キネベス家鎮圧作戦~完結編~
………。
監視室の電源が落ちた。こんな緊急事態でそんな呑気の骨頂みたいな事は意図的にすることはないだろう。という事は
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私は監視室の出入口を警戒しながら、ウィールロックの隊員が監視室の機器を復旧するのを待っていた。流石にこの異変に気づかないはずはないだろう。ドアはさっき壊しちゃったし……。私は監視カメラのモニターを見た。流石施設の広さだと思うが、モニターをすべて見るのは骨が折れる。ひとつのモニターが自動で拡大された。誰かが撃ち合っている。悲鳴と血しぶき。私たちは目を見合わせた。ここに隊員は全員いる。なら、あそこで戦っているのは誰だ。数秒後、私たちは言葉を失った。数人のゴロツキから一斉射撃を受けても、自分の体の周りに銃の弾を移動させて逆に自らの武器にしている。その様子はもう既にそこにいた者は誰一人として知らない者はいなかった。すぐに、ゴロツキたちは血を噴水の様に吹き上げて倒れた。その人物は急にカメラの方を向いた。そしてブツっという音と共にそのモニターが砂嵐になった。
「まずい!気づかれたぞ、臨戦態勢をとれ!早く!」
どんどんと砂嵐になるモニターの場所が監視室に近づいてくる。ブツっという音とパッという音が交互になる。心臓の音もまるで他人と心臓の鼓動を共有してるのかのように思えた。監視室の前のカメラのモニターが砂嵐になる。そこにいる全員が入り口に銃口を向けた。長い沈黙。廊下のモニターが復旧したが、ここには現れない。心臓が破れそうだ。この沈黙は多分1分くらいだったのだろう。でも今の私たちには30分くらいに感じた。その後私たちは扉を警備する部隊と監視カメラでキネベス夫妻とベヒタスを探す部隊と分けた。全部の部屋のモニターを見たが、キネベス夫妻どころか、生きている人間すらいない。大体見えるのは大きな血溜まり、肉片、死体のみ。恐らくこの半分くらいはあの女性が殺ったのだろう。何故だろう理由が分からない。彼女はキネベス家の仲間ではないのか?私はそんなことを考えながら操作していたせいで部屋のモニターではない変なところを突っついた。液晶の画面にそこを中心に白い画面に移り変わった。………。パスワード?私はさっきあった資料を漁った。画面を見た他の人達も協力してくれた。
「ありました。これですかね?」
ウィールロックの隊員の一人が気絶していたゴロツキのポケットから紙を見つけていた。
「どれどれ、nmB=mffiXっと。」
白い画面に表示されたウィンドウには「OK Welcome」と書かれていた。モニターがすべて白色の画面に移り変わり、新規の部屋になった。真新しい研究所の様だった。私は部屋を移る移る見た。その時、少し離れたところのウィールロックの隊員が声を上げた。私たちはそこに集まった。そこに映し出された状況はこの世のものでは内容だった。沢山の配線、円筒状の水槽。その中に浮かぶ謎の肉塊。その肉塊の内ひとつがボコボコと鼓動し始めた。瞬く間に人間の消化器官が出来上がった。それを機械が切り取り、専用機械で輸送していた。
「見て、あそこに。」
その水槽に向かって歩いてくるのはキネベス夫妻だった。何か話しているようだった。私たちは聞き耳を立ててその話を聞いた。
「ああ、ユーリよ。なんということだろう。私のかき集めた部隊が全滅した。しかも半数以上が今日来やがった世界中心機関のグズどもじゃなくて、あの『ウィールの関係者』と名乗ったクソ尼だ。」
「なんとまあ、酷いこと。でも、ここに来る術も知らないでしょう。あやつにはこれを渡しませんわ。」
「どうせこいつを回収しに来たのだろう。我が父親がウィール連合国から買い取ったアルタ【超増殖型】を手放すわけにはいかん。最近良いエサが手に入ったばかりだからな。」
「あやつは私たちの可愛い可愛い一人娘を殺めたので許せませんね。もう既に足と手の先からじわじわとミンチにして差し上げたとしましたが、まだ怒りがこみ上げてきます。」
「奴らが去るまでここで居よう。きっとあの猿以下の頭の持ち主共にはここがわからんだろう。」
私は画面から目を離し、入口に向かった。
「行きましょう。あそこの入口はもう分かりました。あのパスワードもよく良く考えればそういう意味だったんですね。」
Wheel Alm………。ウィール連合国が絡んでいることはほぼ確実になっているようだ。今日、この日、隠された謎を全部解き明かす。何があろうと。
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…………。全部分かった。なるほど、やはり盗み聞きは少しがらではないのだが。兎に角早く見つけ出して余計な事を言わないように殺さなければ。私に任された任務はこれからの計画において重要事項。もう既に終わったも同然ね。
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モニターであの白い画面が出現した場所に辿り着いた。ドアらしきものはなく、壁だった。
「ここは私に任せてください。」
テイリーさんがスーツの腕の部分を展開させた。展開部が青白く光壁が爆発した。
「入りましょう。」
私たちは迷わず例のアルタらしきものが大量にあった部屋に向かった。次々と廊下を疾走して行った。ここもさっきの場所同様に、ここの職員がそこらじゅうで死んでいる。彼女もここへ入ったのだろう。しかし、ここで引き下がる事は出来ない。例え相手が恐ろしく強かったとしても。そしてあの部屋の前に辿り着いた。
「行きますか。これが最後の仕上げです。」
皆一様に頷いた。テイリーさんがまたドアに砲撃し、全員突入した。私たちの目に最初に飛び込んできたのは、あの磁力の女性と彼女に首を絞められ苦しんでいるタタリ=キネベス、側に倒れるユーリだった。
「手を挙げなさい!貴方は包囲されています、大人しく私たちに従いなさい。」
彼女は泡を吹いて痙攣しているタタリを投げた。そしてタタリの体は私たちの前で爆散した。タタリの血と臓器が私たちに降り注いだ。とんでもなく悪趣味な目潰しだ。私たちは耐えきれず顔を覆った。何発かの銃声が聞こえ、ウィールロックの隊員が数人倒れた。吾大が岩石化し、海汰も槍を出した。私も刀を1本取り出した。彼女は銃口を私たちの方に向けている。私は透明化し、一気に距離を詰めた。ここで1発で決める。私は全神経を集中させて斬りかかった。だが、私が彼女を斬った感覚が刀から腕に伝わる代わりに私の左肩に激痛が走り、動かなくなる方が先だった。
「知夏!」
吾大が大声で名前を呼ぶのが分かった。私は銃声の中突っ込んでくる巨体を見た。私は抱え上げられ、覆われた。
「吾大、私のことはいいから早く!」
「いや、ダメだ。」
背中に何発も撃たれている。どんどんと腹部の方にもヒビが入ってきていた。私は例の女性の方を見るとウィールロックの隊員や海汰の攻撃をかわしながら吾大さんだけを撃っていることに気づいた。銃撃戦ならこの人数では勝ち目があるが、彼女の能力の関係上、近接で戦う他ない。もし射撃でもしようものならここにいる全員があのゴロツキのように全身内蔵まで生きたままミンチにされてしまうだろう。
「交戦中ごめん、ちょっと作戦がある。よく聞いて。」
テテチさんが連絡を入れた。
「知夏さん、その刀ってどちらも金属製ですか?」
「いや、片方木刀です。」
「海汰くんの槍も金属じゃないよね。」
「はい!」
「なら1回撤退よ。」
ウィールロックの隊員が1人彼女の足元に煙幕玉を投げた。そして部屋の外に一時撤退した。手短にテテチさんが作戦を説明し、理解した。作戦決行。この間1分ほどだったが、隊員の何人かが彼女を止めていた様だった。ウィールロックの隊員が初めに閃光弾を何発も撃った。部屋の外まで眩しくなるほど炸裂した。海汰が槍をひとつ投げた。私も透明化し突っ込んでいった。タイミングはバッチリで攻撃を同時に叩き込める。女性は苦し紛れに槍を右手で止めた。私は刀を振り下ろした。刀に私が振り下ろすのとは逆方向に力がかかる。しかし、その後刀のメッキが剥がれただけだった。私は彼女の左肩に叩き込んだ。私も右肩だけしか使えなかったので威力は出なかった。彼女は右手の槍のせいでバランスを崩し、左手も壊している。きっと槍を止めた時にもダメージが入っている。私はすかさず2発目を撃ち込んだ。しかし私は腰に衝撃が加わった。金属製のベルトを使われたのか!でも、これも狙い通り。彼女に巨体がぶつかる。スローモーションに見え、彼女の体が歪んだ。吹っ飛んでいき転がりながら壁にぶつかった。私はすぐさま確保に向かおうとした。しかし彼女の周りの床が歪み、箱状に彼女を包み込んだ。床にある配線が荒ぶり出した。その直後、金属のその箱が爆散した。金属の破片が飛んできた。私は身構えた。気づくと私と海汰の前で吾大さんが立ちはだかっていた。
「吾大!」
「吾大さん!」
吾大さんに金属の破片が突き刺さっている。
「テイリーさん!まずい、早く誰かヘルメットを!」
テテチさんが叫んだ。そちらを見るとガタガタと恐ろしい程に痙攣するテイリーさんがいた。ヘルメットが取れていてそこから除いているのはまるで人の臓器を適当に繋げたような見た目をしたものだった。それがどんどんと膨張していく。テイリーさんの叫び声とともに血を吹き出しながらどんどんと内蔵が生成される。彼女の方を見た。全身から血を出し、私たちの方を睨んでいた。テイリーさんの近くの床がさっきのようにテイリーさんを包み込んだ。その直後停電が起き、次の瞬間には天井に穴が空き、その箱ごと彼女は消えていた。逃がした、あんな危険人物を。私たちは敗北感に襲われた。
パキッ
何、今の音?私は音の方に目を向けた。水槽だ。水槽の中パンパンに人間の内臓が今にも水槽を突き破ろうとしていた。
「皆逃げろ!嫌な予感がする!」
私たちは走った。私と海汰は吾大さんをサポートしながら走った。廊下の角を曲がった時に奥を見ると内臓の塊、血の波がこちらに押し寄せていた。
「走れ!飲み込まれたらお終いだ!」
私たちは走った。でも、あともう少しで追いつかれそうだった。血と肉の匂い、ギチギチと気持ち悪い物音。時折聞こえる叫び声の様な声。全てが最悪だった。入口が見えた。
「あともう少しだ!走れぇぇぇぇぇぇ!!!!」
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………。
ここは病院?私は左腕に包帯が巻かれていることに気づいた。隣のベッドに吾大さんが寝ている。私のベッドのそばでは椅子に座って寝ている海汰がいた。後に聞いたことだが、あの後あの肉塊は施設を飲み込んだらしい。今思い出しただけでも気分は悪くなる。殉職者、計6人。行方不明1人。テテチさんはショックで今精神療養中らしい。キネベス夫妻もベヒタスも捕まえられず、何もかもが失敗だった。私は、奴を許さない。
次回「ウィールロック防衛編」




