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番外編8 私の価値について

 聖女は今まで、お飾りの役職だった。

 三年だけ、箔をつけるためだけに貴族令嬢達が就任する、という立ち位置のもの。だから聖霊術が本当は扱えない私でも、聖女になれる可能性があったの。


 聖女の箔は、三年も神殿にいたことでできる結びつきを期待されてのこと。

 誰も人と関わらずには生きて行くのはむずかしい。だから聖女だって、一緒にいる神官達と仲良くなる。

 家に戻っても、親しい神官と文通をする者もいるはずよ。

 その程度でも、神殿の内情を知りたいとか、神殿の動きを知りたい貴族にはとてもいい情報源になる。

 そして生涯聖女としての称号がもらえるなら、私は一生神殿の重要情報に触れ続ける可能性があるわけで。


 そんな人がいれば、確かに結婚という形で取り込みたいと思うわよね。

 私の場合、婚約破棄されたっていう悪評は残っているけれど、結婚させるのが跡継ぎでさえなければ、それほど家にダメージを与えないと判断する貴族はいると思うの。

 また婚約破棄された分、次男でも三男でも、貴族の子息との結婚なら私も応じると思われたのかもしれない。


 むしろ、なんで私はそのことに気づかなかったのか。

 大神官様に言われて初めて気づくなんて! 申し訳ない……。


「あなたにはこんなことを、知らせたくはなかったのですが……」


 大神官様はとても無念そうに言う。


「いいえ、私も自分で気づくべきでした」


 ただ大神官様の側にずっといられることが嬉しくて。

 あとは今まで自分が結婚相手にと考えていたのが、貴族の跡継ぎや王子という立ち位置の男性ばかりだったせいかもしれない。

 家を継がない男性でも、婚約破棄の後ならば応じると思われてしまうことなど、考えの範囲の外だったもの。


「以後は、貴族の男性には気をつけるようにします」


 私はそう謝ったのだけれど、大神官様は違うと首を横に振った。


「そうではありません、レイラディーナ殿。できれば私は、気づかせたくなかったのです」

「え?」


 首をかしげる私の手を、大神官様がやんわりと握る。


「気づいたら、あなたは他の貴族男性と結婚したいと考えるのではないかと……。今なら、あなたは望めば貴族家の跡継ぎと結婚することもできるでしょう。あなたが神殿に居続けるのではなく、結婚する意思があるとわかれば、ルウェイン殿下の弟君だって打診するかもしれない」


 第二王子様まで……いえ、でもあり得るわ。

 第二王子様は今の王妃様の子供。もちろん王妃様は、先妻の子のルウェイン殿下ではなく、自分の子供を王位に就けたいはず。

 ルウェイン殿下の上であることを主張するなら、聖女の私を……と思うかもしれない。


 え、やだ怖いわ。

 今までみんなに顔をそむけられて、そんな社交界が怖くなっていたのだもの。自分が注目される対象になったとわかると、手の平を返すような状況が不安になる。

 やっぱり辛い時に支えて下さった方が一番よ。

 だから私は主張した。


「あの、私は神殿から出ません。御恩のある大神官様のお役に立ち続けるためにも、大神官様の秘密を守るためにも」

「でも伴侶を得ずにいたら、あなたのお父様が悲しむのではありませんか? 聖女選定の時にも、結婚せずに聖女として神殿に入ることを、喜んでいらっしゃいませんでしたよね」

「う……」


 お父様のことを思うと、くじけそうになる。

 それなりの家柄の、穏やかな人柄の人と結婚して、いつか孫を見せてほしいと言っていたお父様。

 お母様を亡くした後も、私やお兄様がいじめられたり、面倒なころになるのは困るからと、後妻をめとらずにいたのよ。

 聖女になるのを認めて下さったのは、結婚できなくなったからだもの。


「今頃は、ご実家の方にも結婚の打診が来始めているのではないでしょうか。相手に不足があるとお断りになっているかもしれませんが、そのうちに王子殿下などから話があれば、あなたの名誉を回復できるからと、乗り気になるかもしれませんよ」


 状況が変わってしまった今、聖女候補になる時には結婚を諦めていたお父様も、もう一度夢を見られると思ってしまうかもしれない。

 そんなお父様をがっかりさせるのは忍びないわ……。


「もしそうだとしたら……その、どなたか神官で結婚相手を探しますわ。そうでもしなければ、結婚相手から大神官様のことを根掘り葉掘り聞かれそうですし」


 問題はもう一つあるの。


「結婚のためにも大神官様にいただいた力を減らしてしまったら、選定の時の評判は嘘だったのかと、怒る人もいそうで怖いのです」


 ある意味、私はずるをしたの。

 大神官様の術で力を強めてもらうという。

 その力があったからこそ、私は聖女になれたのだけれど。シンシア様にも悪いことをしたという気持ちは今でも少し残っているの。

 後ろ暗いことを思い出してうつむいたら、ふいに大神官様が言った。


「では明日、あなたの結婚に関して話したいことがあるのです。それと公爵領からの帰路に、あなたを連れて立ち寄りたい場所も。よろしいですか?」


 尋ねられて、私は息を詰める。

 まさか、大神官様が結婚相手を紹介すると言い出すのだろうか。

 胃が痛くなった。

 好きな人に、結婚相手のあっせんをされることになるかもしれないだなんて。

 でも、大神官様の側にはいられる。そういう相手について、紹介されるのだと思うの。だから私は答えた。


「わかりました、大神官様」

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