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王女の器を知る

遅くなりました。

今回も少し短いです。



「それで、どうしても聞いてほしい事ってなんなんだ?もうアルテミシアについて知ってる事は話さなくていいのか?」


二人とも頭を上げたところで、ようやく話を進められるなと思いながら口を開く。

二人は一度顔を見合わせて、無言で意思疎通を図ってからこちらを向いた。


「そうですね、この際一から説明してしまいましょう」


何から話そうか、しばらく悩むそぶりを見せた後、そう言って柚子希は語り出した。


「まず、アルテミシア様……って、もうここまできたら取り繕わなくてもいいですね。アルちゃんは、ご存知の通り王位継承権第二位の王女様でした。この国の王位継承権とかについては説明しなくても大丈夫ですよね?」

「ああ、それは本で見たから大丈夫だ」


この国では、男女問わず産まれた順番に王位継承権がつく。

分かりやすさ重視なのか、呼び方もそれに応じて、王位継承権第一位なら第一王子、王位継承権第四位なら第四王女という風に区別をしているらしい。


「実はアルちゃんは、王位継承権第一位のウルザーク王子様を差し置いて次代の王に指名されていました」

「はぁ!?」


王太子様ですね、と呑気なことを言う柚子希の言葉を聞いて絶句する。

この世界も男女平等というわけではなく、中世のように男尊女卑なところがある。

当然王として選ばれるのも、余程のことがない限りは長男だ。

仮に男が産まれなかったとしても、適当な貴族家から相応しい男を婿にとるのが慣例である。


それを、破ってまで。今の王は、アルテミシアを王にしようとしたということになる。


「……ああ、どこぞの貴族に王に相応しい男がいるってことだな?」

「いえ。この世界としては前代未聞の、女王陛下を誕生させようとしていたみたいです」

「冗談だろ……」

「だったらよかったんですけどね」


もしかしたら、なんて淡い期待も一瞬で消えてしまった。


一度第一王子を見たことがあるが、そこまで能力が劣っているようには見えなかった。

それはとりもなおさず、アルテミシアにはそれだけの器があるという事だ。


「……良かったのか、悪かったのか」

「まだ、良かった方だと思いますよ。これで王が死んでから呼び出されてたりしたら、どうなっていたことか」

「それはまあそうだけどさ……」


国が混乱してしまう前に呼ばれたことは良かったことだが、そもそも混乱してしまったら勇者を呼ぶことも出来なかったと思う。

むしろ一番呼ばれたくないタイミングで呼ばれたのでは無いだろうか。


「それで、続きを話しても?」

「ああ、頼む。まさかこれ以上悪い話は無いよな?」

「……えっと」


あるのかよ。

露骨に眼を逸らす柚子希を見て落胆する。

こんな話ばかりであれば、聞かなきゃよかったと後悔してしまった。


「まあいいや、早く言ってくれ」

「は、はい。ここまでの時点で、継承争いが起こることはもう分かったと思います。それだけならよかったんですけど……」

「今度は勇者が絡んでくる、と」

「そうです。すでにアルちゃんは漆田君に求婚されました」

「……おい、あいつほんと頭大丈夫か?」


漆田の行動に、俺は呆れかえってしまった。

王族の連中が勇者を味方につけようとして婚姻を結ぼうとするなら分かる。

それだけこの国の王座争いは切羽詰まっているんだろうし、勇者の破格の力を考えれば致し方ないことだ。


だが、自分から婚姻を結ぼうとしてどうするというのだろうか。

それでは周りを煽ってしまうし、余計混乱を招くだけ……。


「ってそういうことか」

「分かりましたか?」

「ああ。つまりあいつは、自分から王位争いを激化させることが目的なんだろ?」

「私もそう考えました。少し国内を荒らすことになりますが、それでも国を自由に操れるようになることは大きいです」

「そっちの方が、勇者だったから持っている、召喚されたばかりとは思えない力のことを隠してコソコソ行動するよりは楽だと思ったんだろうな」

「まあなんだかんだで国家権力は偉大ですしね」

「いくら上層部を抑えてるからって、無条件で国が従うわけじゃないからな」


国民とか、騎士とか魔導士とか。

いくらでもいるし、替えがきく。そんな存在の方が怖いということを、俺たちは勇者だった二年間で思い知っている。


「後は国民感情を味方につけられるってのがデカいな」

「召喚された勇者様と王女様が結婚なんて、国民からしたら分かりやすい慶事ですからね。それが美男美女ともなれば」

「魔王を倒すのに大々的な支援が集められる上、その後に他国を侵略するのにも役立つ、か」


えげつないな。

この先、俺たちが辿る未来を予想してげんなりする。


この策の怖いところは、あらかじめ言い含めておけば俺たち勇者に被害を出さずに事を済ませられるということだ。

勇者達のリーダーだった漆田が担ぎ上げるのだ、アルテミシアが王になることなど分かりきっている。

俺たちは他の貴族、王子には一切手を貸さず、ただ勝ち馬に乗るだけでいい。


全く、嫌味なくらい素晴らしい策を思いつくものである。


「……けど」

「ええ。こんな策は成らせるわけにはいきません」


残念な事に、俺は乗るわけにはいかなかった。


まず、アルテミシアと会ってしまったこと。

柚子希に嵌められて会ったようなものだが、この数時間で俺もアルテミシアのことは気に入っている。

最初はさっさと喋れよ、と思っていたものだが、あの笑顔にやられたのか気づいたら受け入れてしまっていた。

女性恐怖症……とまで言ったら大袈裟だが、それに近い俺が、だ。

絶対に漆田の傀儡にはさせたくないと思ってしまうほどに。


勇者だった頃、幾度か出会ってきた人誑しと呼ばれるような人種。アルテミシアは、まさにそれだ。

会った時に抱いていた、「頼りない王女様」というイメージは、すぐにまやかしだったのだと思い知らされた。


今では勇者の奴隷だが、それでも十数年間にわたり王であった人物が、どうしてそこまでして女を王にしようとしていたのかがよく分かった。


アルテミシアには、確かに王となる器がある。

人の心を惹きつける力。

望んで得られるものではない、天賦の才をアルテミシアは持っている。



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