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「ねえ、ギャロ、お墓参りに行っておいでよ」
「は? 今からか? そんなの、無意味だろ」
こちらでの墓参りと言えば、生きている者たちが思い出を語り合うために墓前で宴会を催すことを言うのだ。だが、ギャロには母を語る思い出があまりに少ないのだから……。
「兄さん、俺と一緒に行こう。母さんの話をたっぷりと聞かせてやるよ」
「だが、店もあるし……」
それに関しては、隣の屋台から助け舟が出た。
「嫁さんに任しちまいなよ。なあに、ここからはちょうど暇な時間なんだし、俺もちょくちょく覗いてやるからよ」
確かにネロなら、いつもギャロの隣で屋台を開いているのだ。商売ごとの流れも解っているのだし、何の不安も無い。おまけに、小さな姪っ子も伯父の腕から飛び降りて胸を張る。
「私もお嫁さんのお手伝いする。大丈夫、しっかり者って言われてるのよ、私」
「ああ、確かにお前はしっかりしているよ」
断りきれない。ギャロは少し肩をすくめる。
「でも、本当に無意味だと思うぞ。死んだ人間のことを今更知ったって、どうにもなら無いじゃないか」
「違うのよ、ギャロ!」
美也子の声は、驚くほどに強かった。
だが、そもそも死生観の違う世界のことだ。うまく伝わるか、不安はある。
「それでもギャロは、お母さんに会うべきだと思う。お母さんに会って、今まで辛かったって、会いたかったって言うべきだと思う」
「死んだ人間には会えないぞ?」
隣の屋台からネロが飛び出してくる。それは美也子にこれ以上のボロを出させないための配慮でもあった。
「そうじゃねえよ。どうせ死んじまった人間には何一つわかりゃあしないんだ。今までの恨み言を全部吐き出して楽になって来いって事だよ」
「そう、そういう感じ!」
「ってことで、行った、行った!」
ネルに追い払われるようにして、弟に手を引かれて、ギャロは墓場に向かう。後に残されたギャロリエスは、胸をなでおろす美也子とネルに無邪気な視線を投げた。




