番外編5 聖女だからこその行動をしようとしたけれど?
とにかく、ローラ様の目的はわかった。
あとは大神官様が、ローラ様に対してどういう気持ちを持っているか、が問題だ。
好きなのか、恋愛感情はないのか。
(今の所、再会してからローラ様にそれっぽいことを言ったり、ローラ様が好きで……っていう表情とか行動もなさっていないのよね)
そのせいで私はどうするべきか迷っていた。
大神官様が惹かれていらっしゃるのなら、私はただのお邪魔虫。大神官様の側で、今までのように近しく聖女として勤め続けたいのなら、ローラ様とのことに関して見て見ぬふりをすべきなの。
お好きな相手のことを嫌う人でも、大神官様は側に置いて下さるかもしれないけど、やっぱり素っ気なくなさるでしょうから。それは辛いのよ。
だからローラ様が私のことをないがしろにしていても、黙っているしかないと思っていた。
大神官様に嫌われてしまいたくないし、ご結婚……ということになれば、大神官様がその時にローラ様の態度を注意なさるでしょう。
でも大神官様がローラ様のことをお好きではないのなら……?
王宮では、確かにご興味がおありのように見えたから、そうだと思っていたの。でもこうして領地を訪問してから、大神官様は何も行動なさらない。
もしかしてあの時、惹かれていると感じたのは私がそう思い込んだだけかもしれない、って思えてきたの。
だとしたら、私はもう少し大神官様に遠慮しなくてもいいのではないかしら。
……と思う程度には、私もローラ様のなさりように少し嫌な気分になっていた。
こう、貴族同士であっても招待した客にそれはないと思ったから。
彼女が大神官様と親しくして、神殿のことを尊重することを身に浸みる可能性が少ないのなら、やるべきことがある。
だから館に戻った後、夕食前にお菓子を摘まみながら大神官様や、随行した祭神官様と打ち合わせる時に、それとなく言ってみた。
「あの……大神官様、お尋ねしたいことがあるのですが」
「なんでしょう、レイラディーナ殿」
お茶のカップを持ち上げた大神官様に、私は告げた。
「明日は少し遠くの町へいらっしゃるのですよね? 日帰りはできると伺いましたが……私、明日はお休みさせていただいても宜しいでしょうか?」
この申し出に、大神官様はちょっと驚いたように目をまたたいた。
「体調がよろしくないのですか?」
聞かれて、首を横に振った。
「そういうわけではないのです。ただ少し……私が随行しなくても良い部分があるようでしたら、休ませていただければと思いまして」
今日の視察にしても、私が何かをするような出番はなかった。
大神官様も、随行の神官様だって聖霊術をお使いになることはなかったのだ。
そもそも私は、見学のために来ているわけで、聖霊術を求められてのことではない。
何もすることがないのに、大神官様の前でローラ様にないがしろにされている姿を見せたくない。聖女だからというより、貴族令嬢としてあんなに惨めな、のけ者にされている姿をさらされるのは苦しいもの。
それなら一度視察に同行しなくてもいいだろうと考えたの。
大神官様は、貴族同士の慣習などにはお詳しくないかもしれない。
でも公爵閣下は違うだろう。あの対応をされた翌日、聖女が視察に欠席したとなれば機嫌をそこねたことは感じるはず。
公爵は私の話を聞きにくるだろう。そこでローラ様の態度が非礼すぎることを話そうと考えた。
元はこちらが侯爵令嬢だし家格も劣るかもしれないが、今の私は聖女で、格上。
聖女のことを見くびるような態度を取るということは、他の神官達にも、元の身分で判断して粗雑に扱うということも起きかねない。
というか、私が黙って耐えていたらそうなってしまう。聖女でさえ何も言わなかったのだからいいだろう、と。
神官が軽んじられては、ゆくゆくは神殿を軽んじる原因になるもの。大神官様のためにも、こればかりは看過するわけにはいかない。
(そう、どうせ私は結婚もできない身ですもの。他の貴族と衝突したところで、今さら無くすものなどないものね)
うんうん、と自分に言い聞かせながら、私は大神官様の次の言葉を待つ。
すると、少し考えていた大神官様が言った。
「では私も明日は休みます。旅の疲れが出たということにして、ゆっくりすることにしましょう。随行の神官や衛士達にも休息は必要ですからね」
「え? そんな、どうして大神官様まで」
視察はそのままお続けになってもいいのにと思った私に、大神官様は言った。
「休みが必要なのは確かですから。私も視察を早く終わらせようと、急ぎ過ぎたかと思いましたので」
だから気にしないようにと言われたけど。え、待って大神官様。それじゃ公爵閣下に気づかせるつもりが……。
でも大神官様にそんなこと言えない。私が仮病だということも話す必要があるし……。
というわけで、私は黙るしかなくなった。




