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王女様は自虐する

余裕があったので本日二話目です。



勇者技能リミテッド・ブレイバー】とは。

勇者召喚の特典で、召喚された時に一つだけ得ることの出来る能力のことである。


もちろん俺たちは全員一つずつこの能力を持っていたわけなのだが……一つ、と言われていたから、二度召喚されたからとはいえ二つ目の能力を得ることができるとは思っていなかった。

これはあくまで勇者召喚の特典だということを、すっかり忘れていたのだ。


「それで、俺はこの鑑定みたいな能力を得たと?」

「はい。私も同じように、こちらの世界に来てから覚えのない能力を得ました」

「んー」


頷く柚子希を見て、何とも言えない表情になる俺。


「どうかしましたか?」

「いや、な」


それを見咎めた柚子希が問いかけてくる。

言い辛くて口籠るが、柚子希が焦れてきているのを見て仕方なく口を開いた。


「……しょぼくないか?」

「はい?」

「だからさ。折角の【勇者技能】がたかが鑑定って……なあ?」

「それは……」


俺が言いたいことが伝わったのか、同じように微妙な表情を浮かべる柚子希。

そりゃ、使えないとは言わない。

鑑定は地味にレアなスキルだし、俺は持ってなかった。

見た者、物の詳細がある程度分かると言うのはかなり便利だし、当然戦闘でも役に立つ。


けど、所詮はその程度なのだ。


【勇者技能】は、その名の通り勇者と呼ばれる者が持つに相応しい技能を一つではあるが発現できるものだ。

それが鑑定と言うのは……こう、物足りなさを感じてしまう。


元々持っている【勇者技能】はむしろ勇者でも中々持てないほどの能力なのだが、だからこそ落差が激しく、ショックを受けてしまうのだった。


「和輝君が言いたいことも分かります。けど」

「けど?」


閃いた、とでも言うように、柚子希がこちらを向く。

また何かに気づいたのだろうか。

若干期待しながら、俺は柚子希が話すのを待った。


「それ、たぶん普通の鑑定じゃないと思います」

「……どういうことだ?」


何が言いたいのか分からず、思わず聞き返す。

【勇者技能】なのだから、それは普通の鑑定じゃないというのは当然だと思うのだが。


「いえ、和輝君が考えてるのとは意味が違います。そもそも鑑定って、身長や体重、ましてやスリーサイズなんて調べられないんですよ?」

「そうなのか?」

「ええ。私も鑑定を持っているのでまず間違いありません」

「ふむ……」


俺は腕を組み考え込む。

確かに鑑定がどこまで知ることができる技能スキルなのかまでは知らなかったが、まさかその程度の情報すら知ることが出来ないとは思わなかった。

身長体重はもちろんのこと、相手の技能や使える魔法まで見れるこの【勇者技能】は……もしかしたら、かなり凄まじい技能なのかもしれない。


「……【神眼】、ってところか」

「……もしかしてカッコいいとか思ってます?」

「…………」


ポツリと呟いた俺の言葉を聞いて、少し引き気味に聞いてくる柚子希。

素で柚子希がいるのを忘れていた。


「……聞かなかったことにします」

「そうしてくれ……」


真っ赤になった顔を両手で隠す俺を見て、柚子希はそう言ってくれたのだった。








「……あの、私もいるんですけど」

「「あ」」


忘れてた。







いいんですよ、影薄いですもんね、一言も喋ってなかったし。どうせ私なんて……と自虐に走る王女様を、宥めすかすこと一時間。

ようやく話ができるくらいの精神状態に落ち着いてくれた。


「ご迷惑をおかけしました……」


心底申し訳なさそうに、消え入りそうな声で言う王女様。

まあ迷惑っちゃ迷惑だったが、そもそも話がどんどん逸れていって王女様を放置してしまったのは俺たちだ。

それを考えると一方的に責められたりはしないし、そうして申し訳なさそうにしていると罪悪感を掻き立てられるので是非やめてもらいたい。


「あー、別に気にしてないんで、ひとまず頭上げてくれ……もらえますか?」


そう言うと、王女様はおずおずと頭を上げた。

これでやっと話ができる。


「で、王女様……」

「あの、待って下さい」


俺が話を進めようとすると、王女様がぶった切ってきた。

今度は行動じゃなくて言動で邪魔をするのか、と少し苛立ったが柚子希がいる手前それを表に出すのはよろしくない。

引き攣る口元を引き締めて、王女様に言葉は丁寧に話しかける。


「……王女様、どうかしましたか?話の途中だったんですが」

「す、すみません。少し気になったことがあって」

気になった、とは?」

「その……」


あの、えっと、うう……といつになっても続きを話さない王女様。

これ以上聞いていると堪忍袋の尾が切れそうなので、げんなりしながら再度話を促すことにした。


「あの、王女様?言いたいことがあるならハッキリ言って下さいませんか?」

「……それです」

「それ、とは?」

「その王女様って言うのをやめて下さい」


なぜかそこだけやけにキッパリと言う王女様……もとい、アルテミシア様。

そんなに王女様と呼ばれたくなかったのだろうか。


「分かりました、アルテミシア様」

「様付けもやめて下さい。できれば敬語もやめて下さい」

「はあ……?」


いきなりすぎる要求を聞き、困惑する俺。

王女様がこんなことを言うってどうなってるんだ、フレンドリーって言っても限度があるだろ。

そう考えていると、見かねた柚子希が口を出してきた。


「うーん、ちょっといいですか?」

「何だ?」

「何ですか?」


俺と王女様がほとんど同時に返事をする。

お互いに気まずくなり、目を合わせた後すぐに柚子希の方を向いた。

それを見て、柚子希は一つため息を吐いてから言った。


「まず、アルテミシア様。そんな初対面の相手に無茶を言っても、相手が混乱するだけですよ?」

「……それは」


でも、柚子希は混乱しなかったじゃないか。そう言いたげな王女様を遮り、柚子希は言う。


「私みたいなのは例外なんです。……それに、和輝君は少し女性が苦手みたいですから」


焦らずゆっくり仲良くなるしかないですよ、と王女様を諭す。

……間違ってはいないが、他人に女性が苦手とか言われると釈然としないな。


「それで、和輝君」

「何だ」


王女様の背を撫でながら、唐突にこちらに話を向けてきた柚子希に答える。

まあ、この流れなら俺にも言うことがあるんだろうって分かってたしな。特に驚きは無い。


「見ての通り、アルテミシア様はかなり……マイペースな方です」

「非常識なんだな」

「わざとマイペースって言ってるんですから言わないで下さい」


ギロリと俺を睨みつけてくる柚子希。

それ、お前も王女様が非常識って認めてることになるけどいいのか?


「そうか、すまん。それで?」

「……貴方が女性が苦手なのは分かっていますけど、それでアルテミシア様に気を遣わせるのはハッキリ言って無理です。箱入り娘の極致みたいな方ですから」

「だから?」

「申し訳ないですが、アルテミシア様に気を遣ってあげて下さい」


深々と頭を下げてくる柚子希を見て、俺は思う。


……王女様を連れてきたのはお前だろう。

何で俺が気を遣わなきゃいけないのか。


不機嫌になる俺に、無理を言っている自覚があるのかただ頭を下げ続ける柚子希。


いつになっても頭を上げない柚子希に、まるで俺が悪いような気がしてきていい加減頭を上げるように言おうとすると、頭を下げたまま柚子希が口を開いた。


「……お願いします。どうしても、聞いてほしいことがあるんです」


横で同じように頭をさげる王女様。

王族がそう簡単に頭を下げちゃダメだろうに。……いや国を乗っ取った俺が言えた事じゃないが。


「……はあ」


仕方ないなあ。


「分かったよ。アルテミシア、これでいいか?」


ああ、俺の負けだ。

そもそも勝つ意味がない気もするが、なんにせよ大人しく諦めた俺。

その一言に、ホッとする柚子希の横で、アルテミシアはーー


「はいっ!」


ーー大輪の花が咲くような、満面の笑みを浮かべたのだった。


やばい、可愛い。



勇者技能リミテッド・ブレイバー(笑)

自分のネーミングセンスに惚れ惚れします。

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