襲撃、またしても
被害状況:輸送用中型ビークル1台
オーニング=サーカル(ビークル
運転中襲撃され、顔面裂傷)
トロスパート、レイング=二ー
(輸送中に拉致、死亡した可能性が
高い)
っと、報告書を書き終える。私はため息をつく。まだウィールロックにたどり着かないのも、壊れたビークルごと運んでもらうために異形の森で待っていた為だ。あの後、再び襲撃されることを予想し、警戒をしていたが、現れなかった。つまり、彼女の本当の狙いはやはりあの二人だった事になる。
「なあ、ねいさん、ちょっといいか?」
ゲインスが口を開いた。
「どうしたの?」
「あーっと、いくつか聞きたいことがあるんだが、答える元気はあるか。」
「ええ、大丈夫よ。」
ゲインスはため息を1回ついた。
「じゃあ、まず、今さっきの事だ。あの二人は今回の盗みは何者かに頼まれた、と言っていたが、多分アレは本当だろうな。」
「そうね、恐らくあの化け物の仲間が頼んだんでしょうね。」
ゲインスは少し驚いた表情をした。
「俺が言いたいことを2つぐらい言われたな。そうだ、アイツは普通の『人間』では無い。何かしらの改造を受けているように見えた。或いは獣耳者の獣耳の能力が覚醒したか。」
「まさか、『アルタ=オリジナル』って事?」
「いや、いや、まだ可能性の話だ。まだそう決まった訳じゃない。第一、それは法で禁止されてるし、法が適応して監視されてる様な場所ですらその技術を再現するのは難しい。ただの人間ならまだしもな、あそこまで兵器かした人間を作り出すのは相当なもんだ。」
ゲインスは凄い早口で語った。私は黙って彼を見た。一体彼の結論を聞きたかった。
「あーっと、俺は元悪だ。俺の経験上は無理だ。アレを作ろうとするのは………。結論から言うと、俺はアイツは人間の突然変異だと思う。どんな生物も突然変異はするだろう。」
「そうね、それが1番しっくり来るわ。」
「で、まだ話は終わらん。次に、あの2人は本当に死んだのか?」
「……どういう事?」
「アイツらは詐欺師だ。人を騙すことが奴らにとって生きる事だろう。だから、殺された、と見せかけて逃げた……とかだな。」
「多分それは無い。」
「だよなぁ…。だってあのビークルの後方にべっとりついたあれって、簡易検査キットを用いても、2人の血液だったからな。あれだけ自分の血をトリックに使ったら逃げるどこの話じゃなくなる。」
私は今乗っているビークルの窓から無残な姿になったビークルを見た。血が大量に付着している。胴体を思いっきり引き裂かれたのだろう。あの時、多分早すぎて、胸を貫かれたようにしか見えなかったのだろう。
「最後に、だ。ねいさん、あんたトロスパートとっ捕まえた後どこ行ってた?」
私は真実を言おうか迷った。あれこれ詮索されるのは色々と困る事があるからだ。
「……」
「……ねいさん、あんた何か隠してるんじゃないのか。俺はあんたを全面的に疑ってかかる訳じゃないが、不審なモノは見逃せない性なんだ。」
「わかった、わかったわ。話す。」
私は一息ついた。
「私は今、生き別れた妹を探してるの。2人、とてもそっくりで、後ろ姿じゃ帽子をかぶってたらほとんど分からないくらいよ。」
「ねいさんと?」
「いえ、私とはあまり似てないわ。彼女たちの髪色は純白だから。」
「なるほど、で、そのひとりを見つけてそこまで行ったって事だな。」
「ええ、そう……。だけど、何故か彼女はまた私の目の前から姿を消してしまったの。」
「なるほどな……。このご時世だ。生き別れるなんてモノは珍しいものじゃなくなったからな。」
私はケイ君がずっと外を警戒してくれていることに気づいた。でも、多分さっきの話はしっかり聞いていただろう。何を警戒してたのだろう。ただ生き別れた妹がいると話すだけで、何の不便があるのだろうか。
「今回の襲撃といい、丁度タイミングを同じくして世界中心機関も襲撃され、何か因果があるんかな。」
「もし因果あるとしたら、重大なテロを引き起こすかもしれない組織があるって事が、確実になるわね。厄介な事になってきたわ。」
少し経つと異形の森をぬけて、砂漠に出た。遠くには巨大な壁が見えてきた。ウィールロックの5重の壁のうちの第一層目。最も防衛機能の発達した壁であり、壁の全面が砲撃や射撃、果てはミサイルまでも撃てる程になっている。元から砂漠だが、やろうと思えば異形の森の前までを全て焼くことも出来る。そこまで徹底してここを守らなければならないのも、ここそのものが危険な空間だからだ。長い砂漠を越えて壁にたどり着いた。壁の大きな門が開く。私たちの乗っているビークルがその中に入っていった。私たちはビークルを降りた。
「ありがとう。私たちがヘマをしなければ迷惑はかけなかったですもんね。」
「いえ、問題ありません。異形の森内部であったことが幸いでしょう。」
私たちがビークルから降りて少し歩くと見覚えのある顔を見つけた。あの3人組だ。後はあのピンとたった兎耳には覚えがある。テテチだ。だが、顔を見た途端、人違いだと思った。私の知っていたテテチとは全く違っていたからだ。かつての明るく騒がしい面影は無く、暗く陰湿なオーラを発していた。後に降りてくるメンバーを見ていたが、テイリーさんが出てこない。彼女らには面識があるからすぐ分かるのだが……。3人組がこちらに気づいたようだ。私は体に衝撃を受けた。知夏が大泣きしながら抱きついてきた。
「わかった、わかったわ。事情は聞くから」
どうやら、話を聞く限り、第三者による妨害によってターゲットを逃がすでもなく、逆に殺害して言ったのだという。しかも、『1人』………。また『超人』である。




