聖女の願い
早めに書きあがったので投稿。
ようやく十話です。
【神眼】。
ネーミングについては考えないでおくことにして、実際にこれはどういう能力なのだろう。
俺は柚子希達と話しながらも、頭の片隅でそれをずっと考えていた。
柚子希曰く、「鑑定には身長や体重を見るような効果は無い」。
ランクも見れるという俺の言葉に驚いていたことから、そこも鑑定との違いだろう。
これだけ考えると、まるで鑑定の上位互換の能力のように思える。
しかし、その考えは正しいのだろうか?
そもそも鑑定には、明確な上位スキルである【鑑識】というスキルがある。
名前からは上位かどうかの判別がつき難いし、どういった効果なのかは知らない。
鑑定の能力すら知らなかったのだから当然だ。
それでも、現にそういった上位スキルがある以上、鑑定の上位スキルであるとは言えないのではないだろうか。
それに、もう一つ。
【神眼】という名前を付けたのは、別にカッコつけという理由だけじゃない。
天啓、とでも呼べる形で、ふっと思い浮かんだのだ。
まるで誰かが名付けて、それを俺の頭に刻みこんだように。
それを、ただの偶然として片付けることは……俺には出来ない。
勇者だった時、数え切れないほど神の奇跡としか言いようのない現象を目にしてきたのだ。
今更、天啓のような超常的なことが起こったところで、俺は疑問には思わない。
だから、俺はこう考えた。
【神眼】は、正しく神の見ているものを見れる……そんなスキルなのではないか、と。
◇
「それで、漆田の邪魔をする方法なんだが……その前に聞き忘れてたことがある」
「私……じゃないですよね。アルちゃんにですか?」
「ああ。……アルテミシア、お前は王に成りたいのか?それとも成りたくないのか?」
アルテミシアが、どうしたいのか。
一番最初に聞くべきことを、俺は完全に聞きそびれていた。
漆田とは結婚したくない、それが聞けただけで満足……というとあれだが、とにかく漆田の邪魔をする大義名分を得て、邪魔をする内容を考えることを優先してしまっていたのだ。
「アルテミシアが漆田と結婚しなくてもいい策は思い浮かんだんだが、これだと間違いなく王位は継げないことになると思う」
「王位継承権を放棄する……とかじゃ、ダメなんですか?」
「それもありかもしれないけど、場所を選ばなきゃいけないし、何より漆田の恨みがアルテミシアだけに行くことになるぞ?それでもいいのか?」
「良くないですね。ああ……本当に漆田君は面倒です」
「今更だな」
柚子希の台詞に苦笑いを返し、アルテミシアの方を見る。
俺たちの話を聞いて、顔を赤くしたり青くしたりと一人で百面相していたが、しばらくしてようやく答えが決まったのか、キリッとした表情でこちらを向いた。
「私は……王に成りません」
「へえ?」
面白がるような声が漏れる。
正直、予想外だった。
アルテミシアはかなり人情深いみたいだし、王、父親の事を嫌っているようにも見えない。
であれば、王になって欲しいという父親の願いを叶えるように動くと思ったのだ。
「今でもまだ、王になりたい、王になった方がいいんじゃないかという気持ちはあります。けど、そのために勇者様方のお力を利用するのは間違っている……そんな風に思うのです」
「だが、俺たちが召喚されたのはどう見ても王位争いのためだぞ?」
アグルムは奴隷にするためなんて言っていたが、それだけで勇者召喚なんて大きな事が出来るわけがない。
国全体どころか、世界で同意を得なければいけない位の大事だ。
まあ、俺たちが勇者をやっていた世界とは違って、他種族との軋轢があるこの世界でなら、そこまで他国の同意は得なくてもいいのかもしれないが。
ともあれ、勇者という名前の兵器を、三十人も召喚するなんて事がアグルム如きに一人で出来るわけがない。
勇者召喚は、国としてやった事なのだ。
そうでも無ければ、いくら俺たちが帰れなくて荒んでいたとはいえ、国を乗っ取るとまでは考えたりしない。
最低限、自由に動けるようにして貰えれば、勇者としての使命を果たしても良かったのだ。
残念ながらそうはならなかったし、そもそもこの世界における勇者の使命が何なのか分からないんだけどな。
「そうだとしても、です。この国の事に、他人を巻き込む事は正しいのでしょうか?」
「どうだろうな。どっちにしても、俺たちは「カルジェナ王国に召喚された勇者」として見られるんだ」
「それは、そうですけど。でも、「カルジェナ王国の勇者」である必要はないと思うんです」
「は?」
思わず唖然とする俺。
それは、王族としてはあり得ない発言だった。
自分たちが呼んだ戦力が、他国のものになっても構わないと言っているのだ。
王族どころか、この国の人間であればまず言うべきではない言葉だった。
「国としてみれば、勇者様方は手放したくありません。ですが、勇者様方という人間を見たら……この国の勇者でいろ、この国の為に命をかけて戦え、なんて傲慢なことは、私には言えないのです」
「……」
考えを、改めよう。
王族、というより人の上に立つ人間として。
ここまで度量の大きい人間は初めて見た。
臣下や国民、他国の人間まで含めて身を案じるその姿は。
まさに王族……いや、【聖女】。
そう、呼ぶに相応しいと思った。
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