キネベス家 鎮圧作戦 中編
「大丈夫ですか?吾大さん!」
海汰が呼びかけている。俺は痺れた腕を上げて応えた。
「とりあえず、吾大さんが回復するまでここで休みましょうか。」
テテチさんはそう言って腰を下ろした。ヘルメットをとると大きめの兎耳がぴょこっと立った。
「すまない。俺のせいで時間を取らせてしまって…」
「大丈夫。こっちだってアレにはびっくりしたからね。」
「『アレ』とは?」
テテチさんは床に落ちている先程電磁の壁を出した機械を拾った。
「こいつは使うと充電が無くなってな、もう一度使うにはざっと2時間くらいかかるわけだ。それをヒョイっと投げただけで電撃炸裂爆弾になった。その事。」
俺は少し考えた。
「さっきの奴の黒血能力は『電気』。それもとりわけ強力ってわけか。」
「そう、かもしれないね。」
海汰がなにか思いついたように話し始めた。
「さっき銃の弾を操っているように見えたのですが。」
確かにあの時、奴の周りに撃たれた弾がくるくると廻っていた。
「という事は、金属を操っているのか。」
「いや、多分アレは電磁だね。」
テテチさんは伸びをした。
「なんかアイツが能力を使った時、なんかピリピリするというか、そんな感じかね。」
強力な電磁の使い手……
あの時の振る舞い方から恐らく、とても強大な力を持っているに違いない。注意していかなければ。気づけば全身の痺れは取れていた。
「もう痺れが取れた。迷惑をかけた。」
「よし、じゃあ行こう。」
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私たちは手がかりを見つけるべく、疾走していた。何かないのか。その時、無線機から声がした。私は耳を傾けた。
「こちら吾大。今さっき敵の襲撃を受けた。ゴロツキはあらかた片付けたが、1人だけ段違いに強い黒血者がいる。気をつけろ。」
「了解。で、その人の特徴は?」
「青い長髪の女性だ。そいつは電磁の……りょくを…………」
「もしもし?もしもし!?」
急に無線機が壊れたのか、どうしてこのタイミングで。私は廊下の角を曲がった。そこで異様な光景を見た。何故か廊下の1部分だけが光が付いている。あそこだけ壊れてなかったってことなのか?それともさっき吾大が言ってた危険人物に関係しているのか。すると急にそこの電気もバチンという音とともに消えた。テイリーさんを見たが、違うと首を降っている。私たちは息を潜め、動きを止めた。この近くに確実にいる。私は透明化をし、じっとした。汗が垂れる。無音の時が流れる。私はテイリーさんと目を合わせてうなづいた。移動するために少し動いた。私は何かを感じ取り、動きを止めた。廊下の奥から何かが来る。大きな足音と共に現れたのはただのゴロツキだった。
「おーい、どこ行きやがった俺の報酬よぉ〜。」
気持ちの悪い呼びかけをしながら徘徊している。私は透明化をしながら受け流そうとした。その瞬間ゴロツキが撃たれた。右足の太ももから血を出しながら倒れた。
「痛えぇぇ!痛えぇぇよぉぉぉ!!」
廊下の角から女性が出てきた。その女性の髪は青く長かった。その女性は撃たれた男性に近づいた。その瞬間その場所だけライトが付いた。
「なんだ。敵じゃ無かったか。」
「しっかり確認しろよ、このクソ尼がァ!!!!!」
私は廊下の角で曲がり、そこから監視することにした。下手に手を出すより、様子を伺った方がいい。
「SUBTeamとウィールロック軍……か。」
「おい!聞いてんのかこのクソ野郎が!」
足を撃たれたゴロツキはその青髪の女性に銃を向けた。そして罵声を上げながらその女性を撃った。銃声が3発聞こえた。私は彼女が殺されてしまったと思い廊下の角から覗き込んだ。私の目に入ったのは予想とは大きく違った現実だった。その女性の周りで銃の弾が廻っているのである。足元に銃の弾が落ち、金属音が響く。
「うぐ!?アガァァァ!!!!ウゲェゲボァッ!ッガァァ!!!!」
ゴロツキが急にもがき苦しみ始めた。全身から血を吹き出し、のたうち回っていた。その様子はまるで体内で何かが駆け巡っているかの様であった。指が飛び、腹が破れる。
「ゆ゛る゛し゛て゛く゛れ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!た゛す゛け゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
断末魔と共にゴロツキは動かなくなった。彼の体から銃の弾がひとつ浮き出た。
「私はね、あんたら人間とは違うのよ。」
そう言い捨てて歩いていった。アレが……吾大の言ってた危険人物なの……?格が違いすぎる…。私たちは圧倒され過ぎてしばらくその場を動けなかった。
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エリアE全体にて大規模な停電、エリアA全体での瞬間的な大規模停電。原因は未だ不明だが、キネベス夫婦が雇ってきたアイツだろう。電磁を操って停電を引き起こしたのかとここにいる全員が考えている。停電のせいでエリアAとEの監視カメラは全部ダメになってる。今のところ、監視カメラにはエリアAにキネベス夫婦と共に歩くSUBTeam、ウィールロックのクソ共を捉えて以来、クソ共を見かけてない。恐らく、まだエリアAで右往左往してる事だろう。部屋に放送が入った。俺が音量を上げて、部屋全体に聞こえるようにした。タタリさんだ。
「どうも、残念なお知らせだ。第1部隊のグズ共がしくじって今世界中心機関の輩がウロチョロしてる。そして、あのクソ尼がエリアAで停電を引き起こした。それに関しても早急に復旧しておけ。エリアEの停電は原因不明だ。絶対にエリアCには入らせるな。以上。」
はあ、疲れるなぁ。まあ、報酬の為だ、仕方ねえ。全部で十億J山分けだからなあ。運良く監視室に任命されたから良かった良かった。え?何が良かったって?そりゃ戦闘に行ってる奴らが死んじまえば俺らの報酬が多くなるって訳だ。俺らは勝ち組だ。
んん!?
な、なんだ!?停電?クソ野郎が。ここが停電になったら色々面倒だろうが。
うぉァ!!!?
扉が爆破しやがった。敵かこのタイミングで、めんどくせぇえぇぇ!!!!!!
ってありゃ?敵が見当たらないな。停電の影響で故障したみたいだな。よし作業にもd……
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「テイリーさん、そっちは大丈夫ですか?」
「ええ、全員捕らえました。」
私たちは監視室を見つけ、そこを制圧した。ここが無力化出来れば後はずっと楽になるだろう。その前にここを少し探索しよう。なにか手がかりがあるはず。書類が監視カメラの操作パネルの上に無造作に置かれている。臓器売買や、処分対象の事が書かれていた。人の命を無下にしていた決定的証拠だ。奴らは最低な人間だ。いや、あんな奴らに『人間』と名乗る資格すら無い。
「知夏さん、こっちに見取り図がありました。コレを元にすれば、たどり着くはずです。」
「ありがとうございます!では、吾大達に連絡しますね。」
私は無線機を取り出した。そう言えば壊れてたような……。いや、電源がついた。何だったんだろう?まあ、考えていても仕方ないので吾大に通信を繋げた。
「もしもし吾大。とても嬉しいニュースよ。」
「どうした?」
「地図を見つけたの。今監視室にいるからそっちに向かうわ。」
「いや、俺達が向かおう。大人数の方が危険度は少ない。今は監視の目は潰されているからな。」
「了解、無事を祈ってる。」
私は扉の方に警戒しながら置いてある書類を漁った。そこには『ウィール』の文字があった。それは私を驚愕させた。私に悪い考えが次々と浮かんできた。こんな解体屋にウィールが絡んでいたとすれば……。そもそも39年前に消滅した都市が今になって活動を密かにしているのか。『ウィール』というのは『ウィール連合国』ではなく『ウィールロック』の事なのではないか……。頭の中がごちゃごちゃになってきた。
「知夏さん?どうされました。そこに何か描いてあったのですか。」
私はテイリーさんにさっきまで読んでいた書類を手渡した。テイリーさんは少し読んだ後に一息ついて話し始めた。
「わかりました。少し憶測も入りますが、お話しましょう。」
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2512年、この年に歴史を変える出来事が起きた。研究院長『ウィール=アルム』を中心に超大規模研究施設『ウィール国際研究所』が誕生した。ウィール国際研究所は様々な開発をし、経済力を付けてきたことにより2556年に独立し、『ウィール連合国』となった。丁度この頃、世界中は火星を目指し始めた。勿論と言うべきか、火星にて国家間のいざこざを経て、火星戦争に発展した。人と人との殺し合いは地球上、火星上、星を飛び出した宇宙にまで至った。57年に及ぶ戦争が集結した頃にはウィール連合国とその取り巻き以外は例外を除き、消滅した。世界の半数の人間が死に絶え、世界中の土地という土地が戦争の影響で死んだ土地になった。世界は再び地獄の中の安寧を得たと思われたが、2626年、第2の災禍が人類を脅かした。それがウィール連合国消滅事件である。その直後、『黒血者』と『獣耳者』が現れた。現れた直後は事件の影響もあり、大規模な迫害が起こった。今になってはそのような差別も昔のものになりつつある。黒血二世や獣耳二世なんて呼ばれる人もいる。その後、二度と被害を繰り返さない為に世界中心機関が作られたわけなのかだが、コレはどこかで話た気がする。そして、ウィール連合国の残ったデータなどを元に、『アルタ』と定義される者達が現れた。まず、『黒血者』や『獣耳者』、テイリー=サマリアの様な『増殖』と呼ばれる人々は一般に『アルタ・イル』と呼ばれる。まだいると確認された訳では無いのだが、オリジナル、つまるところの人造人間の様な人口生物を『アルタ=オリジナル』と呼ぶことにした。さてと、話が長くなった。私から君たちに教えることは終わった。物語に戻ろうか。
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「なるほど、俺もそんな話は聞かされなかったな。」
「まあ、ごく限られた人にしか教えられてないし、最近出来た定義だから知らなくても当然よ『アルタ』についてはね。」
俺達は知夏のいる監視室に向かっていた。敵も現れず、比較的静かになった時にテテチさんが話してくれた。その内、世界中心機関の職員、果てには世界中に知らせるものだったので大丈夫だと本人は語っていたが……。やはりウィール連合国で禁止されていた人造人間『アルタ』の作成がされていたとは……。今更だが、とんでもない奴らを俺らは支援し、野放しにしていたと思った。正確には、俺らの親が、なのだが。そうこうしているうちに監視室にたどり着いた。不気味な程に敵は出て来なかった。
「知夏、吾大だ。無事か?」
部屋の壁際に知夏とテイリーさんがぱっと現れた。
「良かった、無事だ。」
海汰がほっとしたように声を漏らした。知夏が俺らに駆け寄った。
「こっちは無事だよ。お互い大丈夫そうだね。」
テテチさんがピョンっと飛び跳ねてテイリーさんの元に寄った。とても上機嫌そうに見えた。テイリーさんの元に着くやいなやハグをしたりしている。
「テテチさん、凄いね。」
知夏がボソッと呟いた。海汰が俺の方を見た。
「吾大さん?」
「いや、俺はいい。ホントに。」
俺は急いで答えたせいで変な答えになってしまった。
「しょうがないなぁ。」
知夏は悪戯そうに笑みを浮かべ、両手を広げた。ああ、もう。めんどくさい事になった。
「なーんて、冗談ですよ。」
俺達3人は笑いあった。
「そう言えば、ここは監視室だよな。」
「うん、一応電源はすべて切ってあるけど…。」
「なら、ここを使えば敵の動向を確認できるはずだ。」
ここまで来れば、今回のミッションはすぐに終わる。あの時はそう考えていた。




