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神殿で遭遇したものは

 彼女を見た後の私は、かなり呆然としていたと思う。

 なんとか自己紹介を済ませたけれど、気づいたら部屋に戻っていた。


「……え、どういうこと?」


 自室としてあてがわれた、白壁の綺麗な一間でぽつりとつぶやく。

 婚約期間を置くとしても、ルウェイン王子と一年後くらいには結婚するだろうと思っていたのに。どうして聖女に立候補するの?

 わけが分からなかった。


 予想外だったのは、意外と他の聖女候補のご令嬢方が私に好意的だったことだ。

 これも不思議に思っていたが、考えた末に理由に気づいた。

 聖女になろうだなんて女性は、結婚のための箔付けが欲しいのだ。適齢期盛りの三年間を潰すことになっても聖女になった方がいいとまで思うのだから、何かしら結婚が難しい理由を抱えていて……今最大級に求婚者が0だろう私の不幸が、我がことのように思えたのだろう。

 その後、夕食時には、こっそりと私に話しかけて来たご令嬢もいた。


「どうが元気をお出しになって下さい。わたくしはまだレイラディーナ様よりも状況が厳しくありませんから、レイラディーナ様のためなら辞退を申し出ますわ。そういう方は他にもおりますもの」


 私を慰めたご令嬢は、そっと目じりを指先で拭っていた。

 ああ、あなたも辛い思いをされたのね……。と、私は彼女と手を繋ぎ合って、自分達の身に振りかかる艱難辛苦について思いを馳せたものだ。

 いつの間にかその人数が増え、気づけばシンシアを除く九人で円陣を組んでた。


 そうしながらも、その場にいた女性達皆がわかっていたと思う。

 聖女は、強い聖霊術を扱える人物がいれば、その人に決まってしまう可能性が高い。神殿も、災害を治めるために聖霊の姿が見える女性を聖女にして、各地に派遣したいだろう。


 私に国王陛下が絶賛するような、シンシアほどの力は無い。

 他のご令嬢方もそこまでの力はないんだろう。

 聖女はシンシアに決まったようなものだ。

 そして私が生きて行くための希望、大神官様の側で片想いしながら一生を過ごそう計画まで、潰されてしまったのだった。


 あまりに辛くて悔しくて、その日の私はなかなか寝付けなかった。

 散々ベッドの上を転がった末に、廊下や庭を歩こうと思い立つ。

 神殿の中を見回っている人もいるようだけど、一度も見とがめられることなく、庭へ出ることができた。


 庭には明かりは何もない。ほとんど暗闇同然だったけれど、月明かりのおかげで、何もかも見えないというわけでもなかった。

 むしろそれが丁度よかった。

 目を凝らし、手探りも使って、神殿の建物側からは繁みで隠れた場所に私はしゃがみ込んだ。


「どうしよう……」


 もう何もできることがないってわかっているのだけど、そうつぶやいてしまう。

 このまま神殿にいても、結果は見えている。

 一度家に帰ろうか。でもあんなに意気揚々と出てきたのに……。いや、シンシア嬢のことを話せばお父様も理解してくれるだろう。

 聖女候補は辞退して。家にしばらくいてから、三年後にもう一度聖女候補に……。


「だめだわ。いくらなんでも、一度なれなかった人を候補に入れてくれるわけがない」


 そうなれば、王家に名誉を傷つけた慰謝料代わりに特権を寄越せと要求しているお父様は、それを利用して私を隣国の貴族か王族と縁づかせようとするだろう。

 マイアも協力して、きっと顔のいい人を選んではくれるだろうけど。その人がまた殿下みたいな人だったら、耐えられるかどうか自信が無い。


 だけど大神官様の側にいられる方法は、神官になることだけだ。

 でもシンシア嬢が聖女の役目をこなす姿を間近で見ながら、神官として働ける自信が無かった。


 深いため息をつきかけたその時、ふいに土を踏みしめて歩く音がした。

 夜間の見回りだろうか。

 そう思った私はもっと繁みの中へ隠れる。良家の令嬢が、こんなところにしゃがんでいる姿をみられるのはよろしくない。


 一方で、見回りが通り過ぎるのを確認しようと、足音の主を探す。

 やがてランプを片手にした人が現れた。

 神官や、雑務をしている助神官ではなさそうだ。真っ黒いフード付きのローブを着ている。

 明かりを持っているのに、姿が見えにくい。顔は黒い影に覆われているようにわからない。


 その人物は、明かりで確認しながら花壇の一画へ向かうと、すぐ側で足を止める。

 夜中に花を観賞しているのだろうか。

 首をかしげそうになったその時――明かりに照らし出された花が、みるみるうちに萎れてしまう。


「え……」


 見ているものが信じられなかった。

 聖霊術で花を咲かせられるのは知っているし、私にも、まだ膨らみ始めたつぼみを成長させ、開花させることぐらいならできる。

 でも逆はできない。

 枯れさせてしまうだなんて、まるで……。


「悪魔……?」


 つい思ったことが、唇からぽろりとこぼれてしまった。

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