正義の渇望
私達は装甲車両に乗っていた。奴らのアジトへと向かうためだ。キメダ村を滅ぼした組織は内蔵売買を専門にした組織で、人々を誘拐し、特に子供が多いのだが、解体し、それを闇市場で病院に売りつけるのだ。また、その攫った人々で、自らの欲を満たす時もあるらしい。寒気がする。そして更に厄介なのは奴らにコミュニティがある事だ。今向かっているのは奴らの、謂わば子会社のような場所だが、その子会社が売り上げやら戦力やらで有利をとり、上の地位を狙う。そしてまた多くの人々が死ぬ、という悪循環、奴らの中心に取っては良循環、である。野放しにする訳には行かない。
「見えたぞ、身構えろ。」
運転手がそう言い、指を指した。恐らく廃炭鉱の跡であろう。装甲車が1列に並ぶ。中心にある車から大音量の説得が始まった。
「我々は地球中心機関の者達だ。お前らのやって来たことは既に私達は知っている。今すぐ投稿し、速やかに身を預ければ罪も少しは軽くなるだろう。無駄な争いは避けたい。今すぐ出てこい。」
辺りに沈黙が立ち込める。30秒後、私達に届いたのは1発の鉛玉だった。装甲車はそれを合図に進軍し始めた。向こうからの銃撃もされ始めた。
「ヘヘッ、俺はこの軍で1番幸運で大事な役を任せてもらってるな。あの壁の元に辿り着けなんて、」
運転手がボヤき始めた。
「確かに、この抗争状態の中であそこまで行くのは難しいです。でも、彼らと私を信じてください。」
運転手は冷や汗をかきながらうなづいた。他の装甲車はそれぞれの陣形に散っていった。どこか抜けることが出来るところはないか。壁への道のりは殆ど銃弾や砲弾の雨あられだ。その時、壁の門からバイクや敵のやたらと武器の付いている車が出てきた。
「運転手さん、あそこのバイク達の真ん前に行って。正面衝突するようによ。」
「ええッ!?自殺行為に及ぶつもりですか?あなた達に死なれたらもう、なんにも。」
「良いから、早く!!」
運転手はお守りを手に握りハンドルを切ってスグに敵車両の真ん前に着いた。やはり、狙い通りそこだけ銃弾が来てない。
「少し待ってて。後もう少しで来るはず。」
私達が乗っている車両の横からバイクが1台通り過ぎ、1台は車両の後ろに着いた。通り過ぎていったバイクには吾大さんが乗っていた。吾大さんの乗っていたバイクは撃たれたのか爆発した。運転手は泣きながらお経だか、聖書だか分からないことを必死に呟いている。吾大さんがそう簡単に死ぬわけがない。黒い煙の中から出てきたのは宙に舞ったバイクと放り出される暴走族であった。そして車の後ろから槍が飛ぶ。それは敵の装甲車両の窓に突き刺さる。グラグラと横揺れな運転をした後吾大の全身鋼のタックルを受けて倒れた。
「今がチャンスよ。全速力!!」
私が叫ぶとサッと海汰が後部の扉から中に入り運転手はアクセルを全開にした。吾大さんも、横を通った時に鋼化を解いて飛び乗った。残り5m程の所で私と海汰と吾大は外へ出た。完全に相手の狙いはこちらへ向いている。私達は一旦砂の中に隠れた。そしてあの車両が交代していき、敵の射撃はそこに集中している。しかし、流石世界中心機関の装甲車両だ。後部は穴だらけになったが射程外まで逃げ切った。
「よし、やるぞ。」
吾大さんがそう言って私達は砂から出た。海汰は盾を持っている。私は息を止めて海汰の槍に掴まる。吾大さんは海汰と私を鋼化した腕で思い切り投げる。5mほど上に飛び、最高点で今度は海汰が槍と一緒に私を投げる。私は息を止め、槍ごと透明になった。落ちていく海汰は盾で自身を守りながら背負っていたリュック型クッションに身を任せていた。私は風を受けながら飛んでいった。




