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第0.5章 1幕 【第1章 エピローグまで読破済】

夕日のような朱赤の髪に、燃えるような真っ赤の瞳。茶色のコートに身を包んだ青年は、大きな白い翼をはためかせてとある病棟の一室へと降り立つ。


 その日は冬なのにも関わらす雨だった。近年まりに見る長雨にクリスマス前の町はなんとも寂しげだ。これが雪に変われば寒波が押し寄せるのだろう。


 そんなシトシトと降る雨の中。降り立った病室は窓が開かれており、青年は中にまで入ることが出来た。


 病室のベッドには1人の黒髪の少女が頭を垂らし肩を震わせている。膝の上で両手をきつく握りしめ握っているのは星の付いた髪飾りだ。


 髪飾りを見つめる少女の目は何日も泣き続けたのだろう、真っ赤に腫れあがっている。


 真冬の風が冷たく病室へ流れ込んできているにも関わらず、窓を閉めずに少女は涙を流していた。


 少女の前に翼の生えた青年は立つ。そして「決めたんか?」と声を出す。


 少女は何も言わない。まるで聞こえていないようだ。


「もうそろそろ決断する頃やで?」


 赤い髪をなびかせながら青年は優しく話す。その手には大きなバスタオルが抱えられていた。


 すると彼女の両手の上に小さな光の魂が静かに姿を現す。


 塊は弱々しく呼吸をしているように光る。悲し気に光るその塊を見つめ、青年は「な?」ともう一度優しく声を掛けた。


 するとその塊は大きく光り出し、形を変えていく。柔らかい光はそのまま人の形になり、やがて光るのを止めた。光が消えるとそこには少女の両手に手を添え泣いている少年の姿が現れる。


 つむじ辺りは若草で毛先に行くにつれ深緑へと色が変わる髪。少し筋肉質な身体付の少年はそのままベッドの隣に座りこみ、少女の両手に額を付けながら声を出して泣いた。


 その瞬間、少年の背中には純白の翼が生える。翼は曇天の空にも関わらず、煌びやかに光った。


 そんな少年を赤髪の青年は見守る。それが自分の役割だと知っているからだ。


 人間は死ぬと魂となり、この世から抜け落ちる。そして新しい身体へと魂は流れ生まれ変わる。


 しかし、自分達のように力の持った者はこうして別の生物に生まれ変わることがある。


 そう『転生天使』として……。


 転生を今まさに終えた彼は悲しみと戦っている。過去の生きた世界とは違う次元に来た悲しみと……。


 自分も経験した転生の瞬間。その悲しみは良く分かる。だから青年は若草色の髪の少年が納得するまでその場で見守った。


 そして少年が泣くのを止めこちらを向いた瞬間、持っていたバスタオルをゆっくりと肩に掛けた。


 裸のままベッドの隣に座る少年は、腫らした目を擦りながらバスタオルを握りしめる。その瞳は綺麗は金色をしていた。


「ありがとうございます」


 少年の第一声はそれだった。


「かまへんよ。おめでとう」


 青年の言葉に若草色の髪の少年は一瞬驚く。


「おめでとう?」


「そう、おめでとう。もう一度君は生まれたんやから」


「生まれた……」


「今日が君の新しい誕生日やん。だからおめでとう」


「……ありがとう」


 少年の言葉に赤髪の青年はニッコリと笑う。


「俺は転生天使・番号1523-85-2、ホムラ」


「ホムラ……さん」


「まあ、みんな先輩って呼ぶな」


「ホムラ先輩?」


「そう」


 ホムラは少し嬉しそうに笑った。


「君の名前を決めんとな……」


 そう言ってホムラは窓の外を眺める。外は長く続いていた雨が止みそうだ。


「レイン……」とホムラはその言葉を口に出す。


「レインってのはどうや?」


 その言葉に少年は少し戸惑ったが、スッとその場で立ち上がった。


 少年が立ち上がると同時に目の前の窓の外が明るくなる。雲の隙間から光が差し込んだからだろう。


 気が付けば雨は上がっていた。


「いい名前です。それに決めます」


 少年……いやレインはそう言った。


「俺は『転生天使レイン』」


 レインは名前を口に出し噛み締める。過去の名を捨てた瞬間だった。


 ホムラはレインの顔がはっきりと変わったのを感じる。『生気が帰って来た』そんな感じだ。


 ホムラの恩師であるジュラス元帥直属のご指名で今回の仕事を受けたが、何の心配もないようだ。


 彼は何の心配をしていたのだろうか……魂回収ランクSSと言っていたが、何の問題もない。


 寧ろホムラはこの少年、レインを気に入った。なかなかいい目をしている。そう思ったからだ。


「ほな、行こうか?」


 ホムラはそう言ってレインに問いかける。


「行くって……どこへ?」


「そりゃ俺達の生きる世界に……天界や」


「天界……」


「そっ! そこで生活して、人間の魂の流れを監視するのが俺達の役割」


 そう言ってホムラは微笑む。


「けど……君は『中界軍』に入るんがええかもな」


「中界軍?」とレインは質問する。


「うん。転生天使達で作られた軍隊のことやな。人間界で起こった魂の暴走を止めたり、天界での任務をこなす奴らのこと。君の運動能力ならきっと何か役に立つと思うんやけどな」


 そう言ってホムラはジュラス元帥に頼まれた中界軍への勧誘をさらりと伝える。


 今回のホムラの任務は彼を無事に転生天使にする事。そしてその彼に中界軍へ勧誘する事。この2つだ。


「……」


 レインはその言葉を聞き、少し黙り込む。そして「なるほど」とだけ言った。


「ささ、新しい世界にようこそ、レイン。歓迎するで」


 そう言ってホムラは笑顔でレインに手を差し出した。


 外から暖かい日差しが病室に差し込みだす。差し込まれた日差しにホムラの手は照らされる。


 レインは一瞬戸惑ったが、その手をゆっくりと握った。


 そして横で涙を流していた少女に「俺……もう少し頑張ってみるよ」と伝える。


 言葉に合わせるように病室はさらに光で明るくなっていく。


「お兄ちゃん?」


 顔を伏せて泣いていた少女はその光に窓を見つめる。


 その瞳の中には自分は映っていない。しかし、レインは少女に笑って見せた。


「七海、俺……まだ生きてみる」


 レインは少女に伝えると翼を大きく広げた。


「そっか……お兄ちゃんは泣いてないんだね?」


 少女は光を放つ窓を見つめなら微笑む。その光を兄と思っているようだ。


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 妹の言葉にレインは腫らした目を細め「いってきます」と答えた。












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