己の力
お師匠様の言う通り、都が騒がしくなって
きた。
私は緊張の続く日々の中にありながらも、
できる限り星読みをしたり、式盤で様子を
伺ったりした。
"主の器"
程遠いかも知れない。
しかし、己の力を高めなければ。
「慌てずとも、良いですよ。 自ずと備わる
物です。 まあ、力弱き主では、神将の
本領を発揮できませんが……」
お師匠様の言葉に、何も返せぬ自分が
悔しい。
しかし、慌てた所で仕方ないのも事実。
時が迫る中、歯がゆさが拭い切れない。
そんなある日、私はお師匠様のお使いに
出かけた。
近い場所なので、歩いて行った。
用事を済ませ、邸へと急いだ。
思いの他、時間がかかってしまい、夕焼け
空になりつつある。
闇の世界に包まれてしまう。
邸までは後少し。
足早になる。
その時……。
何やら気配を感じた。
神将ではない、別の気配……。
駆け足で道を進む。
瞬間ーー
私の目の前を何かが横切り、人家の土塀
に刺さった。
弓矢……?
土塀に刺さった物を見ていると、背後から
人の足音が聴こえた。
一人?いや、数人がバタバタ駆け寄って
くる。
咄嗟に振り返ると、薄汚れた衣を着、髪の毛
まで汚れた雑色らしき者達が、私目掛け
走って来た。
「殺ったか?」
「いや、 擦りもしねぇ」
そんな言葉が聴こえた。
「なんでぇ。 怪我もしてねえのか」
あっと言う間に男共に囲まれてしまった。
よくよく見ても、全身薄汚れている。
四、五人はいるであろう。
私は周囲を囲まれ、逃げ場を失った。
「 お前だな? 邪魔だてする陰陽師の
弟子って言うのは」
比較的中年の男が、薄笑いをしながら、
声をかけた。
手には先程の物であろう、弓矢を持って
いる。
「どなたですか? こんな無礼な振る舞い
などして」
懐から紙片を取り出しながら、男に尋ね
た。
「誰でもいいじゃねぇか。 お前さんには
消えてもらう」
弓矢を構えた。
他の者達も、それぞれ何か手にしている。
異様な空気が漂う。
男共の嫌な匂いも鼻に入る。
一人の男が、短剣らしき物を持ち、じりじり
近づく。
弓矢の男も、構えを変えない。
「念仏でも唱えてな!」
言った瞬間、弓矢を飛ばし、短剣も投げ
られた。
ひらり。
身を翻し、紙片に呪を唱え、男共に放つ。
紙片は見えない壁となり、男共の投げた
物がカンっという音と共に、跳ね除け
られる。
「てめぇ!」
数人の男が顔色を変え、襲い掛かろうと
した瞬間。
爆発とも言える音と衝撃が地面を揺らし、
男達が吹き飛ばされた。
「い、いてぇ!」
飛ばされた者達は、中々立ち上がれずに
うずくまる。
しかし、一人の男が立ち上がり、再び
私目掛けて襲い掛かってきた。
ドーン!
二度目の衝撃が走った。
男はまたも飛ばされ、今度は呻き出した。
私は何が起こったのか分からずにいたが、
ひとまず急いで邸へ走った。
邸に戻り、事のあらましをお師匠様に
報告した。
息があらくなっていた私を落ち着かせ、
「そうですか……。 無事で何よりでした。
……しかし、 衝撃が走ったと?」
何やら思案気に尋ねた。
「はい。 神将の気配はありませんでした
が、 急に衝撃が走り、男共を……」
確かに神将の気配はなかった。
こんな時にはいつも側にいるのだけれど、
事態が事態なだけに、色々と探りをさせ、
宮中の警戒にあたらせてもいた。
「ふーん……。 となると、楠葉の自身に
よる物やも知れませんねぇ……」
「私、ですか……? まさか……」
「神将はいない。 しかし、衝撃を走らせ
た……。 考えられる事です」
信じ難い話である。
私自身の力によるもの。
「 そうであれば、 楠葉にますます危険が
及ぶ事になります。 油断せぬよう」
複雑な心境である。
が、己の力であるならば、神将の力も
高まる。
そんな風に考えている中、私の知らない
所で、怪しい者達が少しずつ、動き出して
いた……。