#183 今は何年か
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"Ferlk es - __________________."
"Co'd lynedelyrlen snosti es - Annia ol Julupia."
"lexxisnen es - ____'d routu'd ____'d stujesne'd ____'d snenik."
"sietival es - __________________."
"co letix vilfcan? - Ja ol Niv."
"Ecartladan es - __________________."
"Mels lkurftlesslus - __________________."
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まずは名前である。
彼女の名前などわざわざ思い出すほどのことでもない。脊髄反射で出てくる。そんな気持ちを込めて、ささっとリパーシェで書こうとした。リパーシェを書く機会は少なかったが、何回もリパライン語を読んでいるだけあって書くのに困りはしなかった。だが、ペン先を紙に付けた瞬間、一つの懸念事項が浮かび上がった。
"Ales.xalija"とはっきり書くことでどこかに密告されたりしないだろうか、ということである。かといって、リパライン語の他の苗字を知っているわけではない。イェスカ、ユミリアのことである。レトラの知人たちの名字を借りることも自分たちの痕跡を残すことになりかねない。
しょうがなく書き込んだのは自分の苗字だった。記録があったとしても混ぜこぜにしておけば信憑性は低くなる。そうすれば事実の検証には時間が掛かり、足取りを掴むことは難しくなるはずだった。
"Ers Jazugasaki.xalija?
Infavenorti ferlk es."
問診票に書き込むのを横から見ていた青年が言う。"ferlk"が"infavenorti"というのはフィアンシャでジェパーシャーツニアーであるレチェーデャにも言われたことであった。「ヤツガザキ」という名前を聞いて口々に言うということは、「珍しい」などの意味なのだろう。まあ、正真正銘異世界の名前なのだから当然であろう。
"Mal, co'd ferlk es harmie?"
青年はこちらを指差しながら訊いてきた。問診票の"ferlk"の欄の上下を見ても、それ以外に名前を書く欄はなさそうだった。一体どこに書くべきなのだろう。
"Deliu krante fal harmue?"
"Hah, Niv niv. Selene mi lapon qune."
"...... Mi es jazugasaki.cen."
"Ar! Co es ci'd viojeffe?"
青年は頭の上に電球が灯ったかのような表情で納得していたが大分勘違いしているようであった。シャリヤと自分が兄弟と言われれば納得するのだろうか?確かに年齢的には自然かもしれないが、容姿が違いすぎる。まあ、納得してくれるに越したことはない。願わくば、それならシャリヤに「お兄ちゃん」と呼んでもらいたいものだが。
次の欄には"lynedelyrlen snosti"という長い謎の単語が待っていた。"Annia"か"Julupia"という二つの単語のうち片方に丸を付けて答えるところからすると、性別を答える欄に見えるが「性別」を表す語がそんなに長いものだろうか?
"Lynedelyrlen snosti es harmie?"
白衣の青年は質問を聞くと、なんだか痛いところを疲れたかのような表情で目を反らした。そうかと思えば顎に手を当てて少し考え、そしてこちらに向いた。
"E mol ol mol niv. Ers la lex."
"E mol ol...... mol niv......"
"Puitentismo, fqa'd selun es...... moler?"
彼は凄まじく哲学的な表情で訊いてきていたが、何を言っているのかさっぱり分からなかった。ある、なし――これ以上踏み込むと何か危ない気がする。今まで"si"と対立する三人称代名詞"ci"をシャリヤに対して使っても、彼女は何ら反感を示さなかった。ともすれば、"julupia"としておくのが今の所一番無難なのではないのか。
次の質問も分らない単語のオンパレードである。"lexxisnen"、"rout"、"stujesn"、"snenik"の全部が分からないが、"es"以下に続く全ての単語の前には属格の語尾"-'d"が付いている。その幅が狭いところを見ると数字が入るらしい。ともすれば、"lexxisnen"は誕生日であり、それの記入欄であるという帰結になるのが自然だろう。
そういえば、シャリヤの誕生日を聞いたことがない。確かにこの異世界――ファイクレオネに来てからは一ヶ月ちょっとしか経っていないから、そういった話にならなかったからにはしょうがない。しょうがないのではあるが、こんな流れで知るということに悔しさを感じた。
"Mi qune niv ci'd lexxisnen."
白衣の青年はふーんと鼻で答えながら、"rout"の横の空欄に"1988~1989"と書き込んだ。その横は空欄のままだ。シャリヤの年が15歳くらいであると仮定するなら、今はこの異世界の暦でいうと2003年から2004年ということになるのだろう。この情報が何の役に立つのかは分からないが。
次の質問も良く分からない。"sietival"という単語が分らない。"sietiv"という単語に"-al"という接辞が付いた形なのだとすれば、場所なのだろうが
"Tismal, coss at es nefsietivaler?"
"Mer......"
青年が言っているが分からず、問に答えられないでいると、青年は白衣のポケットからペンを取って"niv molol."と書き込んだ。何やら気まずい空気が流れていたが、気にしないで先の質問に進むことにする。
次の質問もこれまた語彙が分らない問題だった。"Vilfcan"は"letix"するものらしいが、語形からして動詞から派生した名詞でもなさそうなので何も分らない。青年はこれにも手を伸ばしてきて"niv"に丸を付けた。その次の質問には"yuesleone"と、その次には"lineparine"と書き込まれた。文脈が分かるとすぐに埋められるような質問らしいが、結局翠には難しい単語だらけで理解が困難だった。
"Wioll kynte nun mels stediet gelx deliu alezmiastan pen xelerl."
青年は問診票の下側を書き終わらないうちに翠の手からかっさらっていった。シャリヤはいつの間にか目をこすりながら起きた様子だった。
"Klie selunusti. "
青年は振り返って自分たちがついて行くのを待っていた。




