歓迎会
2512年、世界中の科学者の集まった「ウィール国際研究所」が誕生。名前の由来は初代研究員長ウィール=アルムより
僕が所長室を出ると外でねいさんがネジを使って何かを組み立てていた。扉の音で気づいたらしくそれをポケットにしまった。
「どうやらそれを貰ったってことは合格したって事ね。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「それじゃあ、subteamの部屋に案内するね。付いてきて。」
ねいさんと僕は廊下を通っていった。道中には様々な部署の部屋があり、沢山の部署の人達とすれ違った。そして、subteamの部屋に着いた。扉には「subteam's room」と書かれている。
「まあ、見ての通り、ここがsubteamの部屋。この施設とても広いから最初は迷ってしまうけどね、ちゃんと地図を渡すから大丈夫よ。」
そう言ってねいさんはパスワードをうち始めた。そして扉のロックが解除された。手を扉にかざすと自動で開いた。中には6つの机が置いてあり、一つ以外はそれぞれ異なった用具が置いてある。机の並んでいる先には電子黒板の様な透明なパネルが置いてある。
「ここがsubteamの部屋よ。まあ、どこの部屋もこんな感じだけど少しだけ私が手を加えたわ。見ての通り空いている席が貴方の机よ。」そして、ねいさんが壁にある6つの扉のうち、「キッドケイ」と書かれた扉を開けた。
「後、ここはあなたの部屋よ。たまに帰省する人もいるけど基本はここで寝泊まりするから部屋を自由に使って。レイアウトとかは自由にしてもらって良いよ。部屋の中に必要な物品を用意しておいたから確認しておいてね。」
「はい、了解です。」
僕は部屋に入って電気を付けた。ベッドとテレビ、ソファ、机という部屋の配置だった。そしてベッドの上に袋が置いてあった。袋の中にはさっきの電子黒板を小さくようにしたタブレットと部屋に付いてのマニュアル、subteamのメンバーの名簿が入っていた。僕は部屋の鍵を閉めて、制服に着替えた。ねいさんが着ていた服に似ていた。僕は部屋の外へと出た。ねいさんは自分の部屋にいるらしい。僕は机に座ってタブレットの確認をした。多分subteam内の情報共有用でパスワードはもう既に決められている様だった。というより、まだ教えて貰って無いような。その時扉が開いた。言葉は悪いが、少し目つきの悪い長身の男の人が入ってきた。
「おお、KKさんですか。初めまして、ゲインス=ランダです。以降宜しく。」
「KKです。宜しく御願いします。」
「リーダーは何処にいるか知ってる?」
「多分自分の部屋だと思います。」
「ありがとう。」
ゲインスさんはねいさんの部屋の呼び鈴を押した。ゴーグルをかけたねいさんが出てきて2人で話していた。様子を見ているとねいさんが何かにハッと気づいた様子で、一礼した後扉を閉めた。その後ゲインスさんがこちらへ来た。
「どうやらパスワードのこと教えて貰って無いみたいだね。」
「はい。」
「自分の部屋のパスワードは自分で決めて、他人には言わないようにしてね。subteam内でも他人の部屋に無断に立ち入るのは御法度だからね。後、subteamの部屋自体のパスワードはあのタブレットに書いてあるから常時確認して。」
「はい、了解です。」
「因みにこの部屋のパスワードは毎日変わるからね。後タブレットのパスワードは入力画面は出るけど指紋認証なんだ。」
「了解です。」
「あ、今のは冗談じゃないよ。」
「え?あ、疑ってないですよ。」
ゲインスさんはケケケと笑った。ねいさんが何か機械を持ちながら部屋から出てきた。
「ごめんね。パスワードのこと言うの忘れてた。一番大事な事なのに。」
「いえ、大丈夫です。」
その後部屋の模様替え、と言っても荷物を置いただけだったり、机に施設内の用具店で買い揃えて置いたりした。もうここでの生活が始まると思うともっと気を引き締めなきゃと感じた。窓から外を見るともう月が出ていた。月は相変わらず綺麗だ。もうあそこには誰も足を踏み入れてはならない地になった。火星での惨劇の教訓である。誰かがインターホンを押した。扉を開けるとゲインスさんがいた。
「今から食事だから食堂に案内するよ。」
僕達は全員揃って食堂に向かった。食堂は広くて沢山の席がある。その内の長机の一つにメンバーが座った。その長机にはピザやパスタなどが置かれている。
パーン!!!!
大きな音が左右から聞こえた。
「「「「「キッドケイくん。subteam入隊おめでとう!!」」」」」
僕は驚いた。歓迎会までやってくれるなんて。
「ほら、今日の主役はケイなんだから、座りな。」
ゲインスさんが椅子に座ることを促す。全員が席につくとコックのうち1人が来た。
「この施設の料理を作っているコックのリーダー、ケルビン=ボルドです。以降宜しく頼みます。」
彼が礼をしたので僕も礼をした。
「それではどうぞ料理をお楽しみください。」
「それじゃあ、まずはケイくんの入隊を祝って乾杯をしよう。」
僕のグラスにはサイダーが入っていて他のメンバーのグラスにはビールが入っていた。
皆でカンパーイと言い乾杯をした。その後料理をしながら雑談をした。
「皆さんはどれ位に参加したんですか。」
「私達3人は3年前かな?今って2665年よね?」
「我らは今まで3人で平和維持活動をしていたんだが、ウィール国の近くにいた時に事件が起こったんだ。幸い、爆風も少ししか届かなかったが、3人とも黒血者になった訳だ。」
「今では役立てていますよ。」
「ゲインスさんはいつごろですか?」
「確かリーダーの次だ。俺が入ってきた時の歓迎会はリーダーとふたりきりさ。」
「いや、あんたsubteam結成式いたでしょ。」
「ケケケ、まあ、初期メンバーという事だ。」
「まだsubteamは新しいんですね。」
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「ケイくん。これからね、辛いことや大変なことがあるかもしれないけど、それを乗り越えていこうね。皆も優しいし、楽しいからきっと上手くやっていけるよぉ。」
「はい。えっと、知夏さん大丈夫ですか?」
「大丈夫よぉ」
「すまんな、知夏は少し酒に弱いんだ。後で運ばねばならぬな。」
「なのに知夏はいっぱい飲むからな。」
僕はサイダーを飲んだ。
「ケイ!おま、俺の奴と間違えてるぞ!」
「ええっ!?」
「引っかかったな、まだまだだな。」
「ゲインス、ごめん貴方の鞄に入ってたの貴方のビールに混ぜたわ。」
「うぉぉい、シャレになんねーぞぉ!」
「嘘よ。」
かなり楽しい時間になったが、後半はかなりワイワイした。楽しい人達だけでよかった。
次の日、二日酔いの治療がゲインスの仕事の一つとなった。




