柚子希、怒る
ちょっと早めに投稿。
何だかどんどん短くなっていってる気がします。
「とは言ったものの、どうやって妨害するかだな」
「そうですね……。下手に漆田君の邪魔をしたら、何をするか分かりませんものね」
「ああ。……というかまた忘れてたんだが」
「何です?」
「そもそもアルテミシアはどう思ってるんだ?」
今は大人しく座りながら、俺たちの話を聞いているアルテミシアを見る。
ここに来た時点で心の内が透けて見えているが、それでも一応聞いておいた方がいいだろう。
「えっと、たぶん分かっているとは思いますけど」
「お前の口から直接聞くことに意味があるんだよ」
「分かってます。その、ですね。私としては、漆田様と結婚するのはお断りさせて頂きたいなあ、と」
たどたどしく、漆田にしてみれば残酷な事を口にするアルテミシア。まあ、漆田はざまぁとしか思わないけどな。
「ん、じゃあまあ王には悪いが第一王子に王位を継いでもらうしかないな」
「そうしましょう」
「問題は漆田をどう納得させるかだなあ……」
「ですね。王様自身は、最悪隷属魔法で黙らせればいいですけど」
「……あの?」
早速方針を決める俺たちに、戸惑いながらアルテミシアが話しかけてきた。
まだ何か言うことがあったのだろうか。
「何だ?まだ何かあったか?」
「いえ、その……」
口籠るアルテミシアを見て苦笑いする。
ついさっきまではイラッときていた仕草も、今では可愛いと思えてしまっている。
人徳とはちょっと違うが、ここまで短時間で人の印象を変えるアルテミシアは、色んな意味で凄まじいと思った。
「いいんですか?」
「……何がだ?」
「そんな簡単に決めてしまってもいいのかと思いまして……」
心配そうなアルテミシアだったが、言ってることは間違っていない。
アルテミシアから見れば、俺は全く悩まずに協力する事を選んだように見えるだろう。
ほとんど説得する事もなくそうした俺は、どちらかというと不審に思えるのではないだろうか。
「まあ、あっさりし過ぎてるように思えるんだろうな」
「えっと……」
「ああ、アルテミシアからは言えないか」
私は貴方を疑ってます、ってことだからな。
為政者として、そう簡単に言質を取らせてはいけないことは喋らないってことだろう。
「用心深いのはいいことだが、今回ばかりは心配ないよ」
「どうしてそう言えるんです?」
「そうだなあ……アルテミシアは、柚子希の事は信用してるんだろ?」
「それはまあ、色々ありましたし」
ここで色々あった事をバラしてしまう辺り、まだ経験が足りてないようにも思えるが、まあそこら辺は最悪俺たちがフォローすればいい話か。
頭ではそんなことを考えながら、俺は少しかがんでアルテミシアと目を合わせた。
「なら、大丈夫だ」
「……あの」
「なんで、って?……決まってる、柚子希がお前に味方してるからだ」
目を見開いて大げさなくらい驚くアルテミシアに、俺は続けた。
「俺は以前、ずっと柚子希には助けられてきた。それこそ命を救われた事も数えきれないくらいあるし、感謝してもしきれないと思ってる」
「……」
勇者だった時。
俺のみならず、勇者だった者の大半は自分の力を過信していた。
勇者は、ただ召喚されるだけでそこらの騎士とは比べものにならない力を得るし、その上【勇者技能】まで身につくのだ。
そんな人間が三十人以上もいれば、少なからず調子に乗ってしまうこともあるだろう。
けど、それにも限度がある。
そして俺たちは、その限度を越えてしまった。
誰が仕組んだのかは分からないが、俺たちは何度か罠にかかった。
そんな時、いつも俺たちを助けてくれていたのが柚子希なのだ。
例え、何度罠にかかっても。
何度、勇者の力を過信しても。
柚子希は全く躊躇わず、俺たちのことを助けた。
もちろんそれは柚子希が一度も危険じゃなかったという訳ではないし、罠にかからなかったわけでもない。
そういう時は、当然助けに行っている。
でも、
「誰も知らない世界で、柚子希だけは。何の対価もなく助けてくれた。その事が、どれだけ嬉しかったことか」
「……」
仲間というには不安定すぎる絆しか無かった、勇者達。
その中で、何があっても仲間だと言えるような存在がいたことは、何よりの救いだった。
「だから俺は、決して柚子希を裏切らない。そして柚子希が味方をする限り、俺はそいつを見限ったりはしない」
むろん、例外はあるが。
いくら何でも、漆田みたいな狂人まで見限らないでいられるほど俺は善人ではないのだ。
アルテミシアもそこまで狂った相手ではないことを祈る。
「ふふっ、ふふふふっ」
「……どうした?」
ふと、アルテミシアが笑い始めた。
タイミングが良すぎて、まさか本当に狂ったのだろうかと考えてしまう。
「失礼ですね、狂ったりなんかしてませんよ。あんな狂人と一緒にしないで下さい」
「ああ、それは悪い」
……って、待て。
俺は今、口に出していたか?
いや、ありえない。
考えている事が口に出てるなんて、そんなヘマをするほど腑抜けてはいないはずだ。
とすると、まさか。
「心が読める……?」
「ええ、その通りです。これがあるから、父上は私を王にしようと考えたんだと思います」
「……よくまあそんな突飛な技能を身につけたもんだ」
勇者でもあるまいし。
王族が、いや王族だからこそか?そんな都合のいい技能を身につけているとは思わなかった。
「にしても、だから漆田と結婚したくないって思ったんだな」
「だから、とは?」
「あいつの心が読めたから。ほら、あいつって外面はいいだろ?相手がアルテミシアみたいな美人だったら特に」
「び、美人……はぅ」
「だから普通なら靡いても仕方ないんじゃないかと思ってさ」
「そ、そうですか」
そう言うと、アルテミシアはやけに顔を赤くして俯いてしまった。
……なんか地雷踏んだ?
慌ててフォローしようとすると、俺達の話が終わるのを見計らっていたように柚子希が話しかけてきた。
「……ちょっといいですか?」
……なぜか、不機嫌に。
「お、おう」
「は、はい」
「アルちゃんを王にさせない方法ですが……とりあえず、一つ思いつきました」
「早いな。どういう方法だ?」
柚子希は俺の目をじっと見て、微笑んだ。
……嫌な予感がひしひしするんだが。
そしてその予感は現実のものとなった。
「和輝君とアルちゃんが結婚すればいいと思います」
……何で不機嫌だったのか分からないが、とりあえず俺に対して怒っていることは間違いないらしい。
柚子希の一言で、俺は確信した。