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#117 自虐


"Mi es movier, ja ti?"


 自分の体を確認しようとするも、下半身が動かないのでよくわからない。腕だけで自分の体を移動して、壁際まで持っていくと片足がなくなっていることに気づいた。爆発の衝撃でどこかに吹き飛ばされたのだろうと思って周りを見渡すと壁に備え付けられている上着を掛けるフックに靴がかかって自分のちぎれた足が引っかかっていた。先程まで喋っていた政府軍の前線指揮官も仲良くフックに串刺しにされていた。爆発の衝撃で吹き飛ばされたに違いない。

 片足はちぎれ飛んで、もう片方は血まみれで動かない。こんな状態でも痛みを感じずに意識を保っていられるのもテクタニアー計画で得たウェールフープ可能化剤の効力のためだろう。しかし、奴らへの復讐を決意してから政府の人間からも、革命派の人間からも身を隠してきた。とっくに規定の投与間隔を越えているだろう。可能化剤が切れれば、ただのネートニアーと同じで重傷を負えばすぐ死ぬ。

 そんなことを思っていると関節に引っ張られるような痛みを感じた。可能化剤の効力が切れたことにより、関節のコラーゲン繊維が分解され始めているようだった。原因は良く分からないがほっておくと体中の骨が消滅するらしかった。

 だが、そんなことはもうどうでもいい。


"Xeju ad lurto las es niv ple."


 煤に塗れた部屋で呆けたようにつぶやく。

 最初の間違いは、革命派がレトラのフィアンシャを襲撃したところからだった。レトラが革命派の手に落ちたとき、フィアンシャがフィシャ派であったことは共産党にとって目障りらしかった。フィアンシャのシャーツニアーを統括するジェパーシャーツニアーは反革命の見せしめとして殺された。当時レトラの末端フィアンシャにいたシャーツニアーは皆でジェパーシャーツニアーの命を救ってくれと懇願した。そこには幼いころのフィシャ・レイユアフ――私も加わっていた。ジェパーシャーツニアーの粛清に反対したシャーツニアーは反革命のスパイの嫌疑を受けて連れ去られた。幼い私は革命派を恐れて一人でレトラから脱出した。


"Edixa ferlkestan es kei......"


 とぼとぼと道を歩いていた時に私は政府の人間に拾われた。彼の肌色は褐色で、まるでラネーメ人のような顔立ちだった。彼は私を家まで連れていって、何から何まで世話をしてくれた。戻るところが無い私を受け入れてくれた。結局彼のことは"kei"であることしか教えてもらえなかったが。


 そこからが二つ目の間違いだった。彼は私に革命派に対して恨みはないのか、復讐したくないかと訊いてきた。勿論、自分の母同然であるジェパーシャーツニアーを殺し、仲間も居場所も奪った革命派に復讐できるならなんでもするというと、彼は私を共和国政府の軍務省高官に紹介した。そこで私はウェールフープ可能化剤による身体改造を受け、テクタニアー計画の被検体となった。

 適合しない可能化剤の副作用が日々体を傷つけても、私は復讐を果たす日が来るまで泣き言を言わないと覚悟していた。そして、この機会をくれた政府の人間を信用し、感謝していた。軍務省の高官、テクタニアー計画の被検体となった同年代の子供たち、そして私を助けてくれたケイに感謝していた。訓練の中で革命派の捕虜を何体も殺した。何人もの被験者が可能化剤の副作用で死んでいった。仲間たちが死ぬたびに心が痛んだが、全ては革命派への復讐によって彼らの意志を達成することで果たされるのだろうと思っていた。私を含めてアレス・ヴェイサファ、イェクト・シェーター、リサ・エメーリェ、インファーニア・ド・ア・スキュリオーティエ・インリニア、クワギー・フォヴィユの六人が最終的に各地へ任務のために散った。


 私は被検体の中で一番の戦闘成績を収め、レトラに送り込まれた。政府軍の拘束から逃げ出した革命派としてレトラに戻ったふりをして、シャーツニアーのふりをしていた。政府軍と無線を使って、通信し、内部情報を流失させた。そのうえ地下道を利用して、ウェールフープ可能化剤などを受け取っていた。


"Mal, mi es en'iar'i mal veles tasto."


 政府の作戦は元々情報収集だった。しかし、外部から大量の避難民が街に入ってから撹乱を目的とする作戦を目的に方向性が変わった。避難民の新入り――ヤツガザキ・センに不当懐疑を与え、街中に不信感を植え付けた。そのうえ、政府軍は内部の軍事勢力を危惧して掃討を計画した。そこからのレトラ襲撃であった。革命軍側に死者が出ることで、心が満たされる気がした。しかし、ヒンゲンファールとヤツガザキ・センは私が内通者であることに勘付き、戦闘した。センに捕まって、地下道は爆破された。

 政府の運び屋が異変に気付いて、私を処分しようと地下道を爆破したことは明白だった。当時、しっかりとしたケートニアー能力があった私は爆破ごときで死ぬことはなかった。しかし、このまま誰かに知られれば確実に殺されることは明白だった。


"Ers ixen ti......"


 刺すような痛みが足や腕に走る。疼く痛みに意識も薄れてきた。

 ヤツガザキ・センに見逃されたとき、あの時に復讐だけに生きる自分を客観的に見られた気がした。信用できない人間は殺す――それがこの世界の鉄則だと思っていたのに優しい理想を思い出した。その理想が目の前の現実に存在していることに賭けてみようと思った。だからこそ、彼らに味方するようなことをした。


"Jazgasaki.cenesti, celes xel mi'st co'd vanmi'ja'd unde. Mi lusus elx eso cene mi'st."


 天井を見上げながら、彼に届くように思いを込めて言った。

 意識が混濁し、暗闇に飲まれかける。ウェールフープ可能化剤の効力は完全に切れたようだ。もう、長くはないだろうと思って、腰のホルスターに入っている自動拳銃を取り出し、こめかみに当てた。


"Jol miss xel calen'gart alefisen icco. Mol panqa tedir fal esten fixa'd icco. Niejod la alefis Niejod esten fixa."


 フィシャは一思いに引き金を引いた。


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