俺は漆田よりも強い
毎日投稿が厳しくなってきました。
「すまん、無理」
そんな事したら、漆田の反感を買うどころじゃない。
確実にあいつは俺を殺しにくるだろ。
「別にいいじゃないですか」
「嫌だよ。死ぬぞ」
「はぅ……。死ぬほど嫌ってことですか……」
「えっ?」
「そんなに私のこと嫌ってたんですか……」
「いや、ちがっ」
泣きそうになるアルテミシアを見て焦る俺。
確かに結婚は嫌だが、別にアルテミシアの事はそこまで嫌っていない。
勘違いも甚だしいが、まさか泣くまでショックを受けるとは思わなかった。
一体どうして、どこでここまで好感度を上げてしまったのやら、と他人事のように思っていると、面白そうに眺めていた柚子希が口を開いた。
「そろそろ真面目に考えましょうか」
「いやお前のせいでこうなったんだけど!?」
「人のせいにするんですか?アルちゃんを泣かせたのは和輝君なのに」
「それはそうだけど!そうなるように話を誘導したのはお前だろ!」
「そうやって全部私のせいにするんですね……。酷いです」
ぽろぽろと涙を零す柚子希だったが、顔は笑ってる。
わざわざ涙まで流すところは凄いというか怖いが、笑いが隠せていない時点で間違いなく嘘泣きだった。
「……からかってるんだろ?やめろ」
「からかってなんかいません!私は本気で悲しいです」
「……顔が笑ってるんだっての」
「あら」
口元を手で隠す柚子希だったが、もう遅い。
仕返しなのか、俺で遊んでいるのは丸わかりだったので、頭には来るが相手にしないことにした。
「じゃあ、話を戻すぞ」
「泣いている私たちは放置ですか?鬼畜ですね」
「ああもう鬼畜でも何でもいいから、とにかく話を聞け!」
結局聞き流せなかったが、それでも俺が本気で怒りそうなのは伝わったらしい。
アルテミシアはまだ落ち込んでいるが、ようやく二人とも聞く姿勢になった。
「はぁ……。それで、漆田の邪魔をする方法だが」
「一応二人に結婚してもらうっていうのはそれなりに本気ですからね?漆田君相手でも、和輝君ならなんとかなりますし」
「なんとかなるが、あいつが死ぬぞ?負ける気は無いが、手加減する気はねえし」
俺が魔王を倒してしまったこと。
それによって、俺の身に起こったことを、柚子希だけは知っている。
だから平然と漆田に勝てると言えるのだ。
そしてそれを知らないアルテミシアが、俺たちの会話を聞いたらどうなるか。
「……漆田様が、氷川様に負けるってどういうことですか?」
当然、こうなる。
ありえないことを聞いた、というような表情を見せるアルテミシアに、俺たちはどう説明するか悩んだ。
漆田は、伊達や酔狂で勇者達のまとめ役をやっているわけではない。
誰も漆田に逆らおうとは思えないほどに強いから、勇者達を纏められるのだ。
人気もあるし、リーダーとしての適性があったことも確かだが、最も大きな要因はそれだった。
そしてそれは、不真面目な勇者達が渋々でも漆田に従っているのを見て、王達も理解している。
こう言ってはなんだが、たかが一勇者である俺が漆田よりも強いだなんて、アルテミシアには思えなかったんだろう。
「……アルテミシアはどこまで知ってるんだ?」
悩んだ結果、俺の口から出たのは確認の言葉だった。
もし、柚子希がそこまで話をしていないのなら、隷属魔法をかけてでも誤魔化さなければいけなくなるかもしれない。
「私たちが勇者であったこと、それから魔王も一度倒していることは話してあります」
「そう、か」
少なくとも最悪のパターンだけは避けられた。俺は安堵の溜息を吐く。
これなら、もういっそ全部話してしまえばいい。
柚子希に目で訴えると、こくりと頷いた。
「話がずれてしまってるけど、仕方ないか。アルテミシア」
「はい」
「面倒なところは端折って、簡単に言うぞ?
……魔王を倒したのは、俺だ」
「……えっ」
まあ、驚くよな。
可愛い顔が台無しになるくらい、口を大きく開けて驚いているアルテミシア。
年頃の女の子がするような表情じゃないな、と思いつつ話を続けた。
「魔王を倒す前は、間違いなく漆田が一番強かったよ。けど、ちょっとした手違いで、俺が魔王にトドメを刺してしまったんだ」
あの事は、未だに後悔している。
送還、というよりは再召喚か。される前、漆田からはずっと憎悪の目で見られていたからな。
「レベルアップの条件は知ってるだろ?」
「経験値を稼ぐことです」
「その経験値は?」
「魔物を殺した人が、八割です」
「そういう事だ。おかげで魔王を倒して得た経験値は、大半が俺に流れてしまった」
漆田が瀕死にまで追い込んだ魔王を、ハイエナのように掻っ攫ってしまったんだ。恨まれても仕方ないとは思う。
もしかして、漆田が狂ったのは俺のせいだったんじゃないか?
「けど、レベルが上がっただけならまだ俺は漆田に勝てると言い切れるほど強くは無かった」
異世界、というよりはゲームでよくあるレベル制。
それで当てはめてくれればわかる通り、たかだか1上がった程度ではそこまで差はつかなかった。
1から2とかならまだ分かるが、50から51に上がってそこまで違いが出るか?ってことだ。
それなのに、俺は明らかに漆田より強くなった。
「ランクアップ、ですか」
「そういうことだ」
ランクアップ。
レベルアップが強化だとしたら、ランクアップは進化に値するものだ。
ポ○モンで例えれば、コ○キングがギャ○ドスになるように。
俺のランクが上がることで、そこまでの劇的な変化が起こってしまった。
「そういう訳で、俺は漆田よりも強いんだ」
「なるほど、納得です。……一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「漆田様がランクアップしている可能性は?」
涙の跡などとうに消えて、真剣そのものの表情を浮かべるアルテミシア。
こういうとこを見ると、王女様だってことだよく分かる。
「まず、ありえない」
「どうしてそう言い切れるんです?」
「ほぼ間違いなく、ランクアップの条件が魔王を倒すことだからだ」
「……それ以外にも条件があったら?」
やけにしつこく聞いてくるな。
アルテミシアにとって、それだけ大事なことなのかもしれない。
「分からない」
「じゃあ!」
「けど、大丈夫だ」
「何でそう言えるんですか?もしかしたら氷川様が死んでしまうかも知れないんですよ!」
そうか、俺のことが心配だったのか。
真剣過ぎるアルテミシアの態度の理由が分かって、微笑ましい気持ちになる。
まさか親を奴隷にした相手の事をそこまで心配出来るとは思わなかったから。
柚子希が連れてきたこともあるが、なによりもアルテミシアの心が綺麗なんだろう。
勇者だった俺たちにとって、眩しくて仕方ないくらいに。
ああ、だから柚子希のお眼鏡に叶ったのか。
チラ、と柚子希の方を見ると、同じように微笑んでいた。
「聞いていますか!?」
顔がくっつきそうなくらいにまで近づいてきて、アルテミシアが言う。
そんなアルテミシアの事を軽く目を細めて見て、俺は言った。
「それでも、大丈夫だ」
「ですから……」
「大丈夫なんだ。それが、俺には解る。そういうスキルを持っているから」
「…………あっ!」
思い出したように声を出すアルテミシア。
きっとその予想通りだろう。
そう、俺がこちらの世界に来て得たスキル。
「【神眼】は、ランクまで見通せるんだ」
「その名前気に入ったんですね」
余計な茶々を入れてくる柚子希はさておいて、ようやく納得したアルテミシアなのだった。
余計な説明入れすぎて話が進みません。