勇者達は話し合いをする
どうにか今日も投稿出来ました。
あれから一ヶ月。
俺たちはすでにこの国を乗っ取っていた。
と言っても、国として何かが変わってしまった訳でもない。
表向きは、以前のカルジェナ王国と何ら変わらなかった。
他の国から見ても分かるほどに国を乱してしまったら、下手をしなくてもすぐに戦争になる可能性が高いことは、勇者だった頃の経験から嫌というほど分かっている。
そのため、俺たちは王や宰相、重職に就いている一部の貴族達のみに隷属魔法をかけて、俺たちを国賓として扱うようにさせたのである。
もちろん、貴族全員に隷属魔法をかけた方が簡単なのだが、それは出来なかった。実はこの魔法には二つほど穴があるのだ。
一つ目は、許容量の問題。どれだけレベルが高かろうと、隷属させる数には限度がある。
稀にその数が異様に多い者もいるみたいだし、恐らくアグルムがそうだったんだろうが、俺たちは勇者とはいえどそこまでの許容量は無かった。
この国だけでも貴族の当主は百を超えるのだから、他の国のことや跡継ぎのことまで考えれば、全員を隷属させるなんて無理ってもんだ。
そして二つ目、これはそのままアグルムが俺たちを隷属させられなかった理由になる。
この魔法、「隷属させられる対象は自分以下のレベルでなければならない」という制約があるのだ。
勇者だった俺たちはかなりの高レベルだったため、アグルムよりもレベルが低いわけもなく。当然のように、召喚される時点でかけられていたらしい隷属魔法は無効化されたというわけだ。
まあこっちに関しては、曲がりなりにも勇者である俺たちよりもレベルが高い相手はそういるはずもないので、特に気にしなくてもいいだろうが。
とまあ、他にもいくつか理由はあるが、そういった理由があったために、俺たちはこの方法で国を乗っ取ったのだった。
さて、国を乗っ取った俺たちだが、まず初めにやったことは何かというと、調べ物だ。
いくら勇者で、国を乗っ取ったからといえ、俺たちはこの世界の事をほとんど何も知らない。
ずっとこの国に引きこもっているならそれでもいいのだが、そんな風に考えるようなやつはそもそも帰ろうとすら思っていなかったはずだし、帰らなかったはずだ。
しかし誰もそうしなかったのだから、当然みんな地球に帰りたいと考えている。
なら、地球に帰るために、送還魔法を確実に成功させるために、この世界の事を調べるのは最低条件だった。
実際、ここ一ヶ月のうち半月は調べ物をしている時間だった。
国を乗っ取るよりも全然時間がかかっている。
いや、資料を探すのに時間がかかったわけではない。都合のいいことに、王城には古文書や辞書などの書物がぎっしりと蔵われている場所があったため、ほとんどそこで調べているだけで済んだ。
むしろ逆で、資料があまりにも膨大すぎたのだ。
驚いたことに、学校にある図書室のような規模ではなく、図書館と呼べるほどの規模の別棟が建てられていた。
そのせいで半月経っても読み切れる気配がないのだ。
だからこそ、まだまだ調べ物を続けていたいところだったのだが、残念ながらそれは中断することになった。
今の俺たちを纏めている、クラスのリーダーとでも呼ぶべきやつが集合をかけてきたからだ。
「早すぎるよなぁ」
気だるげに廊下を歩きながらぼやく。
三十人で分担していて、それでもまだ自分の割り当てられた内の半分も調べ終えていない。
ところどころ読み流している俺でこれなのだから、他の奴らなどもっと進みが遅いだろう。
だというのに、なぜこのタイミングで集合をかけたのか。
「なんか、見つかったのかね」
思い当たったことを口に出してみる。
リーダーをやっているだけはあってそこそこ頭はいい奴だし、この状況を見てそれでも呼ぶということはそれだけ重大なことがあったのだろう。
というかそうでも無ければぶん殴る。
「……ま、とにかく行ってみるか」
面倒だけど。
そんな思いをため息とともに吐き出して、俺は集合場所へと向かうのだった。
◇
「……どうも」
軽く挨拶しながら部屋に入る。
どうやら遅れてしまったようで、もうすでに俺以外はほとんど揃っているように見えた。
「やっと来たんだね、氷川君。もう話し合いは始めてるよ」
ニッコリ笑いながら言ってくるそいつは、俺たちのリーダーこと漆田哉だった。
身長はさほど高くなく、170後半の俺より10センチほど小さい。
しかしそれでも、こいつはモテる。
容姿端麗、成績優秀。その上運動もできるとくれば、身長なんて大して気にならないのだろう。
だがしかし、俺はこいつが嫌いだ。
「……そうか」
「君一人のために割く時間はないから、悪いけど話を進めるよ」
なぜならこうして毎回のように遠回しに嫌味を言ってくるからである。
理由は知らないが、こいつは男子に対しては非常に当たりが強い。
だからこそ男子から嫌われてるし、性格がいいという噂も聞かないのだろうが。
「分かった」
不満はあるが、それは顔には出さずに頷く。
下手なことを言ってこいつと喧嘩でもしようものなら、俺はここにいられなくなってしまう。
別にこいつに勝てないとは言わないが、まだこちらの世界のことは調べ終えていないのだ。出て行くには時期尚早すぎる。
「じゃあ、話を戻すよ。次は荻原さんーー」
表面上は従順だった俺に、すぐさま興味を失った漆田は視線を外して話を戻す。
それを見届けてから、俺は適当に空いている席に座った。
「……何してたんですか、和輝君」
俺が座ったところで、漆田を気にしつつ隣にいた女子が小声で話しかけてきた。
ちょうど誰かに今までの経過を聞こうとしていたところだったので、これ幸いとそちらに目を向ける。そこには思った通り、ほぼ唯一の女友達が座っていた。
「柚子希か、ちょっと調べ物しててな」
千葉柚子希。
地球にいた頃から俺に話しかけてくれる、貴重な女友達である。
誤解なきように言っておくと、別に友達が貴重なわけではない。
すこーしばかり女子が苦手なせいで女友達が少ないだけで、コミュ障ではないから男友達はちゃんといるからな。
と、話がずれた。
こいつは女子にしては珍しく、漆田の事を嫌いだと公言しているのだ。
曰く、「あの人は外面しか見てないし考えてない」だそうだ。
確かに、余り顔がよろしくない女子に対してはそこまで優しいわけではない。
だから言いたいことは分かるのだが……こいつがそれを言う理由が分からなかった。
なんせこいつは、誰がどう見ても美少女なのだ。
顔立ちは美人だし、スタイルも悪くない。むろん勉強も出来るし運動も出来る。髪が短めでボーイッシュなところを除けば、まさに大和撫子という言葉の具現化のような人物なのである。
それがどうして美女に対しては完璧に近い漆田の事を嫌っているのか。
答えは簡単で、気に入らないから。
その程度の理由で美少女に嫌われていると知ったら多少同情なりなんなりするのだが、相手が漆田となるとザマアミロとしか思えない辺り、本人の自業自得な気がする。
「……何か失礼な事を考えてませんか?」
「気のせいだろ」
勘良すぎだろ。
内心焦りながらも、努めて平常心で答える。
下手に誤魔化すとこいつは表情から読んでくるので、なるべく無表情でいられるようにした。
「……怪しいですが、今は何も言わないでおいてあげましょう」
その努力が功を奏したのか、目を細めるだけで特に追及されることもなく乗り切った。
「そりゃどーも。で、悪いんだけどさ」
「何があったのか教えて欲しい、ですよね?分かってますよ」
「さすが柚子希。じゃあ頼むわ」
「……便利屋扱いな感じがして気に入りませんが。まあいいです」
一瞬頬を膨らませるが、それ以上は感情を顔に出すことはなかった。
ここでふざけて、神様仏様千葉様とか言ったらどうなるんだろう、なんて考えたが、本当にそれをやったらタダじゃすまないのでやめておく。
「こほん。……まず、ですね」
気持ちを切り替えたのか何なのかは分からないが、一度咳払いをしてから柚子希は話し始めた。
主人公の名前は氷川和輝です。