重要な話で、knloanerlもknloanoも似たような単語だが、ちょっと違うということについてだ。単語の形が違うということは表す何かが違うということだと考えるのが普通で、それは時制かもしれないし、ちょっとしたニュアンスの違いとかかもしれない。これで全く異義語だったりしたらさすがに笑うが。


"Niv, knloanerl es niv knloano."


 なるほど、やはり違うらしい。では、その違いとは?


"Fqa es knloanerl."


  シャリヤはスープを指して言った。え?クンロアネールってスープのことだったのか……?

 それとも主食を代表させて食事を表す表現とかだろうか。日本語では「ご飯」のように米を炊いた飯を食事の代表としていて、この異世界語でもそのような表現をするかもしれない。ただ、以前食べた食事と同じようにこの地域のメインはどう考えても肉料理で、平べったいパンのようなものも供されているので多分そうではないだろう。

 次にシャリヤは、食べるふりを翠にして見せた。


"Fqa es knloano."


 ふむふむ、よく考えてみよう。

 シャリヤはスープを指して、"Knloanerl"と言った。その後で、シャリヤは食べるふりをして見せて、それを"Knloano"と言った。つまり、"knloano"は「食べること」という意味の単語だと思われる。とすると、"knloanerl"は「食べ物」と訳せばいいんだろうか。それぞれ違う部分を分けて表記すると共通部分の"knloan"が出て来るが、これはもしかしたら「食べる」という意味か……?


(確認してみよう。)


 翠はシャリヤに貰った美しい装丁の本を持ってきていたのでシャリヤの前に掲げる。


"Fqa es......"


 と、そこで気づく。


(「読み物」で確認しようと思ったのに、「読む」って動詞知らないじゃん!)


 唸りながらと記憶の底を辿ってみるも、聴いても分からない表現は耳に残らないから全く覚えていなかった。翠が困惑しているとシャリヤはその意図をくみ取ったかのように次のように言った。


"Fgir es kranteerl?"

"Mer, ja......"


 なるほど、そのクランテールという単語も多分-erlがくっついているんだろう。語尾を除いた形を語幹と呼ぶとして、クランテールの語幹はきっと"krant"に違いない。

 翠は、シャリヤに向けてそのクランテールのページをぺらぺらと捲り、読むふりをした。多分これで動詞"krant"を使ってあっているか、確認できるはず。


"Mi krant fqa?"

"Hmm, niv, co akranti fqa."


 また別のが出てきた!

 どうやら、"kranteerl"で指す「読み物」を「読む」行為に対しては"krant"ではなく"akranti"という動詞をまた別で使うようだ。


"Mal, deliu co lkurf <krante>."


 シャリヤは"krante"のところを強調して、懐から出したメモとペンで書くふりをした。

 書くふり……そうか、語幹"krant"は誤りで、"kranteerl"の語幹は"krante"でそれの意味は「書く」だと言いたいのだろう。すると「読み物」を意味する"kranteerl"の原義は「書かれたもの」であって、翠が書くものではないから動詞"akranti"をその対象に使う必要があったらしい。

 会話のマナーとして、シャリヤにはちゃんとそれが分かった旨を伝えるべきだろう。


"Ha, ha ......mi firlex."


(分かるか!難しいだろ!)


 頭がぐるぐる回転して、眩暈までするほどに頭を酷使している。腹が減り、喉が渇き、長時間の歩きで疲れ、その上語学勉強に頭を使って、この上何の減少があるだろうか。

 翠は質問のせいで手を付けていなかったメインディッシュの肉料理を手当たり次第に口の中に放り込んでいた。疲れのせいで、前の食事の時ほどにマナーに気を付ける余裕さえなかった。


食事が終わると、シャリヤと翠は共に部屋に戻っていった。シャリヤも疲れたのか部屋に戻るまでは一言も口をきかなかった。翠としては、語学のシチュエーションでもない状況で、こちらが変なことを口走って嫌われたりしたくなかったから、別に気まずいという感じでもなかった。ベッドを整えて、シャリヤは先に寝るようにといつの間にか寝巻まで用意して、部屋をまた去ってしまった。翠もこれ以上起きていては彼の友人と翻訳作業オールナイトを行った後のインド先輩のようなみっともないやつれ姿をシャリヤに見せてしまうと察して早めに寝床に入らせてもらった。部屋から出ていくときシャリヤは微笑みながら翠を見ておやすみの挨拶をした。


"|Salarua, cenesti."

"......Salarua."


 その微笑みが忘れられない。

 異世界人で、いきなり現れた自分を匿い、どこまでも面倒を見てくれる。やはり、シャリヤの存在は奇跡的なのだ。そう、異世界転生主人公だからこそ、この厚遇を受…………ちょっと待て。なんで、シャリヤは俺を呼ぶときに"Cenesti"とばっか呼んでくるんだ?俺は「セネスティ」なんて名前じゃないぞ。これは徹底解析しなくては……あ、眠気が、ちょっと待ってもうちょっと考察させて――



 そうして、翠は重大なる謎 " -sti " と共に深い眠りについた。

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Co's fgirrg'i sulilo at alpileon veles la slaxers. Xace.
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