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#121 カリアホの逃亡


―トレディーナ、ユエスレオネ共産党本部


"Ales.skadzyr veles alfo?"


 眼の前に広がる書類、党の新聞に大々的に取り上げられている一人の男の顔を見てユミリアは側近の報告に強い違和感を覚えた。側近が状況の整理のために最近起きた事態を報告する中での異常事態であった。あまりにいきなりの出来事で顔が歪んで戻らなかった。

 アレス・シュカジューといえばこちらの外務大臣だ。内閣は確信階級で固められた党の最上部で構成されている。そのうえ内閣の人間の動向は常にチェックをしている。彼が何か逮捕されるようなことを行っているという情報は受け取っていなかった。


"Pa, si veles alfo fai harmie'd notulerl?"

"La lex es fai jurltaclo ly lu. NCF es la lex'i leusj liueiuerl yst lkurfaler'st ly."

"Hn?"


 怪訝に思って片眉を上げる。側近は小さく頷いて、自分の言葉に間違いがなかったか探すような表情をしていた。

 アレス・シュカジューが賄賂を受取っていたというのだろうか?この革命後でそこら中の地方自治体とか人民解放戦線系武装組織の武装解除やらで調整で大忙しの中に彼に会えた人物など一握りだろう。そのうえ、内閣の人間は常に監視されている。賄賂を受け取るなどすればすぐに私に知れるはずだった。


"Lirs , kali'aho mol harmue fal no?"

"melx la lex i......"


 側近は言葉に詰まっていた。私は最悪の状況を想起してしまった。体が震え、冷や汗が背中を流れた。


"Tismal, "

"Kali'aho'd jexerrt petul niv fal no. NCF melfert cilarpj."

"Movierssesti......"


 頭を抱えて椅子に座り込んでしまう。

 カリアホ氏、というのは最近ウェールフープでこことは違うウェルフィセルからユエスレオネに降り立ち、非合法保守活動「シェルケン」とそのウェルフィセルにある国家――ハタ王国で内戦を起こしている非合法武装勢力ハフリスンターリブという勢力の関係を示唆した人間だ。我々は彼らハタ王国軍と共同戦線を計画していたところであった。

 シェルケンの中核的勢力を掃討するという重要な国家計画の大義名分――正義の名において邪魔者を掃討するという世間体に都合のいい名目を手のひらからこぼそうとしているとはありえない。


 ため息をついた。側近が心配そうにこちらを見てくる。

 イェスカが死んでから上手くいくはずのことも上手くいかなくなってしまった。というか、八ヶ崎翠に彼女が夢中になってから全てがおかしい気がする。だが、今はそんなユートピア主義的な原因の押し付けをするより重要なことがいくらでもある。


"Mi letix niv kanstakt mels NCF ad yst lkurfalerss. Shrlo fonti'a cossa's molal kali'aho'st plax."

"Carli lu."


 側近がバラバラに散って書類を整理したり、電話回線を通じて情報を調べ始める。私は、正直側近すら信用できなかった。外務大臣とカリアホの話し合いは情報を一切外部に出さない秘密会談であった。シェルケンがこれの時を狙って、カリアホを殺そうと画策していたなら?

 この秘密会談を知っているとすれば共産党議員の一部、彼らのうちにシェルケンと繋がっている人間がいるということになる。特別警察も議員も情報筋でカリアホは見失ったと言っているがもしかしたらもう既に奴らの手の中にあるのかもしれない。


"Lu carxasti...... co mol fal na xale fqa mal......"


 椅子に座りながら、小声で呟く。

 何故、いきなり自殺などしたのか。謎の手紙やヒンゲンファールの思いつき、結局の所「八ヶ崎翔太」が誰なのかを調べることは忙しすぎて出来ていない。イェスカが自殺した原因は今になっても全く分かっていない。刑事警察庁も、特別警察庁も突発的で精神的なものが原因であるという調査結果を出したが全く信用することが出来なかった。姉はそんな人間ではない。そんなことは自分が一番知っている。

 しかし、姉が居なくなって自分でどうにかしなければならない時期が来るのは最初から知っていた。イェスカ自身もいずれ暗殺されてユミリアが交代するときが来るとはっきり私に明言していた。彼女が意味不明な死に方をしたとしても、私はまともだった時の彼女の遺志を継がなくてはならない。それこそがユエスレオネ人民を救う道であり、不義を止め、労働者を解放する道だからだ。


"Deliu niv mi snardze mels xelken."


 俯いていた自分の顔を上げる。眼の前には何人もの自分の側近が情報の整理や確保に忙殺されている。自分も動き出すときであろう。


 ターフ・ヴィール・ユミリア――私には人民に付けられた渾名がある。イェスカの思想を受け継ぐものとして、人民の妹と呼ばれている。だからこそ、シェルケンなどには負けてはいられないのである。


 ユミリアは立ち上がり、部屋を出ていった。


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