狡獪狡猾なラスボス?残念俺は脳筋だ
ファンタジーゲームへ転生した。
夜寝て朝起きたら子供だった。喋れもしないし眼も見えない。
挙句の果てには聞こえる音は全て雑音。
転生したと分かったのは一か月して眼が見え始めたからだ。
目の前に何かいた身体。良い乳。良き母乳。
美味し。
まあそれはどうでもよろしい。
大事なのはステータス画面が常時展開されていたことである。
母乳美味し。
見たことのある画面。
張りのあるおっぱい。すぐに思い出した。
そう言えば童貞だったことをではない。ゲーム画面のことである。
生前ではそこそこ人気があったゲームだ。
そのゲームはレベル制を導入していて、ステータスも確か六つぐらいあった。
適当に力に割り振った記憶があるから正確には覚えていないが、確か六つ。
今見えてるのも六つ。
適当にフィールドを移動していたらエンカウントする魔物。
剣があれば魔法もある。武具を装備してもよし。なんなら拳も可。
素晴らしい世界だ。
レベルがあると言う事は当然成長上限もある。
どんなに頑張ってもレベルは99以上にはならない。
しかし、不可能を可能にする伝説のアイテムが一つある。
世界樹の種子。"力の実"を食べることで限界突破が可能なのだ。
99レベルが1000レベルまで上がることが出来る。
その力は絶大。
無敵。まさしく無敵。母親のおっぱい以外に抗うことなど出来ようはずもなし。
素晴らしいアイテムだ。
才能が無くてもそれ一つあれば天才を越えられる。
ゲームの世界だと分かっているから成長を実感することは容易い。
現時点で赤ん坊だと言う利点もある。
もう一度言おう。素晴らしい世界である。
俺はこの日誓った。
世界最強になると。力の実を食べて世界を支配してやると。
幼き頃の野望が三度心を支配した。
もう誰にも俺を止めることなど出来ない。
ついては、最強になるために力を止めなくてはならん。
よく食べ、よく飲み、成長しなくてはいけない。
だからもう少しおっぱいちょうだいママン。
生まれてから5年が経過した。
今の俺のレベルは12だ。
強い。
同年代に比べ頭二つ抜けている。
さすが俺。
暇を見て昆虫虐殺した甲斐もあると言う物よ。
木の板に拳打ちつける訓練の成果と言う物よ。
あ、ママンちょっと薬草ちょうだい。
しかしいい加減マンネリだ。
昆虫殺してもそう多くの経験値が入るわけではない。
せいぜいレベルMAXの勇者が初エンカウントスライムを殺している感じだろうか。
ここ一年間変化がない。
経験値バーが増えている感じがしない。
所詮虫けらからは虫けら程度の経験値しか手に入らないと言う事だろう。
わびしい。
と言う事でそろそろ違う生物の虐殺である。
周りにいっぱいいる人間なんかどうだろう。
一人二人減ってもよさそうなものだが。
と、獲物を探して窓の外を眺めていたら遠くに子供の集団を見つけた。
5~6人ぐらいだろうか。
たくさんいる人間の、さらに弱っちい子供の大群。
それを見たとき、ビビッときた。
見つけた。
カモだ。鴨葱だ。
あれを一網打尽にすれば20レベルにはなるんじゃないだろうか。
そう考えてしまってはもう止まらない。
やるしかない。作るしかない。血の池地獄を。
生首ちょんぱで逆犬神家である。
腕を取って縫って千手観音1000分の5である。
想像して、居ても立っても居られなくなり、
我が最強の装備、そこらの木の棒を持って家を飛び出す。
急がねばならぬ。待ってろ俺の餌。
途中、庭で洗濯物を干していた母に声を掛けた。
「ママン、ちょっと逝かせて来るよ」
「気をつけてね」
俺が駆けつけたとき、子供らは林の中で仲間割れを起こしていた。
4が1人をいたぶって遊んでいた。
予想外の事態。
むう。
ここは多い方に加勢して一人を確殺するべきか。
いや、奴らはまだ俺に気づいていない。
どうやら子供の服を脱がせるのにご執心なようだ。
今なら後ろから奇襲が出来る。
奴らは揃って図体はデカいがレベルはそこまででもない。
9~10。その程度。
楽勝。やれる。俺なら。
…………いや、待て。一人だけいるな12レベルの奴が。
4人の内で率先して服を脱がそうとしているあの巨漢だ。
あいつあの顔でレベル12ありやがる。
あいつは強い。おそらく今やれば俺とタメを張るだろう。
周りの三人を相手にしながら巨漢も相手にする。
無謀だ。ここはやはり一人を確殺する安全手でいくか。
そう思って、草木の陰から抜けようとする。
……いや、待てよ?
俺は動きを止めた。
そして思案する。
本当にそれでいいのか?
俺は再びその場に腰を下ろす。
確かに今4人を殺す案は危険だ。だって同格混じってるんだもん。
隠した3人を同時と共に同格を相手にする。
普通に考えて、そんなことしたくはない。したくはないが、しかし。
したくないからと逃げて良い物なのか?
そんなに簡単な道なのか? 最強の道は。
胡坐で考える。目を瞑り思案する。
外界の情報は全てシャットアウトだ。
「…………」
そして至った。
長く険しい最強へと続く道。
そのスタートラインへと。
俺は立つ。
木の棒を握りしめ、音を立てぬようにひっそりと。
そして構える。
格下一号の頸椎へ狙いを定めて。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
渾身の力で振り切った。
激戦であった。
一号を殺し、二号も殺し、残った三号には傷を負わせながらも寸での所で逃げられた。
そして残った巨漢と俺。
奴は凄まじい力で俺を返り討ちにせんと暴れた。
俺は確実に息の根を止めるため、急所以外は狙わなかった。
急所。其れ即ち金的である。
ゴルフの要領で、突きの作法で、俺は執拗に金玉に狙いを定めた。
この際棒でも良い。なりふり構わず、小さい体を活用し俺は股間を殴り続けた。
体感時間で1時間は戦ったであろうか。
しかし、巨漢が倒れたのは三号の呼んだ援軍の到着と同時だったため、恐らくそれほど長くは戦っていなかったのだろう。
援軍に大人を呼んだ三号に恨みを吐きつつ、俺は大人たちへ猛攻を開始した。
一人目はあっさりと倒れた。股間を抑えながら前のめりに倒れる大人Aに確かな手ごたえを感じた。
しかし、続くB、Cが曲者であった。
奴らはフォーメーションを組み腕力に物を言わせ俺を制圧した。
上から圧し掛かられ、武器は取り上げられ、万事休す。
俺は死を覚悟した。
良く見ればB、Cはレベル24、27の猛者ではないか。
敵うはずないのだ。こんな奴らに。
くッ、せめて俺のレベルがどれだけ上がったか確認したい。
それだけ確認できれば俺は満足だ。
鏡を、水でも良い。誰か。
俺は囚人のような気持ちで、さらなる援軍の到来を見守るしかなかった。
謹慎を命じられた。
名のしれぬ男に叱られ、母に褒められた。
何が何だかわからない。
もしかして、母が庇ってくれたのだろうか。
その豊満な身体を犠牲にして?
それはさせぬと、俺は謹慎を命じられたそばから家を出た。
向かうは俺を叱った男の家である。
朝から三人の女を侍らすその甲斐性。
見習いたいけど取りあえず殺す。
その殺意は、走ったおかげで聊か冷えた。
奴のレベルは確か50であったか。
真正面から戦っても勝てない。それは分かっている。ならどうするか。
決まっている不意打ちからの金的だ。
俺はそれしか知らぬ。其れしか出来ぬ。
ただただそれだけを考えて板を殴ってきたのだ。
急所に打ちこむ最強の一撃を。
まずは家屋に浸入だ。
庭に行き、開いていた窓から手早く入る。
おっと靴は脱がないと。土ぼこりを落す。
侵入は成功だ。
ニヤリと笑う。
そして男を探して一歩目を踏み出した。
進行方向の扉が勝手に開いた。
子供が一人立っていた。
まずい、見つかった!
木の棒で殺しに行く。
子供は唖然としているようだ。
行ける!やれる!
しかし、俺の行動は子供の後ろに居たターゲットの存在により中止せざるを得なかった。
男は俺の姿を目にとめて、一瞬にして険しい物へ変化した。
まずい。やられる!
一時撤退。最強に至るまでには敗北も必要だ。
走る。
このまま窓に飛び込んで空中で靴を履きそのまま逃げよう。
しかし、いつの間にやら窓が閉められていた。
馬鹿な!?
窓に直撃する。
罅が入ったのが体感で分かる。割れない。
俺の体重では割れなかった。せめて角ドリルが使えれば……。
呻く俺の側に立つターゲット。
厳つく険しい表情には怒気が感じられた。
レベルが上がっている。
69? 卑猥だ、詐欺だ。詫びとして死ね。
奴が俺に手を伸ばす。
ああ、死ぬのだな。諦めて、俺は意識を手放した。